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63、不本意な相席(ヤスシSide)

俺は元々洗い物や掃除が苦になんねぇっつうか、そこがちゃんとしていないとイラつくから、徹底していた。

だから、一番下っ端の業務内容は俺には大したことじゃなかったが、学校を出てまもない若手2人にとっちゃ、慣れないことの連続のようで。

テンパる2人にそれとなく助言したり、段取りがわかりやすくなるように動いてみせたりしていたら、何故か懐かれた。

んで、包丁の研ぎ方、賄いの味付け等も教えたら、直ぐに上手くなった。

そうなると、先輩の板前からの叱責も減り、厨房の雰囲気も店の雰囲気も何となく明るくなっていった。



「富士見さん!待ってください!」

「俺たちも今日は一緒させてください!」


昼休憩で『喫茶モシカ』に向かって歩いていたら、後ろから声がかかった。

振り返ると、さっきまで一緒に洗い物をしていた若手2人組。

ひょろりとして人の良さげな顔つきが野村で、目のくりっとした愛嬌のある顔立ちが加藤だ。

奴らは10代だと思っていたが、聞けば高校を卒業してから通った調理師学校を今春卒業したから、もう成人していると言う。

ちなみに白豚三白眼は22歳で、四頭身はこいつらと同じ歳。

あいつらは、中学を卒業した後専門学校へ行ったから、同年代でも『ひろ瀬』に入ったのが先らしい。


「俺、喫茶店で飯食うんですけど。」


俺の年齢をきいたからか、色々教えたからか、2人はいつのまにか俺に対して敬語になっていたが、俺の方はあえて2人に対し敬語を崩さないでいる。


「偶には外食したかったんですけどなかなかしづらくて、先輩達今日は休みだから・・・。」

「前から、富士見さんがお昼どこで食べるんだろうって思ってて・・・。」


つまり、うるせぇ先輩の手前、外に飯食いに行きたくても行けなかったというわけか。

マジ、面倒臭ぇ先輩だよな。


「ここからちょっと歩きますけど、いいですか?」


俺はそういうと、『喫茶モシカ』に向かって歩き出した。





「ナポリタンにホットコーヒー、『I was born』ですね?」


水とおしぼりを持ってきた姉ちゃんが、クスクス笑いながらまだ何も言ってねぇ俺の注文を確認した。


「正解。」


ニヤリと笑いながらそう言うと、ここって音楽喫茶の『モシカ』ですよね?俺前から来てみたかったんです!と、ハシャぐ野村。

店の中には、ノリコの歌声が流れていた。

ミチルが置いて行ったカバー曲だ。

加藤はメニューを開いて、カレーライスとアイスコーヒーをさっさと注文して、野村に早く頼めと急かした。

慌てて、メニューも見ずにオムライスとアイスコーヒーと言う野村。

坊主頭でいかにも板前っていう雰囲気だけど、やっぱこいつらも洋風のもの食うんだなと当たり前の事なのに、2人をまじまじと見てしまった。


「な、何ですか?富士見さん。」


俺の視線を感じて、野村がおしぼりで手を拭きながらビクついた声を出した。


「いや、いつも和風のもの食ってるようなイメージだったんで、洋風のものも食うんだなって思ったんです。」


思ったことをそのまま口に出したら、2人はあー・・・と暗い顔になった。


「うち、仕出し屋なんです。小さいころから和食ばっかりで、だから外食した時は絶対に洋食食べる!って決めてるんですけど、控室で食べるとなると菓子パンか弁当になるんで、菓子パンはあんまり好きじゃないから、弁当ばかりで・・・。」


野村がそう答えると、うんうんと加藤も頷き。


「うちは、旅館やってるんで、洋風の揚げ物とかもあったからそこまでじゃないけど、やっぱり和食が多くて。俺洋食の方が好きだし。オムライス食いたかったんですよね。」


俺が成程・・・と呟くと、2人がハッとして。


「あ、すみません。俺たちの実家が旅館やってるとか仕出し屋だっていうのここだけの話にしてもらえますか?事情知っているの、鳴門料理長だけなんで。」

「お願いします!面倒なことになるの目に見えてるんで。」


言っている意味を察した俺は、わかりましたと返事をすると、丁度かかりはじめた『I was born』に耳を傾けた。

だけど。


「ヤスシ、お待たせ~。」


「待ってねぇし。」


「ほんとだ、富士見通ってるんだー。」


ミチルと戸田が現れた。

今の言葉じゃ、俺がいるのをわかって来たらしい。


「今日は、1人じゃないんだね。ごめんね、ヤスシに話があるから、俺たちも相席していいかな?あ、俺、ヤスシの彼女のお兄ちゃんなんだー。」


俺に断りもせず、いきなり加藤と野村に話しかけるミチル。

相変わらず、自由な奴だなとあきれていたら。


「あれ?野村?・・・坊主頭になってるから、気づかなかったけど。野村だよな?」


戸田が、野村を見て驚いた声を出した。

野村はため息をつくと、お久しぶりです戸田先輩と頭を下げた。




「じゃぁ、浩之の1つ先輩なんですね。浩之がお世話になりました。」


「いえ、麻生君は後輩ですけど凄くリーダーシップがあって、生徒会で世話になったのは俺の方で。俺のクラス誰も生徒会に出たいってやつがいなくて、俺押し付けられて会計になって。その時、麻生君中等部からあがったばっかりだったのに1年で生徒会長をそつなくこなして・・・。」


あいつ、生徒会長やってたのかよ。

まぁ、おせっかい気質だしな。

そんなこと思っていたら、戸田が俺の敬語に怪訝な顔をした後、思いもかけないことを言った。


「あいつさー、中学の時も1年の後半からずっと生徒会長やってたからね。当時高校の生徒会長は俺がやってて、かなり絡んだけど・・・口は立つし、頭いいからうまく回してたよなー。」


「は?戸田が生徒会長?それ、罰ゲームでなったのか?」


思ったことが正直に口から出たら、戸田以外の全員がふきだした。


「ちゃんと立候補して、当選しての結果だよ!ったく、富士見は俺に何でそんなに冷たいんだよ。だいたいこの席にしたって、何で俺だけお誕生日席なんだよっ。」


ミチルと戸田が相席したいといったから、6人掛けのテーブル席に移動した。

だけど俺以外は皆体がそこそこ大きく、3人並びに3人座るのは鬱陶しい。

隅の席ということもあって椅子を1つ移動させ、テーブルの短辺に戸田を座らせたのだった。


「うるせぇな、男のくせにグチグチと。俺ら今休憩時間なんだよ。そこに割り込んできたのおめぇらだろ。ミチルはおめぇより年長なんだから、おめぇがその席になるのが妥当だろうが。」


野村が戸田の言葉に気を遣い腰を浮かせかけたから、俺は低い声でそう言って戸田をギロリと睨みつけた。

途端に大人しくなる戸田。


「アハハハ・・・戸田君意気消沈しちゃったねー。せっかくお誕生日席なんだから、ケーキおごってあげるよ。それで我慢して?」


ミチルが笑いながらそう言うと、戸田は少し機嫌が直ったようで早速メニューを開いた。

単純な奴だ。

そんなことを頭ン中で笑っていたら、丁度注文していたものが運ばれてきた。

そして、すかさず戸田がチョコバナナケーキを頼んだから、思わずふきだした。


「ブハッ・・・おめぇ、またチョコバナナかよ。」


「笑うなよぉ、なんか浜田の店であれ飲んでから、チョコバナナにハマっちゃってさー。あ、富士見また飲みに行こうぜ。」


すっかり機嫌がよくなったのか、戸田がそんなことを言ったら。


「あっ、ヤスシ。この間戸田君と広瀬君と浜田君の店に飲みに行ったんだって?俺も行きたかったなー。浜田君とはあれ以来だしー・・・何か後味悪いから、仲直りしたいんだよねぇ。で、いつ行こうか?」


まだ行くとも言ってねぇのに、自由なミチルはどんどん話を進めていく。

俺はフォークに巻き付けたナポリタンを口に放り込むと、無言で咀嚼した。

その間に、今日と明日なら空いているとか言い出して戸田が俺もとか賛同し、どんどん俺を無視して話が進んでいく。

向かいに座る加藤と野村はスプーンを持ったまま、その様子に唖然としていて。

口の中のナポリタンを飲み込んだ俺は、ナプキンで口元を拭うとダメだと断った。

すかさずミチルが頬を膨らませ何でと聞いてきて、戸田も俺来週は忙しいんだよと勝手なことを言い出した。


「明日、明後日『ひろ瀬』は店にクリーニングが入るんで、休みだ。だから、俺今日は9時上がりで帰って、明日は父ちゃんと早朝から仕入れ。つうことで、明日もこっちには来ねぇよ。」


「あっ・・・そうか。この間の件で、クリーニング入れることにしたんだ。」


この間現場にいた戸田が納得したように頷いた。

これでやっと諦めるかとホッとして、俺は再びフォークにナポリタンを巻き付けたら。


「あー、じゃぁ。明日午後、横須賀行っていい?この間ヤスシが言ってた地元のジーンズショップ紹介してほしいんだよ。今日実はそれ頼もうと思ってきたんだ。ちょっとカジュアルな服装苦手な奴がいてさー、そいつコーディネイトしてほしくて。あ、お金はあるから、全身何組か揃えさせるし。」


と面倒なことを言ってきたが、まぁ『ネイビーブルー』のおっさんにはガキの頃から世話になってるし、仕方ねぇかと頷いたら。

野村と加藤もその店に行きたいと言い出した。

前から俺の着ている服に興味があったと言う。

つうか、スカジャンとか革ジャンだぞ?

どこに興味を持つんだと首をひねったが、来るっつうもん嫌だとは言えず。

明日の午後店が終わったら付き合うことになってしまった。


まさか、そのカジュアルな服装苦手な奴っていうのが、春川だってその時は思いもしなかった。



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