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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第六章

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第二十五話 類は友を呼ぶ

「あの、昨日はありがとうございました」

「ああ昨日の子か。いや、オレはたまたま通り掛かっただけで大した事はしてないよ」


 とある日の朝の学校。

 どこにでもいそうな外見をした彼は少女と二人、教室の入り口に立っていた。

 そんな場所で会話しているのは他のクラスから訪ねてきた少女が少年を呼んだからだ。


「いえ、充分凄い事ですよ。私は感謝しているんです。

 ……それでその、もしよかったら、でいいんですけど……」

「何? どうかした?」


 少女は顔を赤らめながら何か大事な事をを言おうとするが緊張しているのかなかなか言い出せない。

 時間が過ぎていく中、彼は無理に急かさず優しい眼差しをして待っている。

 それを見た少女は意を決して話し出そうとした。

 しかし、その瞬間別のところから声がかけられたのだった。


「あらあら、吉野(よしや)さんったらまた新しい女の子をたらしこんだんですね」

「全く、毎回毎回いい加減にしろよな」


 突然話に割り込んだのは、いかにもお嬢様といった感じの少女だった。

 それに続いたのは中性的な顔立ちの少女だ。


「え? たらしこんだ?」

「ちょっ! 人聞きの悪い事言うなよ! オレはただ、この子が困ってるところに通りがかって助けただけだから!」


 二人の言葉に少女は戸惑う。

 その間に彼は納得がいかず激しく反論した。

 しかし、二人の少女はあっさりと切り捨てる。


「たらしこんだのは事実でしょう」

「そうそう。そうやって助けた女子に手を出すのが吉野の手口だからな」

「何言ってんだよ! オレはそんな事してないだろ!?」

「そうですか」

「へぇ~」


 彼は再び否定したものの、二人には冷たい目つきで睨まれてしまった。

 それに圧倒された彼にはもう口を開く事が出来なかった。冷や汗すらかきながら身を縮ませる。

 そのまま居心地の悪さに耐えているところに助けが現れた。


「言い過ぎだよ、二人とも。吉野は運が悪くて優しいだけなんだから」

「おお! 味方はお前だけだ!」


 新しく現れたのは優しく微笑む少女。

 今の彼にはまさしく救世主である。

 冷たい視線から逃れようと彼女に駆け寄っていく。


「お?」

「え?」


 しかし、その途中で足をもつれさせて転び、少女を巻き込んで倒れてしまった。

 彼は急いで起き上がろうとしたものの、状況を知って固まる。


「「あ……」」


 倒れた拍子に彼の手は少女の胸の上に置かれていたのだ。


 そして、固まっている本人達を他所に、その事態を客観的に見ていた者達によって教室は喧騒に包まれる。


「またかテメェ!」

「ふざけんな!」

「このへんたーい! 女の敵ー!」

 カシャッ

「どさくさに紛れて何やってんのお前!?」

「爆発しろ!」

「オレと代われ!」


 数々の怒声で我に返った彼は慌てて起き上がって謝る。


「あっ、ああぁっと、ゴメン!」

「だ、大丈夫だよ。私は気にしてないから」


 気にしてないと言う割に少女の顔は赤かった。

 彼の顔も同じ色だったのだが、すぐに青ざめる。

 身の危険を察知したのだ。


「吉野さん?」

「吉野ぁ?」


 名前を呼んだ二人の顔からは笑顔の筈なのに恐怖を感じた。

 そこで彼は何とか怒りを収めてもらおうと説得を試みる。


「ちょっ、ちょっと待ってくれよ! 二人が怒るのはおかしいだろ!?」

「いえ、女性に対する失礼な振る舞いは許せません」

「悪事を働いたんだからこれぐらい覚悟しとけよ」

「いやいや、悪事って! 今のはただの事故だろ!?」

「事故ねぇ。本気でそれで済むと思ってんの?」

「吉野さんの場合、その事故が多すぎるんです」


 またも冷たい視線が向けられた。心なしかさらに温度が下がっている気がする。

 いたたまれなくなった彼は残された最後の希望にすがりつく。


「お前は分かってくれるよな?」

「え? あ、あははは……」


 しかし、困ったように笑うだけで否定してはくれなかった。


「吉野さん諦めて下さい」

「今日のところはお説教で許してやるからさ」



  *



 吉野が怒られている間もずっと男子生徒(と一部の女子生徒)による罵声は止むことがなかった。

 教室にいる男子生徒の中ではそれに参加していない方が少数派である。


 それは「下らない」とばかりに一切興味を示していない清慈郎や、「止めなくていいの?」とおろおろしている力雄。そして、無表情で隣の席の生徒と話をする透人等といった面々だ。


「神無月ならアレが何か解る?」

「フフフ。さあ、一体何なんでしょうね。アレ」

「やっぱり"主人公"とは関係ないの?」

「ええ。あの染井(そめい)君はどこからどうみてもラブコメの主人公なのだけれど……組織がスカウトした覚えは無いわね」


 透人は笑亜に吉野と女子生徒による騒動について意見を聞いていた。

 このような事は今までにも何度かあったのだが、裏の世界とは関係無さそうだったので笑亜に聞くのは筋違いかと思っていた。

 しかし、今回でもう興味を押さえきれなくなり聞いてみることにしたのだった。


 ただし、吉野の存在は笑亜にとっても予想外だったらしい。本来の意味でのイレギュラーなのだろうか。


 そんな考え事を止めて笑亜に注意を向けると、愉しそうに妖しい微笑みを浮かべていた。


「もっとも、集まってもらった"主人公"の中にああいう人はいなかったからちょうどよかったのよね。黄山君がそれっぽいかと思っていたのだけど違う様だし」


 透人はその言葉から笑亜は完全に遊ぶつもりだ、と思ったが話に乗った。

 見て楽しむだけで他人に迷惑をかけないのだから、楽しみにつきあっても問題無いという考えだった。


「確かに女子に人気があるのは同じでも、御上君とは違うね」

「ええ。染井君は御上君に比べると量より質ってタイプみたいよね……ああ、今の質というのは女の子の質ではなくて愛情の質という意味よ」

「あぁ、うん。なんとなく解る」


 見た目で一目惚れするのと、何かきっかけがあったものとで、どちらが深い愛情があるという訳ではないだろう。

 それでも言いたい事は伝わった。伝わらなかったところで何の支障もないどうでもいい事なのだが。


「あれ? みたいって事は知らないの?」

「その辺りの事情はまだ諜報員に調べて貰っている段階だから分からないのよ。もっと早くこんなに面白いと分かっていれば良かったのだけれど調査不足だったわね。まあ、"主人公"よりも後回しになってしまうでしょうから同じだったかもしれないわね」


 笑亜は何処か残念そうに言った。

 どうやら諜報員に余計な仕事を与える程吉野が気に入っているらしい。

 それでも"主人公"達の方を優先するようだが、一体何の為の諜報活動なのだろうか。やはり楽しむ為だろうか。


 それはそれでいいとして笑亜の話が途切れたので透人は新しい話題を提供する。

 先程からずっと心の中に溜まっていた思いがあるのだ。


「何かさ。今まで色々巻き込まれてきた中でアレが一番信じられないというか、受け入れ難いというか。とにかくモヤモヤしてるんだけど」

「フフフ。超常の存在よりも?」

「うん。そういうのはそういうものだって割り切れたんだよ。

 でも、アレは…………うーん」


 そうして透人は腕を組んで眉を寄せた難しい顔で悩み出した。

 それを見て笑亜は呆れた様に笑う。


「フフフ。貴方はまた、変なところでどうでもいい悩みを抱えたわね」

「何でだろ? 確率はもの凄い低くても普通に起きる可能性があるからかな? 大袈裟な嘘の方が信じられやすいって言うし」


 笑亜が笑う横で透人は答えの出ない考察を始める。


 そうしながらも気になったのでたまに吉野達の様子を窺う。

 すると吉野が何かを言ったり手を握ったり頭を撫でたりする度に、誰かが照れたり怒ったりビンタしたりとなにかと忙しそうにしていた。


 しかし、なにを言っているのかは分からない。

 男子生徒の心からの叫び(と一部の面白がっているだけの野次)もまだ続いていてうるさかったからだ。


「いつまで続ける気だ、テメェ!」

「見せつけてんじゃねえ!」

「このへんたーい! 女の敵ー!

 あ、これ渡すから別アングルからも撮ってきてくれない?」

「いや、アタシはやらないからな!? というか、いい加減やめてやれよ!」

「爆発しろ!」

「羨ましいんじゃぁぁっ!」


 誰も止める事のないこの騒ぎは終わりそうもなかった。


 が、先生が扉を開けて入ってきた途端に沈静化した。

 先生に怒られまいとしてクラスが一つになった結果である。

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