エドガーの道
宿の朝食を食べ終わり、おかみさんに相談してみた。
「この街に辿り着く前に行方不明になった子がいて、出身証明書が見当たらないんです。
届け出た方がいいと思うのですが、どこに行けばいいですか?」
「ああ、なんか身分証明の代わりになるやつね。ギルドじゃないだろうし、役所に行ってみたら?」
そう言われたので、役所に行くことにした。その前にお金を払って、宿を引き払う。
荷物が邪魔だけど、僕の目的地はここじゃないからな。
役所に行くと、出身証明書が紛失したことを紙に書かされた。
三人の名前を書くときに、少しだけ胸が痛む。もう、生きていないのだろうか。
「はい。これで手続きは終わりだ。だけど、門番でも文字を読めるのと読めないのがいるからな」
出身の村に出身証明書を書かせるようになったのは、今の領主が就任してからだという。
「街の中は平和になったが、今度は街を巡る壁の外が物騒になった。
外に畑を持つ農民からは評判が悪いんだ。悪党は街の中で暴れてくれればいいのにってさ」
役人は、「村長の息子」は管理する側で、同じような立場だと思っているようだ。
油断してぺらぺらしゃべっていく。
領主が新しいことを考える人で、やり方が変わるから面倒くさいと愚痴り始めた。
僕がその領主の元でこれから一年間学ぶと知ったら、この役人はどんな顔をするだろう。
僕も新しいことを言い出して、父に面倒くさがられている。
変化を嫌がる人も多いよな。
だけど長い目で見たら、変わった方がいいと思うんだ。
領主が自分と似たような人物かもしれないと知り、楽しみになってきた。
おしゃべりな役人にようやく解放されて、僕は午後の乗合馬車を申し込むことができた。
この街でもう一泊するより、先に進みたかった。
領主様の授業が始まる前に、少しでも領都の生活に慣れておきたいからな。
街の食堂で昼食を取ってから、乗合馬車の乗り場へ向かった。
簡素な馬車で、座るところはただの板だ。すぐに尻が痛くなりそうだな。
馬車は地面のへこみで、がたんと揺れる。
隣の人と肩がぶつかり、最初は謝罪しあったが、そのうちお互いに何も言わなくなった。
子どもは初めのうちは景色を楽しんでいたが、日が傾いてくるとぐずり出した。
子ども連れは大変だな。
道の脇にある開けた広場に馬車で乗り入れ、野宿をすることになった。
僕たちの三泊四日とはまるで違い、大人たちの手際の良いこと。
さっと枯れ枝を組んで焚き火をつけ、あっと言う間にスープを作る。
自分の分のパンは用意しておけと言われたから、それぞれが荷物の中から取りだした。
護衛の冒険者は、馬車に乗る人と外にいる人に分かれている。
護衛がつく分だけ、この馬車の乗車賃は高かった。
それに、スープ代なども含まれていそうだ。
この馬車は高い分だけあって、かなり恵まれた条件で進んでいるんだ。
翌朝はチーズとハムが配られて、簡単な食事をすませて出発した。
進むにつれ、景色がどんどん変わっていった。
森を通ることもあり、渓谷を通ることもあった。
宿に泊まる日もあれば、野宿の日もあった。
途中で馬車を乗り換えた。道幅が広いから、少し大きな馬車で行けるという。
隣の人とぶつかる回数がかなり減った。
だが、そのころにはなんとなく、旅の連帯感のようなものが生まれていた。
畑の作物の種類が変わっていくのも、面白い。
小麦畑が続いたり、ぶどう畑が広がったり。
牛が放牧されているところは、モンスターが出ないのか、冒険者が常駐しているのか、気になるところだ。
同じ領内でも、かなり違うんだ。
集まる子どもたちの実家も、それぞれ違うんだろうな。
村長の息子という肩書きが通用しない一年が始まる。
なんてったって、集まる全員が「村長の息子」なんだから。
実力勝負の世界への期待と不安がわき上がった。
エドガーの人生はまだ続きますが、一旦ここで区切ります。
いつかまた続きを掲載したときは、よろしくお願いします。




