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62、預言者(ノリコSide)

「・・・・・・。」


本当に、ミッチーは変装してやってきた。

名刺が間に合わなかったようで、作詞・作曲家の西にし かぞえとしてついてきてくれた。

顔出しNGだけど、西 数の名刺があったから、変装するなら丁度いいということで。

何が丁度いいのかわからないけれど、春川さんのロンゲの鬘に、付け髭、丸い形のサングラス、極めつけは絶対に普段は着ないであろう紫のパンタロンスーツに、襟の大きな黄色いシャツ。

念には念を入れて、シャツを大きく開いた胸元から除く付け胸毛。

うん、ここまでやれば、ミッチーと誰も同一人物とは思わないだろう。


「昔から、徹底した人だとは思っていましたけど。ここまでバカだとは、俺も思いませんでした。」


「うるせぇんだよっ。そういうお前は何で来てるんだよ。今日はオフだろ。」


春川さんの正直すぎる感想に、キレるミッチー。

本当に、春川さんと真矢さんにはぞんざいな態度だ。

慣れているのか春川さんは気にする風もなく。


「オフなんですけど、家にいてもすることないですしね。いつも歌番組は、司会者側の立場でしか見ていなかったので、偶には歌手側から番組の制作を見てみたいと思いまして。今日は完全に『サザンリバー』のスタッフとしてお手伝いできています。」


そう言って、持ってきた私の衣装をハンガーラックにかけ始めた。

先に、挨拶しなければいけない人には挨拶に行ったので、荷物を放置していたことを思い出した。


「あ、春川さん、そんなこと自分でやります!」


慌てて春川さんのところに駆け寄ると、じゃあ一緒にやりましょうとにこやかに言われた。

その笑顔があまりにもキラキラしていてまぶしすぎて、どうしていいのかアワアワしているうちに結局全部春川さんが荷物を片付けてしまった。

すみません、ありがとうございますを繰り返しながら、せめてお茶でも入れようとポットが置いてあるところに向かうと、おまえさぁとミッチーが不機嫌な声で春川さんに話しかけた。


「おまえさぁ、歌手側の立場から現場を見学するのはいいことだけど、スタッフとしてくるんなら、もうちょっと服装考えろよ。」


「そのイカレた服装の東さんに言われても、今一つ説得力がないんですけど。」


春川さんの言葉がもっともすぎて、思わずふきだしてしまった。


「ノ~リ~コ~、笑うな。今日のコレは、変装なんだからいいんだよ。そうじゃなくて、お前の服装何だよ、スーツって。しかも、真矢みたいなビジネススーツならともかく、何だよ英国紳士みたいな洒落たチェックスーツで。チーフまでばっちり決めてんじゃん。ノリコより何でスタッフのお前が目立ってんだよっ。せめて、ジーンズくらい穿いて来いよ。」


「なるほど・・・そういうことですね。あー・・・俺、実は服って、スーツかパジャマになるような服しか持ってないんですよね。」


「はっ!?」

「えっ!?」


私とミッチーが、同時に春川さんを驚愕の目で見た。

そんな私たちに頭をかきながら。


「あー・・・『六本木スパイダース』で着ていたライダースーツはありますけど、まさかそれ着るわけにもいきませんしね。ほら、東さんも知っている通りうちはジーンズなんて不良のものだ!っていうような家でしたからね。子供のころは、スラックスに襟の着いたシャツ。冬はそれにブレザーで、ジーンズを店で見る機会もなかったので。芝居で用意された衣装でジーンズやラフな服装を身に着けることはありますが、プライベートで選ぶとなると、どう選んでいいのかわからなくて。結局スーツなら間違いないかということで、今に至ります。」


困ったような顔でそう話す春川さんは、いつもの落ち着いた大人の雰囲気ではなく、こんなことを言ったら失礼だけど少し子供っぽい感じがしたから放っておけなくて。


「だったら、お店で一式そろえてもらえばいいんじゃないですか?」


と、ついおせっかいなことを言ったら、ミッチーがだめだよこいつ変に美意識高いからと首を振った。

まぁ、お店って言っても好みの店とそうじゃない店があるし、店員さんとの相性もあるしね。

難しいなぁと思っていたら。


「ヤスシさんでしたっけ・・・あの人みたいに、サラッとジーンズを穿きこなせたらいいんですけどね。」


と、ポツリと春川さんが呟き、昨日の電話で春川さんについての話をしようとしたらヤスシが不機嫌になったことを思い出して、何も答えられなくなってしまった。


で、妙な間が開いた時、コンコンとノックの音がして、どうぞと返事をすると。


「あっ、やっぱり、春川さんいらっしゃったんですね!さっき、うちの社長がこの部屋に入るのをお見かけしたって言ってて。おはようございます!先日、ご挨拶に伺った宮園さやかです!あの時はゆっくりお話しできなくて・・・今日お会いできてよかったです!」


一緒にコリーレコードのテストを受け、『レッツ・ソング!』の新人コーナーでも一緒に出演した女の子が胸の前で両手を握りしめ、春川さんを見上げながら目を潤ませた。

うん、誰が見ても可愛い。


「あ、今お茶入れたんで・・・よかったら、宮園さんもいかがですか?」


紙コップだけど、温かいお茶はリラックスできるしとそう思い声をかけたら。


「あ・・・風町さんじゃないですか。前にオーディション受けた時と、まったく顔が違うから、誰かと思いましたー。」


思わぬ攻撃を受けた。

まぁ、顏がまったく違うのは本当の話だから、それについて反論はないけど。


「いやいや、スッピンで会ったのってその1回だけですし。それより『レッツ・ソング!』の新人コーナーで一緒だったから、化粧した顔見てますよね?」


思わず矛盾点を突っ込んでしまったら。


「ブハッ・・・。」


ミッチーがふきだし。


「あー、そういえば、宮園さん風町さんと一緒に出演されていましたね。僕もテレビで拝見させていただきましたが、あの時は宮園さん随分アガッてらして。音程外して、歌詞と振りつけお忘れになって大変でしたね?『ミッドナイトスペシャルショー』の制作の方々も丁度みてらっしゃって、あの後随分話題になっていましたよ?結構、色々な番組の人がチェックしているんですよね。今日はアガって歌詞や振り付けまた忘れないといいですね?頑張ってくださいね?」


柔らかな微笑みをたたえ、滅茶苦茶親切で優しい口調だけれど、言っている内容は宮園さんが絶対に触れてほしくない黒歴史のはずで、しかもプレッシャーにしかならない各番組スタッフが見ている情報まで伝えて・・・春川さんの腹黒さにゾッとした。

コレ、絶対に、敵に回しちゃダメな人だ!

そう心の中で叫んでいたら。

宮園さんは真っ赤な顔になって、しどろもどろありがとうございますと言うと、慌てて部屋を出て行った。


「十夜グッジョブ!最初お前が来た時、追い返そうかと思ったくらい迷惑に思ったけど、撤回する。まさか早々に宮園さやかを撃退できるなんて、流石二重人格の十夜だよなぁ。仕方がないからさ、今日手伝うの許してやるよ。」


かなり失礼なミッチーだけど、でも宮園さんのことかなり警戒していたってことなのかな?

今まで番組で一度しか一緒になったことないし、そもそも私と宮園さんじゃジャンルが全く違うからそんなにライバルって感じしないのに・・・そう思っていたら。


「はぁ、ありがとうございますって言った方がいいんでしょうかね。でも、宮園さんは営業力で何とか新人賞ノミネート枠に入りましたから、有力候補の風町さんを蹴落としたいんでしょうね。しかも今日の出演者は新人ばかりですから、ミリオンヒット出した風町さんが個室の楽屋あてがわれて、相当悔しいんでしょう。俺に話しかけてきた時、意地でも風町さん見ませんでしたからね。ここ風町さんの楽屋なのに。まぁ、でも。これで、いくら『ミッドナイトスペシャルショー』の制作に営業かけても、当分あの番組から声がかからないことは理解してもらえたでしょうからよかったです。先日、打合せ中に押しかけてきた時、風町さんが2回も出演できたのに、何で宮園さんが出演できないんだとゴネていましたが、あの番組って実力がなければ基本声がかからないって周知の事実なのに。まったく信じられない思考回路ですよ。」


そう言って、春川さんが首をすくめた。

だけど、その最後の言葉で私はそんなことよりもという気持ちになり、我慢できずにそれを口にした。


「信じられないのは、宮園さんがこんなイカレたミッチーを、スルーしたってことだよ。」


するとミッチーは、ノリコもまだまだだなぁと笑った。


「あのオーディションの時に、そんなのわかってたじゃん。やたら結城さんにベタベタして、俺とノリコをガン無視ばかりか、お茶もってきたスタッフに礼もいわなくて。あー・・・結城さんがいた時は、やたらスタッフに愛想ふりまいてたけど。俺とノリコと彼女だけの時は、全く態度ちがったじゃん。まぁ、あの時ノリコが合格って決まってたけど、実はイイコがいたらもう1人とってもいいって結城さんと話してたんだけど、あの態度でとらないってきめたんだ。反対にノリコは結城さんがいてもいなくても、誰もいなくても全く態度変わんないし。挙句の果て、帰る時にロビーですれ違った宅急便の配達員にも、ありがとうございましたって最敬礼しているし、相手はギョッとしているし・・・いやー、面白かった。」


結局、私との初対面は面白かったって印象で終わるんだねと、ミッチーの言葉にため息をついていたら。


「何事も、最後は真摯な態度がものをいうんですよ。人の足をすくって自分が上に行こうっていう気持ちでいたら、遠からず自爆しますよ。」


と、春川さんは優しくにっこりと笑い、がっくりとしていた私を励ましてくれた。

ミッチーは春川さんのことを二重人格者だ言ったり、実際さっきも凄く優しい表情で酷いことを言ったりしていたけど、今の言葉でやっぱり春川さんは優しい人なんだと思った。





収録が始まって、司会者の大女優の菊池藤子さんが私と宮園さんに話題を振った時。

何故か宮園さんが、デビュー前から私と知り合いで素顔も知っている仲だと言い出した。

唖然とする私を尻目に止めておけばいいのに、デビュー前と化粧をした顔が全然違っていて再会した時誰だか分らなかったリノちゃんお化粧上手だから今度教えてもらおうと思って私化粧が下手でしても全然変わらないから~とか何とか言い出した。

他の歌手の人達はその話にクスクス笑っていたけど、司会の菊池さんだけは笑わず。


「あのね、本当に仲がいい人は素顔と顔が全然違うとか誰だかわからなかったとか言わないわよ?そういうの止めた方がいいわ。それにあなた、化粧しても全然かわらないって言っているけど、目にアイプチしているでしょ?私普段はしないけど、役作りでするときあるからわかるのよね。化粧なんて、けてよそおうって書くんだから、素顔と変わったっていいのよ。美しくなって何が悪いの?」


宮園さんに向かってピシャリと言った。

菊池藤子さんって、切れ長の目の日本的な顔立ちの美人女優と言われているけれど、歯に衣着せぬ筋の通った物言いがスカッとするという面でも人気の女優さんだ。

お芝居の他、司会やバラエティー番組に引っ張りだこで・・・あ、そういえば大晦日に放送の『日本音楽祭』の司会を春川さんと一緒に抜擢された人だ。

だからさっき春川さんが挨拶についてきてくれたんだとそんなことに今更気がついて、本番中なのについため息をついてしまった。


「あら、ため息なんてついてどうしたの?」


菊池さんの歯に衣着せぬ物言いに場がシンとしてしまった時だったから、私のため息が目立ってしまったのかもしれない。

しまった!と思ったけれど、出てしまったものは仕方がない。

何か言わないとと思っていたら、ふと菊池さんの姿勢の良さに目が行った。


「いえ、こんな顔だけメイクしたってダメですよね。美しくなるには色々努力をしないとと思って。例えば、姿勢ですけど。私は昔から背が高いことがコンプレックスで、つい猫背になってしまうんです。それで今、菊池さんの姿勢の美しさを見習わないといけないって思っていたところです。」


苦し紛れにそういうと、菊池さんは満面の笑みになって、そう!お化粧も大事だけど姿勢も大事よねーとアドバイス的に自分の日々の鍛錬を少し語ってくれた。

そして、宮園さんはそれ以上話を振られることも視線を向けられることもなく・・・結局、前ほどではないけれど、歌でもまた音を外してしまってぎこちなくなってしまった。


つまり、自爆。

早くに春川さんの言うとおりになってしまい、私は春川さんて二重人格者というよりも、預言者なんじゃないかと疑ってしまった。





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