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56、名前の誓い(ヤスシSide)

名前の意味やじいちゃんとの約束で、長い間説明のできないもやもやしていた事が、ノリコとの会話でいとも簡単な話になってしまい。

自分でもあきれるくらい、スッキリとした気分だ。

マジ、ノリコはすげぇと思うのに、当のノリコときたら俺の腕の中でモゾモゾと動いた挙句、相撲の取り組みかといった様子で俺の背中に腕を回した。

多分、俺の気持ちに応えようとしてるんだろうが、どう考えても格闘技的な腕の回し方としか思えねぇ。

結構いい雰囲気だと思うのによ、まったく・・・だけど、ノリコらしくて俺は笑いがこみ上げてきた。

俺が笑い出したから、不思議そうに見上げたノリコの顔が、いつものすっぴんの俺の好きなノリコの顔で・・・引き寄せられるように、俺は唇を重ねた。




「・・・ノリコ、悪ぃな・・・お茶、淹れてくれるか?」


つい夢中になって、ノリコの唇を貪っちまったが。

ここはノリコんちの居間で、別の部屋とはいえ叔母さんもいて。

これ以上のことがここでできるわけねぇし、ジョーが無事なことは確認できたがまだあいつは不安定で・・・前にノリコにジョーの事が心配で今ノリコとどうこうなれねぇと言ったままだし。

俺は、沸き上がる欲望にに蓋をすべく、ノリコの唇から自分のそれを外し、一つ深呼吸をしてからノリコにお茶を頼んだ。

ノリコは少しぼうっとしていたがハッとして顔を赤らめ立ち上がり、ちょっと待っててと言い残して部屋を出て行った。


ノリコに惚れてると自覚してから他の女とヤッてねぇし、溜まるもんは溜まってるんだけどよ。

やっぱノリコとのことをちゃんとして、そろそろ前に進むべきなのかと、自分自身限界が近いと自覚した。

でもまぁ、今日はとにかくそういうことはできねぇし・・・ちょっと気を紛らわすかと、部屋の中を何となく見まわしたら。

ギターの横にある台に五線紙と大学ノートが積み重ねられた上に、重石のように国語辞典が置かれていた。

多分東がここで歌を作っているのだろうと考えたが、ふと違うことを思いつき俺は国語辞典に手を伸ばした。





「典子の典は、書物だとか、儀式だとかっていう意味もあるけどよ。おめぇらしい意味があったぞ。『いつも変わらぬ基準』っていうやつだ。考えてみりゃぁ、おめぇはいつでもどこでだって変わらないもんな。おめぇはおめぇの基準で、おめぇらしいちゃんとした考えで、いつだって自分の基準を持ってる。だから、おめぇは質草なんかじゃねぇ。『いつも変わらぬ基準』を持ってる典子だ。」


国語辞典を片手に、お茶を運んできたノリコに鼻息荒くそう言えば、ポカンとした顔をされた。

まぁ、さっきまで別の意味で鼻息荒くベロチューかましていた男が何言ってんだって話だけどよ。

だけど、どうしてもノリコの意味が質草ってのが許せねぇし、そんな意味の女じゃねぇって俺は思うし。

だけどやっぱ典の意味に、当てはまっていたんだと辞書を見て、確信した。

だから、暑苦しくたってノリコが信じるまでこのことを言い聞かせようと思ったが。


「ヤスシ、わざわざ調べてくれたんだ。ありがとうね・・・・ねぇ、それ私にも見せてよ。」


ノリコがテーブルにお茶を置くと、俺が持っていた国語辞典に手を伸ばした。

自分で確かめたいのかと思い手渡すと、ノリコは俺が広げていたページを見るのではなく、パラパラと違うページをめくりだした。

そして・・・。


「志の意味に、『相手を慕う気持ち』とか『愛情』っていうのもあるよ。ねぇ、ただ、保さんの志を引き継ぐって意味だけじゃなくてさ・・・ヤスシの名前は、『相手を慕う気持ち、愛情を持ち続ける』って意味もあるんだよ?」


と、いきなり俺の名前の意味をノリコなりに解釈しやがった。

今まで、『保の志を引き継ぐ』って意味だけにとらわれていた俺は、その言葉が衝撃的だった。

だけど教えられたその意味は、今の俺の心そのまんまのことで。

もうちゃんと伝えるしかねぇって思った。


「ノリコ、なら・・・今から俺の名前・・・いや、俺が存在する意味は『保の志を引き継ぐ』んじゃなくて、『おめぇを慕う気持ちを持ち続ける』だ。んで、おめぇが存在する意味も『俺にとってのいつも変わらぬ基準』だ・・・わかるか?回りくどいこと言っちまったが、つまり・・・俺はずっとおめぇに対する気持ちを変えねえし、おめぇも俺にっとっていつまでも変わらないでいろっつうことだ。」


「え・・・と、ヤスシ?」


今一、ピンとこねぇのか、ノリコがじっと俺を見たまま言葉が出てこないようだ。

まどろっこしくなった俺は、ノリコを抱き寄せると。


「簡単に言うと、俺がおめぇに惚れてる気持ちは変わらねぇ、おめぇはいつまでも今のおめぇの考えで俺のそばにいてくれっつう事だ。生まれた時に与えられた意味なんて関係ねぇ。今、俺とおめぇで互いの名前で、気持ちを誓うんだ。おい、誓えるか?誓ったら、おめぇは俺のもんだぞ?」


ノリコの目を見据え、マジに一生の誓いのつもりで伝えたら。

ノリコは目を見開いて、頷いた。

だけど、俺はそれだけじゃ満足できなくて。


「おいっ、ちゃんと言葉に出せ。ちゃんと、誓え。」


凄むように、ノリコに迫った。

するとノリコの目が潤み、だけど俺から視線を外すことなく、誓うと言葉に出してくれた。

そしてそれから一言、ため息のように言葉を吐き出した。


「生まれてきてよかった・・・。」




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