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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第六章

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第三十三話 運命の糸

 その日の学校の廊下は、その場に似つかわしくないピリピリとした雰囲気だった。


「うお! ……なんだアイツ」

「あっ! みか……ひっ!」


 多くの生徒達が彼を見た途端に驚き道を空ける。

 彼に声をかけようとした女子生徒も恐がって後退りする。

 そんなピリピリとした環境を作り出している原因の人物。

 その彼とはいつも以上に不愛想な顔で近寄りがたい雰囲気を纏って廊下を歩く清慈郎だった。




 清慈郎が不機嫌な理由は昨夜の事件の反省をしていたからだ。


 魔法使いと戦ってしまった事は後悔していない。

 記憶を探る術を使った事も別にいい。

 問題はその後。


 何故自分は流星群の観察などに付き合っていたのか。




 昨夜、黒幕の正体も分かり全てが終わった時、タイミング良く天体ショーが始まった。

 それを見た透人が「ちょうどいいから人を呼ぶのは後にして見ていこうか」と言い出したのだ。

 清慈郎は勝手にすればいいと言い残して帰ろうとしたのだが、透人が「観鳥さん、俺は疲れてるし箒壊しちゃったからアレだけど。折角だから御上君と上で一緒に見てきたらいいよ」とアンナを唆したことでそうもいかなくなった。

 最初は断ろうとしたのだ。

 だが、アンナの楽しみだという笑顔を見ていたら無下に断るという選択肢を選べなかった。そうしてあれよあれよと話が進んだ結果、いつの間にか箒に二人乗りで飛んでいたのだ。

 魔法か何か知らないが、狭くて不安定で密着せざるを得ない乗り物に向かない代物。

 おかげで清慈郎は流星群どころではなく、とても見る余裕などなかったのだった。

 アンナは全く気にせず綺麗だねと喜んでいたが。




 散々否定していた力を使っての遊びに自ら参加してしまった。

 思い返したくもない恥ずべき失態。

 そうなってしまった原因は何かと考えると、あの時のアンナの笑顔が脳裏に浮かんだ。


 今朝になっても消えなかったアンナの顔。

 その理由は何かと考えた時思い当たる事柄はあったが、全て気の迷いだと切り捨てる。

 二人乗りの時に落ち着かなかったのは落ちるかもしれないという恐怖からだ。他に理由はない。


 あの戦いを切り抜け黒幕まで解った以上、もう手を貸す道理はないのだ。

 仕事に支障をきたさない為にもこれからは極力関わらない様にしようと心に決めた。


 しかし、教室の扉を開け自分の席に着こうとして視線を向けた時、重大な事実を忘れていた事を思い出す。


 清慈郎の席のすぐ後ろにはアンナが座っていた。

 つまり、二人の席は前後に並んでいるのだ。

 これでは嫌でも避けられない!


「ブフッ!」


 だったらもう覚悟を決めるしかない。


 清慈郎は気配を絶ちなるべく静かに自分の席に着こうとした。

 が、アンナが目立つ清慈郎を見逃す訳もなく。


「あ! せいじろうくん、おはよう!」

「あ………………ああ」

「フフフ」


 清慈郎は言葉に詰まったものの何とか声を絞り出す。その後にも話を続けてきたが、それは無視した。

 アンナにも他の者にも不審に思われる前にさっさと席に着く。

 そして、ざわついた心を鎮めつつ、今後の対応を検討した。


 席の配置がどうしようもない以上、この環境に適応していくしかない。

 だったら前向きに捉えよう。

 どんな状況でも精神統一する為の訓練だと思えばいい。

 それに、見られているのも落ち着かないが、前の席にいてずっと視線に入ってしまうよりはいいだろう。

 と、そういう思考に至った時。


 ふと我に返り、いや、待て自分は何を考えている? と机に両肘を立てて頭を抱えた。


「ぷくくっ」

「フフフフフ」

「?」


 そこで清慈郎は疑問を抱く。

 先程からやけにはっきりと笑い声が聞こえてくるのだ。何度も聞こえるからには気のせいではないのだろう。

 他のクラスメイトの話し声は互いに混ざりあって雑音にしか聞こえないのにそれだけが確実に耳に届く。

 とはいえ、だからどうしたという話である。少し気にさわるくらいで特に問題ではないのだ。

 自分に関係ない事だと気持ちを切り替え、再び心を落ち着けようとする。


「いやいや、あんたのせいだから」


 すると今度はそんな言葉がはっきりと聞こえてきたのだった。



  *



「今朝教室に入ったら御上君に睨まれたんだけど、やっぱり昨日のアレが原因だと思うんだよね」

「フフフ。まあ、確かにいきなりアレはハードルが高かったかしらね」


 恒例の理事長室での密会。

 本日の話題は昨夜の事件、というよりも清慈郎の心情の変化である。

 透人は普段の無表情だが、笑亜は実に楽しそうにニヤニヤとしていた。


「でも、人のせいにして欲しくはないわね。あの指令を進んで引き受けたのは貴方なのよ?」

「いやぁ、下っぱとしては幹部の命令には従わないと」


 笑亜の言う指令とは昨夜の事件が解決した後にテレパシーで透人に伝えたものだ。

 指令の内容とは言うまでもなく清慈郎を引き留め、アンナと箒に二人乗りをさせる事である。

 透人はそれを迷わず実行して完遂させていた。

 命令だから嫌々、ではなくむしろ生き生きと行動していた上に悪びれた様子もない。


「フフフフフ。やっぱり貴方もいい性格をしているわね。それでこそ私達の仲間に相応しいと言えるのだけれど」


 笑亜はそう言うとテーブルに置かれていたコーヒーを優雅な動作で口にした。

 透人は自分の前にあるコーヒーに砂糖を入れながら感じていた疑問をぶつける。


「ところでさ、何でテレパシーまで使って介入してきたの? 今まで何かあっても口出ししてこなかったのに」

「そんなの決まってるじゃない。勿論面白そうだったからよ」


 微笑みを添えての返答。

 それは確かに笑亜が言いそうな内容だ。

 しかし、透人は納得しなかった。コーヒーを一口すすってから質問を重ねる。


「でもさ、昨日は何かが特別だったんじゃないの?」


 すると笑亜は透人の返しを予想していたのか、一拍もおかずに嬉しそうに微笑を深くして続きを語った。


「フフフフフ。ええ、そうね。昨夜は特別だったわ。なにせ、やっと揃ったのだもの」

「揃った? 俺はまだ"主人公"全員に会ってないよね?」

「そういう話ではないわ。揃ったのは……ペアよ」

「ん? あー、成程?」


 笑亜は透人が理解したようなしてないような判別しにくいリアクションをしたので話を補足する。


「他の"主人公"は貴方が知らない人も含めてちゃんとペアになっていたのよ。特殊な事例はあってもね」

「んー。紅輝に黄山君に日村さん、には……うん、いるね」

「そうそう。あの二人だけ今までいなかったのよ。特に御上君みたいな人はヒロインと関わっていく中で丸くなっていくが王道なのに。まあ、でも、これからやっとそういう展開になっていくのね。少し心境の変化が早すぎる気はするけれど、まだまだ自分では認めたくないみたいだからその辺りがどう変わっていくかが見物ね」


 何やら他人の未来について勝手な事を長々と喋る笑亜。

 普通なら呆れるか怒るかするところなのだろうが、透人は呑気にコーヒーに砂糖を追加しながら聞いていた。

 そして、笑亜の話が一区切りついたところでふと思いついた疑問を口にする。


「というか、余ってたんなら観鳥さんと俺のペアにはならなかったの?」

「何を言っているのよ。貴方には私がいるじゃない」

「ん……まあ、うん。それもそう……か」


 透人の質問に笑亜は間髪入れずまるで常識の様に答え、その言葉に透人にしては珍しく動揺した。

 それを満足そうな顔で見ていた笑亜だったが、ふと表情を真面目なものに切り替えると真剣な声音で話し始める。


「イレギュラーなんて特殊な存在は世界中で数年に一度しか生まれない。その筈なのに同じ年、同じ国に二人の、しかも男女のイレギュラーが生まれた。これはもう…………」


 そこで一旦溜めると、直前までの真面目な表情とは真逆の悪戯っぽい微笑みをつくって、こう続けたのだ。


「運命に定められた出逢いとしか思えないじゃない?」


 本気で言っているともからかっているだけともとれる内容と、真意を読み取る事の出来ない妖しい魅力を持った笑亜の微笑。


 それらに対して透人はどうリアクションすればいいのか解らなくて、とぼける事も出来ずにただ黙っていた。

 そのまましばらく沈黙を続けていた透人だったが、やがて困った様に頭をかくと、動揺していたせいで砂糖を入れすぎて甘ったるくなったコーヒーをちびちびと飲むのだった。


 投稿開始から週一更新を続けてきましたが多忙の為来週は休みます。




 再来週からのエピソードでは遂にあの人がメインとなります。

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