77、ラストオーダーの後で(ヤスシSide)
「富士見、ラストオーダーの時間を過ぎているが、副社長からの頼みだ。桔梗の間に鯛茶漬け7つ出してくれ。」
最後の客がそろそろ帰る頃かという時刻に、鯛茶漬けのみのオーダーが入った。
鳴門料理長が俺を名指しで、そう言った。
これは本来、次板の橘さんか三番板の仕事のはずだ。
そう思い、一瞬返事につまっていると。
「俺、レシピ教えてもらいましたけど、前に富士見が作った時のようにしっくりこないんですよ。丁度よかった。料理長、俺、富士見の作業そばで見ていていいですか?」
次板の橘さんが嬉しそうな顔をした。
だが、俺が煮方になることに文句をつけた三番板の板前は、嫌な顔をした。
だけど、そいつが何か言う前に橘さんがお前も一緒に見ろよと、強引にまな板の前から三番板を下がらせた。
仕方がねぇから、場所を空けてくれたまな板の前に俺は立った。
鯛茶漬けなんて小難しい工程なんかはねぇ。
ただ、出汁に少しこだわって、鯛の切り方に注意して・・・後はどれだけ手早く用意できるかだ。
レシピ通り、手早く進めれば全く難しくもねぇはずだが。
それなのに、見ていた奴らが何故か驚いた様子で、出来上がった鯛茶漬けと俺を見比べていた。
「料理長、桔梗の間でしたね。俺が運んだ方がいいんですよね?」
小丼を盆にのせながら、俺は確認のような口調でそう言った。
この時間に、この数、そして広瀬の頼みということなら、どうせミチルやノリコ達だろう。
2日目のディナーショーが終わり、小腹でも空いたにちがいねぇ。
料理長がそうだなと頷くと、俺はさっさと桔梗の間に向かった。
案の定、桔梗の間にいたのはディナーショーを終えたノリコと春川、東をはじめ事務所のスタッフ連中だった。
俺が鯛茶漬けをテーブルに置くと、皆一気に食い出すほど腹が減っていたらしい。
その様子を呆れてみていたら。
「料理長の鳴門です。本日はようこそ。ディナーショーお疲れさまでした。こちらのデザートもよろしかったらお召し上がりください。店からの気持ちです。」
いきなり、黄な粉のかかったくずもちをもって、鳴門料理長が部屋に現れた。
それに食いついたのが、ミチルで。
滅茶滅茶上機嫌になって、何故か世間話まで始めてしまった。
つうか、流れ的に情報収集か・・・?
「へぇ、料理長さんもお酒好きなんですかぁ。皆でわいわいやるお酒ですか?それとも気に入ったものを1人でじっくり飲むタイプですか?・・・あーやっぱり、そうなんだ。え、と・・・じゃぁ、『underground』っていうショットバーとか知ってます?そこ、結構うまい酒のませるんですけどね。」
なんて、ミチルが回りくどい言い方をして、イライラしてきた。
だから、面倒で、まんま多分ミチルがききえぇだろうことを、率直に聞いてみた。
「鳴門料理長。その『underground』っつうか、店俺のダチがバーテンやってんですけど、
料理長いった事あります?」
俺の質問に、ミチルもノリコもスタッフの奴らも、ギョッとした顔をした。
だけど、当の料理長本人はそれに対し、特になにも考えていたなったのだろう。
鳴門料理長が、うん、たまに行くよとさらりと答えた。
え・・・と、俺ばかりか他のメンバーまでその簡単な答えに驚いた。
だけど、鳴門料理長は気にする風でもなく、
「俺、オーナーと友達なんだよ。」
と、驚くべき発言を続けた。
今日は・・・体力の限界で、短いです。すみません、明日頑張ります。




