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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第六章

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第三十一話 視える者視えざる者

 魔法使いとはいえ、魂の力に関して言えば普通の人間と変わらない。だから必要以上に魂に傷をつけるのはまずい。

 今倒れた魔法使いにも手加減していた。

 半日は目覚めないだろうがその後の生活に問題は無い筈だ。

 悪人だからといってその魂は守らねばならない。


 清慈郎は闘志を高めながらも、心を落ち着けてより一層集中する。

 そして少し上を飛んでいる魂、透明化した魔法使いを狙って魂の刃を振るった。

 見えざる敵に見えざる刃が迫る。

 しかし左から迫り胴体を通り抜ける筈のそれは寸前で回避された。


 常人には認知出来ない攻撃。

 それでも清慈郎が腕を振ったのと同時に男が倒れたのだから、その関連性から清慈郎が何かをしたのだという事は解る。

 更に魂の刃は腕の延長上にあるので、腕の動きを見れば刃自体が見えずとも避けるのは不可能ではない。

 事実、例の魔法使いは必要以上に大きく回避していた。


 動揺はしない。

 清次郎は再び切り込もうと立ち位置を調整し、右に振りきった腕を返す。

 ところが仕掛ける前にに突風が吹き荒れ、体勢が崩されてしまった。

 天井に穴が空いているとはいえここは室内。

 なのにそんな風が吹くという事はこれも魔法なのだろう。

 だからといって負けてはいられない。

 ゴウゴウと吹く風の中、日頃鍛えた肉体を活かして踏ん張り、無理矢理構えをとろうとする。

 そこに透人の声が聞こえた。


「ブロック」


 途端に風の勢いが弱まる。

 透人も魔法を使ったのだろう。

 おかげで無理をしなくてもよくなった。


 素早く体勢を整え、腕を振り抜く。

 風による妨害で油断していたのか相手の反応が遅れる。

 といっても足首を捉えただけでギリギリ逃げられてしまった。

 それでは肉体への影響は無いに等しい。

 悪霊との戦闘とは勝手が違う。もっと動作を速く小さくしなければならない。


 構えを調整し、追撃に移ろうとした時。

 今度は瓦礫が降ってきた。それほど大きくはないが位置は清慈郎の真上。

 慌ててその場から飛び退く。

 直後に瓦礫はドコッと音を立てて落ちた。清慈郎の頭上の空中に。

 どうも避ける必要はなかったようだ。

 これも透人の仕業なのか。

 問い詰めたいがその時間が惜しい。


 瓦礫もまた自然に崩れた訳ではないのだろう。

 確認しようと天井付近を見上げる。

 するといつの間にか髭面の男が姿を表していた。

 近くまで逃げていた未だ姿を隠しているもう一人の方を向いて口を開く。


「どうせ隠蔽の意味はないんだ。さっさと解いて風化に回せ」

「……了解です」


 その返答と共に眼鏡をかけた若い女の姿が表れ、そして吹いていた風が止んだ。

 その代わりに何をするつもりなのか。


 何かが始まる前に先手を打とうと動くがもう遅かった。

 空中に留まっていた瓦礫が再び落下を始め、同時に風が吹き抜けたのだ。

 瓦礫は当たらなかったし今回の風は動きを制限する程強くないが、瓦礫はあとからいくつも追加される。


「ブロック」


 先程も聞いた透人の言葉。

 それから落ちてきた瓦礫は一度空中で静止するが、すぐに落下を再開して床まで到達する。


「一体どうなってる?」

「まあ、何かされたんだろうね」


 透人は首を横に振り、上方を指差した。

 どうやら当てに出来ないらしい。

 それでも天井から新たな瓦礫が落ちてくる。

 瓦礫一つ一つの大きさは大したことなく避けるのは容易い。

 しかし、周りにいるのは清慈郎と透人だけではないのだ。

 アンナに加え、悪霊に取り憑かれていた男達も倒れている。


「ショット」


 そうした者達の上に降る瓦礫を透人が吹き飛ばした。

 清慈郎も落ちていた鉄パイプを拾い別の瓦礫を弾く。

 腕が痺れようとも捌ききれずに怪我をしようとも歯を食いしばって耐える。

 見捨てる事など出来はしない。


 自分の身と他の者を守りながらも合間を見ては二人の魔法使いを攻撃する。

 しかしそれは全く当たらない。

 魔法使い達は清慈郎の行動を一瞬も見逃すまいと注視していたのだ。

 瓦礫がさほど大きくないのも見失わないようにする為か。

 疲労に怪我、僅かな時間。

 ただでさえ悪い要因が重なっているのに回避を優先されては当てるのは難しい。


 瓦礫を透人に任せようにも人は一ヶ所に固まってはいないので全てをカバー出来るか分からない。

 相談しようにも動き回りながらでは瓦礫の落ちる音や風の吹く音が邪魔だ。

 考えを巡らせても打開策は見つからない。

 ならばこのまま続けるだけだ。こちらは一度でもまともに当てればいい。一瞬の隙も逃さない。


 そう決意した時、視界に白いものが舞った。


 その正体を確かめようと顔を上に向けたまま視線だけで出所を見る。

 そこでは大量の白い紙が透人の手から飛んでいっていた。

 ヒラヒラと風に乗り、散らばりながらも部屋の隅へと流されていく。ただ、中にはそこから更に天井まで飛んでいくものもあった。

 そしてそれらの一部は魔法使い達にまとわりつく。


 集中力を乱すつもりか、とも思ったがすぐに風で流されてしまう。あとから来るものも同様。

 支障はなかったようで風も瓦礫も相変わらずだった。

 何をするつもりだったのかと清慈郎は瓦礫に対処しつつも、ちらりと透人の様子を窺う。

 すると透人は顔をしかめて天井を見上げ、メモ帳を持ったままの右手で頭を押さえていた。


「……うん、いける、かな」


 透人は何事か呟きつつメモ帳のページを千切り、風に流す。

 それらは先程と同じ軌道を辿り魔法使いの体に一枚ずつ張り付いた。


 ただ、そんな事はお構いなしに瓦礫の雨は降り続く。

 清慈郎は瓦礫を弾き、透人は口を開く。何度も繰り返された行動。

 しかし透人が引き起こした現象は瓦礫を吹き飛ばす事ではなかった。


「っ!?」


 突如二人の魔法使いが落下したのだ。

 眼鏡をかけた女は訳も解らず呆然としていたが、髭面の男は苦い顔をしながらも懐に手を入れて何かをしようとしている。


「ショット」

「ぐっ!?」


 それを阻止したのは透人だった。

 頭上の瓦礫を吹き飛ばし髭面の男にぶつけたのだ。

 下を見ていなかった髭面の男は寸前で反応したものの、なすすべもなく沈黙した。

 それを目撃した眼鏡の女は悲鳴に近い声を出す。


「砂塵さ」


 ただし最後まで言い切る事は出来なかった。

 透人に負けじと清慈郎が魂を切り裂いたのだ。


 若い男と同じように手加減はした。

 といってもそのまま床に落としては意味がない。

 透人なら何とか出来るだろうが、もしかしたら一人しか間に合わないかもしれない。そうなった場合自分で受け止めるしかないのか。

 それが今日最後の仕事なら我慢するか、と無茶を承知で眼鏡の女の真下に移動する。


 その直後。

 天井が崩壊を始めた。



  *



「撤退、か……」


 砂塵は瓦礫に埋まる眼下の光景を見下ろし一人呟く。

 そこには生かすべき標的も部下もいたが無事だろう。瓦礫の高さからして床ではなく魔法による障壁の上に落ちている筈だ。

 瓦礫が衝突した際は意識が朦朧としたが気力を振り絞って崩壊の魔法を発動し、あの二人がそれに対処している内に逃げてきたのだ。


 部下が気絶し己も不覚をとってしまった。

 一人になった今、リスクは避ける。最後まで戦うメリットは少ない。

 部下が捕まったところで情報が漏れる心配はない。

 むしろ謎だった協力者を確認出来たのは大きな収穫だ。詳細不明の魔法の使い手の情報もある。

 対策を練り、次こそ万全を期して望もう。


 砂塵は次の機会における作戦を立てながら隠蔽の魔法を発動させて夜の闇へと紛れていく。

 その途中で、隠蔽の魔法の影響を受けていない異物がある事に気づいた。

 それは一枚の紙。服に引っ掛かっていたので手でとって捨てようとして、止めた。

 捨てる直前で目に入ってしまったのだ。

 紙に描かれた魔法陣が。

 その意味は―


「フォール」


 声量は大きくはない、むしろ静かな少年の声。

 それが不思議とはっきり聞こえ、その事を認識した途端に急激に高度が下がっていく。

 飛行魔法が打ち消され、新たに使う事も不可能。

 ならば追撃の前に先手を打つのみ。 懐から一冊の本、魔法陣が描かれた魔法書を出して唱える。


「石よ躍れ」


 砂塵の魔法により部屋中の瓦礫が振動を始め、そして一斉に浮き上がり未だ立つ二人に襲いかかった。

 全方向からの強襲。

 隙間なく多い尽くす瓦礫の弾幕。

 標的も巻き込む恐れがあったので使わなかったのだが、こうなっては自分の身の安全を優先した。

 砂塵は苦汁を味わわされた二人が瓦礫に押し潰される事を確信し、着地の準備を始めようと魔法書のページを捲る。


 が、そのページがひとりでに、いや風によって捲られた事で確信はまだ早かったのだと思い直した。

 急いで状況を確かめようと魔法書から視線を外す。


「……っ!」


 そうして視界に広がったのは一陣の旋風。

 容赦なく少年達を押し潰す筈だった瓦礫はその旋風の壁に呑み込まれていた。

 風はビュウビュウと唸りをあげて瓦礫を巻き上げ、誰もいない場所へと運んでいく。


 旋風が収まった後、唖然としていた砂塵が目にしたのは。

 傷つきながらも凛々しい立ち姿でこちらを睨みつけている標的の少女と、ぴんとのばした腕を頭上に掲げた少年。




「これで、本当に終わりだ」


 そして、不可視の刃は降り下ろされる。


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