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85、心配事とオーナー(ヤスシSide)

食欲がねぇから、コーヒーだけを注文した。

結局完徹だったが、今は眠気も感じねぇ。

ただ、胃の辺りが妙に重苦しい。

このところ、色々なことがありすぎたからだろう。

俺は風邪をひいたり熱をだしたりなんてことは滅多にない。

だけど、胃があんま強くねぇ。

俺自身そんなに思い悩んでいるとは思ってねぇのに、何か心配事なんかが重なると途端に胃がこういう状態になる。

考えてみりゃぁ、ノリコと話をしたり歌を聴くと胃が楽になったりしたこともあったから、本当ならノリコの顔を見ながら下らねぇ話でもすりゃぁ楽になるんだろうが・・・今はそうもいってらんねぇ。


「お待たせしました。久住です。よくランチを食べに来て下さるそうで、店の子から聞いてますよ。ホットコーヒーにナポリタン、そして『I was born』なんですってね、いつも。」


黒のハイネックセーターにダークグレーのスラックス、無精ひげに黒ぶちの眼鏡をかけた初老の、『喫茶モシカ』のオーナー。

そして、『underground』のオーナーでもある。

と言っても『underground』の方は、友達から事情があって去年買い取ったという話だ。

鳴門料理長の中学、高校の同級生で、本職は画家。

俺はそういうのは詳しくねぇけど、大きな賞をいくつも取っている有名な画家だそうだ。

鳴門料理長にそこまで聞いて、直接本人に確認したいことや話を聞きたいことがあったから、休みの今日土曜日に会ってもらえるよう頼んでおいたのだが。

店に出るのは気まぐれだけど、朝は必ずコーヒーを飲むから確実に会うなら、開店時間に店に行けば会えると言われた。


「こちらこそ、お忙しいのに朝からすみません。少し話をお聞きしたいのですが、よろしいですか。」


初対面の相手にものを頼むんだから、普段使ったこともねぇような敬語で話し、思わず舌を噛みそうになったが。

そんな俺を久住さんはじっと見つめ、君の顔格好いいねと、冗談のようなことを呟いた。

思わず、目悪いんですか?と突っ込みを入れたら、ゲラゲラと笑い出し。


「目は両方とも2.0だよ。だから、ちゃんと見えてる・・・そうだ、よかったら君の顔をデッサンでいいから描かせてくれないかな?交換条件で、君の聞きたいことに答えるから、君は絵のモデルになってくれないかな?」


と、訳のわかんねぇことを言い出した。

だけど、いい加減ジョーとミチルが何を考えてんのか知らねぇと、マズいことになりそうな予感がしてるから、仕方がなく久住さんの提案に頷いた。




どうやら叶の親父さんは久住さんと知り合いだったらしく、ジョーはそれを頼って銀座でバーテンダーの仕事を紹介してもらったそうだ。

ジョーの仕事は完璧で申し分がなかったから、店はほとんどジョーに任せている状態で、週に1度くらい顔を出す程度だった。

みかじめ料の話もしたが、久住さんはそれも知らず。

だけど、ジョーが銀座で働きだしてすぐ、地元の『巴組』主催の違法カジノで連れと一緒にポーカーで負けたらしい。

みかじめ料って言うのは、その負けた分をそういう風に言ってごまかして徴収しているんじゃないかと言い出した。

そうなると、ジョーのツレがミコトで、このあいだ叔父さんに封筒を渡していたのは・・・もしかして、ポーカーで負けた分の支払い?

でも、ジョーもミコトもポーカーなんて負けた事ねぇのに、一瞬不思議に思って、ハッとした。

つまりは、小杉にジョーもミコトも用があったってことだ。

なんでだ?・・・やっぱ、叶の親父さんからみで何かつかんだんだろうか。

だけど、小杉の住むマンションが、例の西園寺のじいさんがオーナーだとは知らなかった様子だ。

一体、ジョー達は何を調べているんだ?

俺に何もいわねぇのは、水臭くねぇか?


そう思うと、ズンと胃がまた重くなった。


「君は、浜田君とは違う性質をもってるね。二面性というか・・・非常に興味深いよ。浜田君は、寂しいくせに・・・最終的には人を寄せ付けない・・・そんなところがあるね。ある意味、危ういと思う。だけど、君は彼とは正反対だ。人を寄せ付けないつもりでも、人が寄ってくる。」


サラサラとかすかな音を立てながら、久住さんは既に鉛筆で俺の顔のデッサンを始めていた。

俺の顔をじっと見つめながら、ジョーの内面が見えたかのように呟く久住さんは、まるで内面をえぐるかのような視線を向けている。

その目が面白くて、俺も久住さんをじっと見つめていたら。


「ここら辺でも、亡くなった叶さんは結構有名でね。たまに銀座まで飲みに来てたからね。こっち来た時は結構お供をしたんだけど。叶さんと一緒に飲んだことがある人の名刺を浜田君に聞かれて渡した・・・多分、その後だ。彼が、ポーカーで負けたのは。彼、本当は強いんじゃないかな?ってことは、そうまでして調べたい何かがあったのかな。」


久住さんの話は漠然としていたが、確信に迫りつつあることを俺は悟った。



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