33、バカな俺(ヤスシSide)
叶の親父さんの葬儀は、ほぼ身内だけで執り行った。
警察が入ったこともあり、葬儀は亡くなってから4日後となった。
そして、死因を考慮した事と喪主となる麻実の体がもたないという事で、広瀬の家の仕切りで形だけの自宅での葬儀になった。
ジョーは葬式にも現れず、商店街からも代表者数人のみの出席にしてくれと言われ、うちは父ちゃんだけが参列した。
さすがにうちは祖父ちゃんからの付き合いがあるから、商店街の代表に選ばれたのだった。
俺は、神崎組の若いもん数人と、葬儀が終わるまで辺りを見てまわることにした。
叶の親父さんが殺られた今、街には余所もんがはびこり雰囲気が殺気立っているからだ。
案の定、喪服は着てっけど見るからに品のねぇ奴らが麻実の家の前にド派手な外車を乗りつけ、勢いよく中に入ろうとした。
どう見ても、弔いに来た顔じゃねぇよ、脅しに来た顔だと思った。
親父さんが亡くなった今、親父さんの財産を受け継ぐ麻実を抑え込みにかかろうとしてんだろうが、そうはいくかよ。
俺と、神崎組の若いもんでそいつらを取り囲み、ちょっと先に俺らと話をしねぇか?と、特に偉そうな金縁眼鏡に金時計をした奴にちょっと思い当たることもあって、丁重にうかがいをたてたんだけどよ、どうも相手にその丁重さが伝わんなかったようで。
その上、中でもひときわガタイのいい奴に目くばせをしたと思ったら、そいつがいきなり俺に殴りかかってきやがった。
デカくて勢いだけはいいけどよ、もう相手になんねぇほど、鈍く温いパンチで参った。
軽く攻撃をよけ続けていた俺に、相手はしびれを切らしたのか、いきなり懐から匕首を取り出した。
おいおい、こんなもん持って家に押しかけようとしたのかよ。
俺は、叶の親父さんを殺ったこと、麻実にまでこういう飛び道具を使って抑え込もうとする状況を考え、かなり相手側も焦っていると感じた。
相手を殴って倒すのは簡単だが、それだけですまねぇんじゃねぇか・・・どうすっかなぁ、そう考えていたら。
匕首を持ったガタイのいい奴の向こうから、パトカーがサイレンなしでやってきた。
多分、今日叶の親父さんの葬儀があるのを知って、警らに来てくれたんだろう。
匕首を持った奴ばかりか外車に乗ってきた他3人も俺を威嚇しているため、パトカーに背を向けていてまったく気が付かない。
俺は、神崎組の奴らに目で合図をしてパトカーからこちらの様子が見えるよう、立ち位置をさり気なく変えさせた。
その瞬間俺は腹を決め、匕首を持った奴へ一歩近づいた。
深さもそんなねぇし腕7針縫っただけだから、一晩入院して様子を見て・・・なんて面倒なことを言われたが、そのまま金払って帰ってきたら。
母ちゃんにど叱られ、また泣かれた。
父ちゃんはまだ帰っていなかったから、母ちゃん泣かすなと怒られなくてよかったと思ったが。
まぁ、ちょっと今回は無茶がすぎたかもしんねぇけど、これ以上長引かせたくなかったからよ。
結局ガタイのいい奴に挑発するように近づき、多分相手は今までの俺の動きを見ていたから威嚇するだけのつもりで匕首を振りかざしたんだろうが、わざと俺はそのままよけずに左腕でそれを受けた。
といっても、まともに受けたら酷ぇ怪我するのはわっかってっから、斜めに受けて衝撃をなるべくかわすようにした。
ただその分、傷の範囲が大きくなり7針縫うことになったんだけどよ。
けど、警察の目の前で傷害事件を起こしたから、やった奴はその場で問答無用で取り押さえられ。
怪我をした俺は大げさにダメージを受けたようにふるまったが、葬儀の最中に騒ぎを大きくしたくないと救急車を呼ばないように警察に頼んだ。
そして、先日亡くなった叶社長の遺族に交渉するって無理やり葬儀中に押し入ろうとしたから止めたら、いきなり刃物で切り付けられたと警察に状況説明も忘れなかった。
そんなことは言っていないと奴らは言ったが、こっちは皆そろってそうだそうだと言い、状況が状況だけに俺を切りつけた奴以外も職務質問を受け、金縁金時計の懐から土地関係の書類がでてきて、それも後は印鑑を押すだけの叶麻実という名前入りのもので。
それで俺の(奴らの発言ではなくやつらの心の声の)証言は見事に肯定された。
その上、俺の勘通り金縁金時計は『はま夕』の娘の旦那で、これで『ニュービレッジリース』と今回の事件の関係性が浮き彫りになっただろう。
まぁ念の為、麻実は叶の親父さんと別に暮らしているのにここが叶の親父さんの家だとどうしてわかったのか、葬儀も形だけのものだから家を知らなければわからないはずなのに。
この家場所を知っているのは地元の限られた人間だけで、その地元の人間はこういう事件があった後だから人に聞かれても場所を教えないだろうに、誰から聞いたのか・・・という疑問を警察に投げかけておいた。
これで『はま夕』に捜査がはいるだろうし・・・斬られた甲斐はあったか。
母ちゃんに、ごめん、ごめんと謝り。
傷はそんな大したことはなかったが、案外出血が多かったようで怠さを感じた俺は自室に戻り、ベッドに横になった。
母ちゃんが泣いたからだろうか、夢の中でノリコも泣いていた。
大事な女2人に泣かれ、夢の中で俺は途方に暮れた。
確かに、俺も自分の大切な奴が・・・いや、もしノリコが、手っ取り早く解決するためだと言ってわざと怪我をしたとしたら・・・うん、やっぱ、俺が悪いよな。
夢の中で反省した俺は、夢の中で母ちゃんと・・・いや、いつのまにか母ちゃんはいなくなっていて、ノリコだけになっていて・・・ノリコにひたすら謝っていた。
「ヤスシッ、またあんたバカなことして!親、泣かして!自分を大切にしなきゃダメだよっ!」
「ごめん、ノリコ。俺が悪かった!ごめん、ノリコ!」




