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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第五章

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第二十四話 二つの課題

 力雄は困惑していた。

 それというのも登校してすぐに自らの秘密に関わる話を振られたからだ。


「そういえば聞きそびれてたんだけど、あの美夏さんは学校に通ってないの?」

「え? えぇっと、ちょっと……」


 話しかけてきたのは透人だった。

 既に知られている相手に今更隠すような情報ではない。

 とはいえ、こんな人前で話す内容でもない。もし他の人に聞かれて秘密が広まってしまっては、下手すると力雄だけでなく妖怪全体の問題になってしまう。


 しかし、力雄は質問に答えることにした。

 ただでさえ人間の為になるなら大抵の事はするつもりなのだ。

 それが知り合いともなれば尚更であった。

 とりあえず教室の隅に移動してからヒソヒソと話し始める。


「えっと、美夏は妖力があんまり強くなくてね。人間への変化をずっと維持するのが難しいんだよ」

「それで黄山君だけが学校に来てると。じゃあ黄山君は大丈夫なの?」

「うん。僕はずっと人間のふりをしてきたから……本当なら僕もいない方がいいんだけどね」


 力雄は自嘲した。

 この時代に妖怪が平穏に暮していくには人間と共存していくしかない。その為に力雄は正体を隠して人間社会で生きてきた。


 だがしかし、生物としての常識から外れた妖怪なんて存在は本来いてはならないのだ。

 人間と妖怪が一緒にいては問題が起きてしまう。

 それを理由に力雄は適度な距離をとるべきだと考えていた。

 だから透人とも本気で親しくなるつもりはなかった。


 のだが、そんな力雄の考えなど透人にとっては関係ない様だ。


「ところで昨日のゲームセンターはどうだった?」

「え?」


 話題の急展開についていけずに力雄は戸惑う。

 先程の質問との関連性が見えない。

 今度の質問の意図が全く解らず、どう答えればいいのか分からなかった。

 そんな力雄に透人はもう一度問いかける。


「楽しかった?」

「えぇと、まあ、うん……」

「ふーん。なんかあんまり楽しめなかったみたいだねぇ」


 力雄は曖昧な返答をして頷いたが透人には嘘だと見破られてしまったようだ。

 しかし、つまらなかったのではない。

 自分が楽しんでなどいけないと思っていたのだ。

 やはりそんな自分がいては迷惑だっただろうか。

 断った方が他の人の為になるのかもしれない。


「じゃあ今度はいつにしようか」

「え?」

「今日はアレだけど明日でいいかな。次は充が張り切って布教しようとするかもしれないけど頑張って」

「え? あ、の、えぇ?」


 直前まで力雄が考えていた内容を知ってか知らずか透人は遊びに誘ってきた。

 力雄は断ろうとしたものの透人は話を聞かず、そうこうしている内に次の予定が決まってしまったのだった。


 その強引さには違和感を感じたが、力雄の心中は不安と罪悪感でいっぱいでそれどころではなかった。



  *



 透人には今回の事件において二つの解決すべき課題が残った。



 その一つは力雄の事である。


 昨日の帰り際、泉にある事を頼まれたのだ。


『私達はね人間との共存を望んでいるの。でも、あの子はどうにも考え過ぎていてね。必要以上に妖怪という存在を卑下しているの。だから、君にはもっとあの子と仲良くなってそこまで思い詰めなくていいんだって解らせてもらいたいの。お願いできるかしら』


 それが透人をバイトに誘った本当の目的だったのだろう。

 力雄について語った時の心配げな表情からは思いやりが感じられた。


 力雄が何か問題を抱えているであろう事は言動からなんとなく分かっていた。

 それを放っておけず、お節介かもしれないとも思ったが了承したのだった。

 もっとも、透人は泉に頼まれなかったとしても自分から力雄の問題に関わっていくつもりではあったのだ。

 力雄はクラスメイトであり友人であり恩人であるのだから。



 とりあえず問題が何かを探る為にも質問をしたが、なかなか根が深そうだった。

 確かに妖怪について悪い方向に考え過ぎているらしい。


 他の裏の世界の存在を知れば少しは変わるのかもしれないが、積極的にバラそうとは考えていない。

 ひとまず今日のところは人間との交流を増やそうとして遊びに誘ってみた。

 長期戦になりそうだが少しずつ何とかしていけばいいだろう。



 そしてもう一つの課題は透人自身の事だ。


「昨日は何も出来なくてただ助けられただけだったんだよなぁ」

「別に気にする様なものでもないと思うわよ? 貴方の今の実力からするとあの場面を無傷で切り抜けられただけで充分なのだから」


 放課後の理事長室。

 いつも通り透人は笑亜と向かい合って会話していた。

 透人が今日話題にしたのは妖怪についての話ではなく闘いの反省だった。

 それだけ透人の中では何も出来なかったという挫折感が大きかったのだろう。


 笑亜の口振りからすると透人の闘いは既に知っているのか話はスムーズに進んだ。結界内の様子をどうやって知り得たのかは分からないがもはや疑問にすら思わなかった。

 ちなみにテーブルの上には緑茶と煎餅が置かれている。

 妖怪にちなんで和風にしたのだろうか。

 そんな限りなくどうでもいい事を気にするのがいつもの透人だったが今日はそんな余裕は無いようだった。

 といっても見た目はほとんどいつもと変わらない無表情だったのだが。


「俺の実力って皆よりかなり低いんだねぇ。今まではほとんどサポートだったから問題にならなかっただけで」

「フフフ。今回もサポート面では役に立っていたじゃない。妖怪退治があれほど簡単に終わったのは貴方の霊視のおかげなのだから」


 透人が今までの事件を思い出しながら言うと、笑亜は笑って指摘した。

 確かに透人は自分に出来る事で妖怪退治に貢献していたのだろう。

 だがそれだけでは自分を納得させられなかった。


「でも安全なところで見てるだけっていうのは好きじゃないんだよね。せっかく闘う力があるんだから何か手伝いたいというか。まあ、黄山君達はあっさり倒してたから要らなかったかもしれないけど」

「それはそうよ。"主人公"達は貴方より遥かに長い時間を裏の世界に捧げてきたのだから」

「うん。まあ、それは解るんだけど。だからって諦めて実力差を放っておくのは違うと思うんだよね」

「フフフ。なんなら修行編でも始めてみればいいじゃない。生憎時間の流れが異なる修行用の空間は提供出来ないけれどね」


 透人は割と真剣に言っていたのだが、笑亜には本気かどうか分かりにくい冗談めいた口調で返されてしまった。

 その中にあった言葉には心を惹かれるものがあったが、それはあとにする。


「修行って言っても出来る事はもう試してみたんだよねぇ」


 透人は時間を見つけてはそれぞれの力を練習したり、有効な使い方を考えたりしていた。その結果が今回の一件で示されたのだが、透人は満足していない。

 一息ついてから笑亜に気になった点を聞いてみた。


「イレギュラーってだけじゃ駄目なんだね。話を聞いた限りじゃ何か強そうだったけど」

「フフフ。確かにイレギュラーは普通の裏の人間より強い人が多いわね。でも、それは様々な能力を使える事よりも情報と経験のおかげなのよ」

「情報と経験ねぇ」


 笑亜は興味深そうにしている透人の反応を見て満足げに笑う。


「こちらは相手の情報を持っているのに相手はこちらが何をしたのか見当もつかない。なんて状況になればそれだけで圧倒的に有利でしょう? それにあらゆる事件に巻き込まれる分、戦闘経験も多いのよ」

「うん。成程」


 透人は笑亜の説明に納得して頷く。

 常識から外れた存在だろうと無条件で強い訳ではない。やはり努力が必要なのだろう。


「今の貴方にはどちらも足りないわ。色々出来るだけではただの器用貧乏よ」

「確かにそれぞれ一つずつだと弱いよなぁ」


 霊視だけでは闘う力にならない。

 魔法は出来る事が限られている上に本来より性能が低い。

 サイコキネシスは軽い物しか操作できない。


 これでは正に笑亜の言う通りだ。


「まずは貴方自身の情報を知るところからね。中でも重要なのは貴方に合っている闘い方を見つける事よ。イレギュラーには自分に合った力だけを極める人もいるし」

「じゃあ、なるべく早く考えないといけないのか」

「フフフ。いえ、貴方はまだ選択肢が増える可能性も大きいから決めるのは早いわね。これから経験していく中で自然に見つかる事もあるでしょうし」


 笑亜はそう言って怪しく笑った。

 しかし透人は少し積極的に動いて自分から選択肢を増やしてみようかと考えていた。


 何もせずにただ待つだけというのは好きではないからだ。

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