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「あの。」
源は見つめられると堪らず、といったように田中に声をかけた。眼光が鋭くなると、すぐさま慈鳥の後ろに隠れる。
「あなたは、何をしにここへ来たんですか。」
源の態度に田中は表情を変えずに尋ねた。源は素っ頓狂な声を出すと視線を左右に漂わせ、口を開いた。
「えっと、謝りに?」
か細く蚊が鳴くような声に、田中は気にせずといったように椅子から立ち上がる。後ろのラックにあるひとつのファイルを迷いなく手に取った。数十はあるであろう中から、探す素振りをいっさい見せなかった彼女は只者ではない。きっと、サイボーグかなにかだ、そんな夢想を繰り返しているとデスクに何か落としたのか大きな音がした。音のした田中のデスクを見ると息を飲んだ。落としたんじゃない、置いたんだ。二十センチはあろう分厚いファイルの背には『対霊事象管理機構 法具管理規定』となぜか毛筆で書かれていた。
「これ、何か分かりますか。」
まだ知ってる漢字があるから読める。意味はわからないけど。でも、それを素直に口に出したら怒られる。
だんまりを決め込んでいたらまた、息を吐く音が田中から聞こえた。ファイルに軽く手を添えながら、田中は源を仰ぎ見ている。しっかりと目と目が合うと、なぜかそれほど怖くないのではないかと思えてきた。
「これには法具に関してのルールが載っています。」
たぶん、源が分かりやすいように噛み砕いて説明をしてくれている。そう源は感じた。




