45、皆でお別れの会(ノリコSide)
私はヤスシから、浜田ジョーと一緒に『喫茶モシカ』へ行った時の事を聞き、叶社長が約束を守ってくれたんだと思ったから、お礼に行くことにした。
お墓に・・・と思ったが、聞けば納骨が済んでいないということで、考えた末にそれならばあのキャバレーへ行ってお礼を言おうと考えた。
ヤスシに相談したところ、経営者である叶社長が亡くなったことで店は閉店したままだそうだが、鍵を預かっているから訪ねる日を知らせてくれれば開けてくれるとのことだった。
どちらにしろ、お葬式にも伺わなかったから、お別れも兼ねて行くことに決めた。
ただ、ありがたいことにデビューしてから多忙になり中々時間が取れずにいたが、それから3日後、突然先方の都合で雑誌の取材が無くなり時間が空いた。
夕方だったけれど、ヤスシに連絡をすると大丈夫だという。
ミッチーに事情を話すと、仕事で東京に来ていた戸田さんが車で送ってくれることになった。
ヤスシに再び連絡をしてその旨を伝えた私は、少し考えてからマサルにも連絡を入れた。
「いやー、ノリコちゃんって、アレだよな。化粧すると全く変わるタイプ。そういうのって、『詐欺メイク』っていうんじゃねぇの?」
「・・・・・・・。」
メイクあんまり好きじゃないからメイクを落とそうとしたけれど時間がないし、それにミッチーがメイクはしていった方がいいって言うから、そのままで車に乗ってしまったことを今更ながら後悔した。
確かに化粧すると、別人みたいだと自分でも思っていた。
でも、自分でそう言うのなら納得しているしいいけれど、改めて他人に言われるとマジイラッとする。
しかも、それが戸田さんならなおさら・・・。
そう思い、ハンドルを握りバックミラー越しにニヤニヤ笑う戸田さんを、私は思いっきり睨みつけた。
「おう、よく来たな・・・何かよ、そうやって化粧すっと知らないスカした都会の女みてぇで、変な感じだな。やっぱ俺は、化粧しねぇ普段の方がノリコらしくていいな。テレビで見るおめぇも何か不思議な感じだしよ。まぁ、芸能人なんだから仕方がねぇけど。叶の親父さんも、いきなりおめぇが化粧した姿で現れて、驚いてんだろうな・・・クククッ。」
そんなことを言いながら、キャバレーへ招き入れてくれた。
なんだろう、戸田さんと同じように私がメイクをすると別人だと言っているのに、何故かヤスシの言葉にはイラッとしない。
普段の私を肯定してくれているからだろうか。
もう閉店してしまったお店は閑散としていたが、空気の入れ替えと掃除をしたのか、全然埃っぽくなかった。
お葬式に参列できた戸田さんは私をキャバレーまで送ると、邪魔をしたくないのかあとで迎えに来ると言いどこかへ行ってしまった。
そして、先日はカーテンが引かれていて気が付かなかったけれど、小ぶりなステージがありそこに祭壇風にしつらえられた台に叶社長の写真とウイスキーのボトルとグラス、そして愛用していたと思われる扇子が飾られていた。
私が叶社長にお礼を伝えたいといったことで、気を遣わせてしまったのだろうか。
そんな風に少し申し訳ない気持ちになっていたら。
ゾロゾロと人がお店に入ってきた。
訝しむ私に、叶社長にお世話になった商店街の人達だとヤスシが説明してくれた。
実は葬儀を身内のみで済ませたから、皆さんのほとんどが叶社長ときちんとお別れをしていなかったそうで。
この機会に一緒に、商店街の人達も叶社長にお礼とお別れをさせてやってくれと頼まれた。
こちらこそ、無理をいってしまったし、マサルとエミ姉も一旦鎌倉に帰ったミッチーに連れられてやってきたので、皆でお別れ会をしようということになった。
とは言っても、本物のお葬式ではないから、ただ一人ずつ写真の前に立って手を合わせ、心の中でお礼とお別れを言うだけなのだけれど。
それぞれの思い出があるのか、皆長い事手を合わせ、涙ぐんでいた。
まぁ私も、心の中でお礼と今日も顔を出さない浜田ジョーの事、それを心配しているヤスシの事を叶社長に話したら、涙が出てきた。
そして、最後の1人・・・前に私がこの街に来た時に優しく声をかけてくれた神々しいと拝みたくなるような頭の男の人が、長い事手を合わせ最後には声を上げて泣きだした時。
自然と、『I was born』を私は歌い出していた。
何も、特別なものは何もない、ただ手を合わせるだけのお別れ会だったけれど。
叶社長を想う皆さんの気持ちが溢れていた、とても素敵な会だった。
きっと、叶社長はこういう気持ちを大切にする人なのだろうと、改めてすごい人だったのだなと思った。
そして、翌週。
信じられないことに、『紫陽花ブルース』はとうとう売り上げチャート第1位になってしまって。
叔母ちゃん、エミ姉、ミッチー、事務所の人達と狂喜乱舞して。
あっという間に『ミッドナイトスペシャルショー』の放送日になった。




