93、真実と影(ヤスシSide)
おっさん先生の話は、俺にとっては青天の霹靂だった。
祖父ちゃんが船を降りた原因が、祖母ちゃんが死んだからだったとはもちろん知らなくて。
病名は小難しい名前だったんで、覚えてねえが。
つまり、急に発作を起こして倒れる病気らしく、祖母ちゃんが発症したのが3人目の父ちゃんを生んだ後で。
子供3人を育てながらいつ発作が起きる変わらない不安に祖母ちゃんは悩み、祖父ちゃんが気づいた時には既に、精神のバランスを崩していた。
「まぁ、いわゆる『カンが強い』ってタイプだな。結局おまえの親父が泣くとイラついて、保に子守任せて1人で飲みに出るようになって、冬のある日公園のベンチに腰掛け眠ったように亡くなっていたらしい。」
「え、凍死ってことか?」
「ああ・・・それを発見したのが保で・・・そのショックで保にも発作が出るようになった。それで、同じように数年後保も凍死した。」
「肺の病気で亡くなったんじゃねぇのか。」
俺がそう呟くと、おっさん先生が真顔でそれは建前だと言った。
「つまり何が言いたいかって言うとだな・・・遺伝でもしかしたら、お前さんに出なくてもお前さんの子供に影響がでるかもしれんということだ。」
話がまさかそこへ行くなんて思いもよらなかった俺は、不意にノリコの顔が頭に浮かんで、唇をかみしめた。
今日の年末スペシャルの歌番組に出場すると聞いていたから、居間で1人テレビを見ていたら。
めずらしく金やんが訪ねてきた。
父ちゃんと母ちゃんは恒例月一の銀座だ。
金やんは知っているはずだが・・・と思いながら玄関に向かうと、貰いもんがあってな1人で食いきれねぇから一緒に食おうと、家に上がり込んできた。
紙袋を渡され開くと、有名菓子屋のカステラ。
多分俺が胃の調子が悪いと父ちゃんから聞いたのか、カステラには牛乳だ!冷たいのは腹壊すから、温めろと言い出した。
「やっぱ、ここのカステラはうめぇな。それに、牛乳が合うよなぁ。あー・・・うめぇ。」
そう言ってバクバクカステラを食う金やんを見ながら、俺もつられてカステラを口にした。普段甘いものを好まねぇ俺だけど、薬が効いているのか食欲がいつもより出ていて、旨いと思った。
「めずらしく大畑先生から囲碁の誘いがあってな。久しぶりに大畑先生の家に行ったらこのカステラくれてよぉ。1人で1本も食えねぇから、お前と年末スペシャル見ながら食おうと思ってなぁ・・・フォフォフォ、今日は風町リノちゃん出演するもんなぁ。」
おっさん先生が結局心配してくれて、カステラまでよこしたっていうオチを俺に話した金やんは、ニヤニヤしながらつけっぱなしになっていたテレビに目をやった。
チッ、せっかく1人でゆっくりノリコの歌を聴こうと思ってたのによぉ。
俺は内心舌打ちしながら、その気持ちが表に現れないよう表情を変えずに、テレビに目を向けた。
まぁ結果、金やんと一緒でよかったのかもしんねぇ。
この間は『オリーブ』の片割れが盲腸炎になって、急遽ノリコが助っ人をすることになったと聞いていたが。
まさかノリコの歌の方まで一緒に出演するとは思っていなかったし。
何よりも、特別な歌であるはずの『バーボンブルース』を、『オリーブ』の片割れの演奏で歌うなんて意外だった。
いや、意外というより———
「おい、何かリノちゃん・・・この兄ちゃんとシックリくるような雰囲気がでてねぇか?」
俺が腹ン中でモヤッとした気持ちを、金やんがそのまま口にした。
「・・・・・・。」
黙り込む俺に追い打ちをかけるかのように、司会者とのトークでノリコが所属してる事務所に縁あって最近移籍したと、笑いながら緑川が語っていた。
その隣で微笑むノリコはシンプルだが洒落たドレス姿で、それは緑川のシャツと同じ素材で・・・2人の姿は急遽のデュオではなく、まるで一対の様な独特の雰囲気があった。
いくら仕事上のことだとは頭でわかっていても、温めた牛乳で落ち着いた胃がそれを見た瞬間にズンと重くなって。
それと同時に、祖母ちゃんと伯父の保の事を思い出し、ノリコとのこれからに影がさしたような気がした。




