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78、デュオ(ノリコSide)

銀座でディナーショーを2日終えた後、1日おいて鎌倉でディナーショーをまた行うので、間の1日は調整日とし仕事は入れていなかった。

流石に1日3回公演で2日間の疲れがあり、私とミッチーは鎌倉の自宅で、エミ姉が作ってくれた朝食のベーコンエッグに厚切りトーストを食べながら、まったりとくつろいでいた。


だけど、それも真矢さんからの突然の電話で一変してしまった。

『レッツ・ソング!』のプロデューサーから焦った様子で、中継でも構わないから急遽出演してくれないかと事務所へ出演依頼が来たそうだ。

理由は、今日出演予定だった人気男性デュオ『オリーブ』のうち1人が急性盲腸で緊急手術になってしまい、出演ができなくなったからだ。 

彼らはルックスもいいが、美しいハーモニーが売りの20代後半の実力派の歌手で、私もミッチーも実はファンだったりする。

だから家や『Chicago』でミッチーとハモリを楽しみながら、彼らの歌をよく歌っていた。

真矢さんから詳しい事情を聞くと、ミッチーは私を見てニヤリと笑った。

そして、向こうの事務所の社長と俺直接話せるかなぁと、電話の向こうの真矢さんに言い出した。




「え、このお店、夜まで使っていいんですか?・・・というか、この最上階のバーラウンジって、地元で有名な人気店ですよね?今日の営業、どうするんですか?」


ミッチーが連絡したのか、銀座から急遽やってきた広瀬さんが、私たちを『グランドヒロセ鎌倉』の最上階に案内したと思ったら、ここ好きに使っていいですよと事も無げに言い放ったのだった。

驚く私に、笑顔で広瀬さんが平日ですし臨時休業にしますから気にしないでくださいと答えた。


盲腸で出演できなくなったのは、黄田きださんという人で、実はミッチーと歌う時に私がパート担当する側の人だった。

どちらかというと男性にしては小柄、顔立ちもベビーフェイスの顔同様かわいらしい声の人で、女性でも歌いやすいキーで歌っている。

それを知ったミッチーは、『オリーブ』のピンチヒッターで、風町リノが自分の歌を歌うのではなく。

『オリーブ』の黄田さんのピンチヒッターで、風町リノが『オリーブ』の歌を歌うのなら出演OKという、信じられない条件を出した。

だけど、新人歌手では考えられない提案なのに、あっさりというか・・・先方も乗り気で

すぐに話は決まってしまった。

しかも、明日こちらがディナーショーで出来たら鎌倉から中継にしたいと言うと、どちらにしろ黄田さんが入院してしまったので、スケジュールが空いているし練習もしたいからと『オリーブ』のもう1人、緑川さんが鎌倉まで来ると言い出した。

そうなると、あれよあれよと準備が進み。

気がつけば昼過ぎには、ミッチーのギターで練習が始まっていた。

どこでかと言えば、広瀬さんが練習と中継の場所として提供してくれた、最上階の『ラウンジバー』。



「すっげ・・・テレビで見ていて、歌が滅茶滅茶上手いって思ってたけど。俺たちの歌までこんなに歌えるなんて。リノちゃん救世主だ、マジ今日はありがとう。しかも、歌い方黄田のコピーじゃなくて、リノちゃんの歌い方だし・・・こういうパターンもありって、俺自身勉強になるわー。」


とりあえずと、一曲通して歌った後、緑川さんが驚いた顔で私を見て、褒めてくれた。

緑川さんは、黄田さんとは対照的に長身で顔はあっさりと整っていて、声は低めで甘くセクシーさがあり、20代から30代の女性にとても人気がある。

その上、実力も伴っているとなれば。


「いえいえ、私の方こそ勉強になります。元々『オリーブ』さんのファンだったので、兄とよくハモリながら歌っていたんです。しかも、黄田さんのパートで。だから、今日は兄じゃなくて、本物の緑川さんと歌えるなんて、私の方こそ、マジありがとうございます、です。」


緑川さんの言葉が恐れ多くて私は恐縮しながらも、家から持ってきた『オリーブ』の最近発売されたLPに後で絶対にサインをもらおう!と決心していた。



私はミッチー以外の人とこれまで歌った事はなかったけれど、緑川さんとは相性がよかったのか、何度か練習を重ねるとそれなりに形になってきた。

これなら7時からの放送に間に合うとホッと胸をなでおろしていたら。


「まぁ、歌はこんなもんでいいんじゃないかなぁ。即興のデュオだからさ、あんまりこなれると、新鮮味がなくなるし。それより、衣装どうする?せっかくだから、色だけでも統一したらいいと思うんだけど。地下にショップが結構入っているから、選んであげるよ。」


と、ミッチーがいきなり言い出した。

まぁ、ミッチーのセンスはこれまでの事で、私は信頼しているけれど。

今日は、作詞・作曲家の西にし かぞえとして私についているから、例のロンゲ鬘に、サングラス、ド派手スーツという変装ファッションをしていて。

ミッチーの言葉に、緑川さんがギョッとしたのは、素直な反応だと思う。

仕方がないので、西先生は自身のファッションはともかく、プロデュース力は素晴らしいですよと、フォローしておいた。




で、結局。

ミッチーが選んでくれた衣装はイタリアの某ブランドの、緑川さんはメンズの柔らかい素材の白のシャツに。

私は同じブランド、同じ生地でノースリーブのくるぶしまであるワンピースだった。

選ぶ際に火傷の痕が少し見えるから、ノースリーブは嫌だと言ったのだけれど、アクセントにオリーブ色のショールを肩から掛けるから大丈夫と言われ、押し切られた。

そして即興のデュオ、『オリーブ+リノ』は大成功だったようで。

途中、歌に夢中になりすぎて、肩からショールがずれ落ちそうになったけれど、緑川さんがさりげなくかばってくれて事なきを得たし、お互いノリノリで歌うことができた。

そのせいか、黄田さんの退院予定日までの出演予定だったどうしても外せない2本の歌番組に、『オリーブ+リノ』で出演してほしいと事務所から正式にオファーを受けてしまった。

でも、こちらとしても、年末の新人賞のショーレースがあるし、けっしてスケジュールが空いているわけではなくて・・・と、即答できずにいたら。

翌日のディナーショーに飛び入り参加と、大みそかの『日本音楽祭』で緑川さんがギター演奏するからどうにか頼めないかと、本人から是非にと懇願された。

ここまでされるとどうしようと言う気持ちになり、私はうーん・・・と困っていたら。


「ノリコは結局、緑川君と歌ってどんな感じだったの?そこそこは、楽しかった?」


と、いきなりミッチーが質問をしてきた。

いや、そこそこって・・・緑川さんに凄く失礼じゃん!

そう思った私は慌てて「そこそこ」を否定した。


「いや、そこそこじゃないよっ。滅茶苦茶楽しかったよ、変な事言わないでよ、西先生!」


フォローとはいえ、本心でそう言った私にミッチーは頷くと。


「楽しいのが一番じゃないの?ノリコの場合。ノリノリだったし。だったら、多少スケジュール無理してでも空けて、出演させてもらったら?いい経験になると思うよー。」


と、普段は滅茶苦茶なミッチーのくせに、珍しく正論を言った。




ということで、緑川さんは翌日のディナーショーに飛び入り参加をし、年末の『日本音楽祭』には私のバックギターで出演してくれることになったのだけど。


まさか、この緑川さんとの初コラボがきっかけでテレビ越しに腕の火傷の痕が見えて、叔父さんに風町リノが典物ノリコだってバレたなんてこの時は思いもしなかった。

だって、ミッチーもヤスシも浜田ジョーの店から帰ってきた後、心配しなくていいって言ってたから。

それが私を不安にさせないための言葉だったなんて信じて疑わなかったのだ。




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