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53、久しぶりのヤスシと(ノリコSide)

申し訳ありません、昨日は投稿できませんでした。できたら、もう1話を夜に投稿できれば・・・と思っています。頑張ります。

「あっ、ヤスシ君!この間は鯛茶漬けおいしかったよー。エミちゃんや史子ママにも食べさせたいんだけど、今度うちに作りに来てくれないかなぁ。」


余程鯛茶漬けが気に入ったのか、ヤスシの顔を見るなりミッチーがそんなことを言った。

エミ姉がその様子にまったくもう・・・という顔をした後、ヤスシに久しぶりだねいらっしゃいと声をかけた。


「おう、色々あってマジご無沙汰だ。ノリコも仕事で忙しいしな。今日は休みって聞いたんで、ちらし鮨つくってきたんだけどよ・・・食うか?」


エミ姉に声をかけられカウンター席を勧められると、ヤスシはマサルの隣の席に座った。

つまり、カウンターを挟んで私が立っている目の前の席で。

しかも、ちらし鮨の話は私にむけてしてくれていたわけで・・・要するに、今日は私に会いに来てくれたってことだと思うんだけど。

皆の目があって少し恥ずかしくて、私は頷くだけしかできなかったが。

そして、マサルはまだヤスシが怖いのかビクリとして、目が泳いでいた。


「ええっ、ちらし鮨!?食べたい食べたい食べたい!!」


ヤスシは一切ミッチーに話しかけていないはずなのに、ミッチーがはしゃいだ声を出した。

その瞬間、エミ姉がノリコに持ってきたんだよ、なんでミッチーが食べるの!と頭をはたかれていたけれど。

美味しものは家族で分け合って食べた方が美味しいんだよっと、ドヤ顔で何だかもっともらしいことを言って鼻が膨らんだから、ヤスシがふきだした。

そしてゲラゲラ笑いながらたくさん作って来たからと小皿と割り箸としゃもじを出すように私に言うと、紙袋から出した三段重ねのお重を開けた。


「うわ・・・旨そう。マジ、料理屋のちらし鮨みたいだ。」


思わずといった様子でマサルがそう言うと、ヤスシがお前も食うか?と聞いて私が持ってきた皿にどんどんちらし鮨を盛り付けて行った。





ヤスシの作ったちらし鮨は、本当に料理屋で作ったように美しく、また味も一般家庭では出せないような絶妙なバランスでとても美味しかった。

皆、無言で盛り付けられた皿を平らげていく。


「本当にヤスシ、美味しいよ。わざわざ作ってもってきてくれて、ありがとうね。これでまた明日から頑張れるよ。」


私は皿のちらし鮨を平らげると、本心からそうお礼を言った。

確かに、ちらし鮨は滅茶苦茶美味しいけれど、でも私に食べさせたいと作って持ってきてくれたヤスシの心が嬉しい。


「マジ、美味しいよねぇ。やっちゃん、魚屋さんじゃなく料理人になれそう・・・。」


エミ姉まで、そんな感想を漏らした。

すると、すかさず戸田さんが。


「富士見、『グランドヒロセ銀座』の和食の店の料理長に、料理人にならないかって直接誘いをうけてたけどー。あれ、なんで断ったんだ?」


と、いつものように大きな声でヤスシに問いかけた。

すると、ヤスシが舌打ちをして戸田さんをギロリと睨みつけたから、戸田さんはビビッて慌てて口を閉じた。

だけど、マサルはやはりヤスシが恐いのか、ビクビクしてそろそろ帰ると言い出し立ち上がった。





「今日は悪かったね。昨日の電話で私が休みって言ったばかりに、気を遣わせたんじゃないかい?」


マサルが帰るのに合わせて、私も明日から仕事だから今日はもう帰れと言われた。

そして、残ったお重の一段を叔母ちゃんに持っていくとヤスシが言い出し、マサルを家まで送った後そのまま私の家へ行くことになった。


「いや、俺がおめぇを応援するって、こんなことぐれぇしかできないからよ。最近、また痩せたろ?ちゃんと飯くってんのか?まぁ、デビュー前に落ち込んでいた時より顔色ずっといいけどな。」


マサルの家から一本目の道を曲がると、ヤスシはそう言いながら私の手を取った。

ドキリとしたけど、それよりも久しぶりにヤスシの温もりを感じて嬉しさがこみ上げ、繋がれた手をギュッと握り返した。


「イタタッ・・・力強ぇよっ・・・ったく、クククッ、おめぇは面白ぇなぁ。まぁ、その様子じゃ、心配する事もねぇか。」


「あっ、ごめん・・・私、握力強いんだよねぇ。多分、父親の家系が皆大柄で仕事も・・・っていうのかな?どっかの用心棒だとか、工事現場で働いてたとか・・・みたいだから、遺伝だよねぇ。どうせなら、母方に似れば叔母ちゃんやエミ姉みたいに綺麗だったのにさ。」


私はため息をつき、頭の隅にあった父親の顔や何度か家に来た父親の親族を思い出しながら、ぼやいた。

そんな私の言葉にハッとしたように、ヤスシは私の顔を見ると。


「おめぇ、覚えてんのか・・・本当の親の事。」


言いにくそうな問いかけに、何となく何が言いたいのかわかった。


「あー・・・親にされたこととか?・・・まぁ、叔母ちゃんやエミ姉には覚えてないっていったけどさ・・・まぁ、うん・・・・そりゃぁ、覚えてるよ。あっ、でも、叔母ちゃんやエミ姉には言わないでよっ。」


「ああ、言わねぇよ。マジ、おめぇ叔母さんと姉ちゃんに大事にしてもらってるもんな。ああ、東も大概だけどよ・・・だけど、おめぇガキの頃苦労したんだな。さっき言ってたおめぇの父方の親族とかはなんもしてくれなかったのかよ?」


ヤスシの言葉に、父ちゃんが私を殴るのを見て笑っていた父ちゃんの弟と、関心がなさそうに立膝で新聞を広げ、赤鉛筆で何かを書き込んでいるじいちゃんの顔を思い出して、ギュッと目を瞑った。


「・・・・なかったねぇ。やっぱりさぁ、クズの親族はクズばっかってことだよね・・・ってことは私もクズ――「おめぇはクズじゃねぇぞっ。前に、おめぇの姉ちゃんが、おめぇの事褒めてた。あんなクズ親から生まれたのに、いい子だって。素直で働き者で・・・俺も、おめぇのそう言うところが好きだ。おめぇの良さは、強さだ。三つ子の魂百までっていうけどよ、クズみてぇな奴らの中で生まれたって、おめぇは明るくて前向きで素直で正しい心を持ってる。おめぇの心が強いから、誰もそれを曲げることはできねぇ。俺のようなクズだって、東のようなワケありの奴だって、おめぇと会って変わったんだ。」


私の自嘲のような言葉を遮り、ヤスシが強い口調でそう言った。

私は、ヤスシの言葉が心に沁みた。


「そっか・・・そう言ってもらえると、嬉しいよ。でもさぁ・・・私、負けるもんか、ちょっとやそっとじゃへこたれないぞって、自分でも思ってたんだけど。ヤスシとこうやって話すようになって、あんまり人に話さなかったマイナスな気持ちをヤスシに話しちゃったりして・・・何か、強いって思ってた自分がそうでもなかったような気がして・・・いや、誰にも言えなかった気持ちを、ヤスシには簡単に話してることに、驚いてるんだ。」


本当に、ヤスシの前だと強がっていた心が解放されるように、自然と弱い自分の気持ちが口から出て、それを自分でも認めることができる。

つくづくヤスシって不思議な男とだと、その横顔を見つめた。

するとヤスシが突然立ち止り、その横顔が正面の顔になり・・・つまり、ヤスシがこっちを向いたという事なんだけど。


「俺も、同じだ。おめぇの前だと、簡単に自分を晒しちまう。」


「そっか・・・私だけじゃないんだ。そりゃ、よかった。私だけだったら、格好悪いもんねぇ。」


ヤスシも私と同じだって聞いて、嬉しかったけれど何か気恥ずかしくて・・・つい、おどけた口調になってしまった。

だけど、そんな私のおどけた口調とは異なり、ヤスシは真顔で私を見つめ。


「おめぇ、何で、聞かねぇんだ・・・さっき戸田が言ってたこと。」


と、静かな声でそう言った。


「本当は気になってたけど、いや・・・凄く気になってたけど、ヤスシが黙れと言うように戸田さんを睨みつけてたから聞かれたくないのかなと思ってさ。」


私が正直な気持ちをそのまま話すと、ヤスシはフッと笑った。


「戸田はよぉ、なんつうか・・・面白半分みてぇだろ?しかも、関係のねぇやつまで聞こえる様にデケェ声で言いやがって、ムカついたんだよ。前なら問答無用でボコッてたけどよ。おめぇんとこの店でもう暴れるわけにいかねぇしよぉ。今日はあれで我慢したんだぞ。つうか、今日はおめぇにその話をきいてもらいたかったんだ。そこらであんましたい話でもねぇからよ、おめぇんちでちょっと話せるか?」


勿論ヤスシの話は聞きたかったけれど。

それよりも、久しぶりに会ったヤスシともう少し一緒にいられるという事が、私はただ嬉しかった。



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