14、ジョーに伝えるそれぞれの言葉(ノリコSide)
「ジョー、おめぇ親がいねぇって、親は俺だろうがっ!おめぇが5つんとき俺が拾って親になったんだっ!おめぇが困ったときは、俺がどんなことしても助ける。それは、俺がお前の親だから、あたりめぇの話だ!いいか、忘れんなっ、このクソガキがっ!!」
ミッチーのバカ力に感心していたら、叶社長が浜田ジョーの髪を引っ張り上げそう怒鳴った。
あまりの声の大きさにびっくりしてのけぞったら、ミッチーが肩を支えてくれた。
「腕、大丈夫?」
そう言われて、痛いなぁとひねり上げられた腕を見たら。
「おいっ、色変わって腫れてんじゃねぇかっ。」
ミッチーの声に反応して私の腕を見た叶社長が、掴んでいた浜田ジョーの髪を放り出して、焦ったようにそう言った。
「あー、多分、大丈夫です。掴まれた時の内出血と筋をちょっと違えたくらいですよ、この感じは。湿布して2~3日すれば治りますよ。」
私が確かめるように腕を動かしそう言うと、叶社長は驚いた顔で私を見た。
「ノリコ、おめぇ・・・怪我慣れてんのか?つうか、ジョーに本気で腕ひねり上げられてたのに、声ひとつ上げねぇで、ジョー睨みつけてたよな。まったく、大したもんだよ。それに比べ・・・ジョー!おめぇみっともねぇなぁ。ノリコが声ひとつ上げなかったっていうのに、この色男の兄ちゃんに手首つかまれて『痛てぇ』って言ったよな?ダセェなぁ。根性ねぇなぁ。あんなご立派なこと、マサルに言ってたのになぁ?あぁっ!?」
せっかく下がった叶社長のボルテージがまた上がりだしたので、私はあわてて口を開いた。
「いやっ、私っ。小学校の頃『親に捨てられた子』ってイジメられてよく怪我させられてたんで、慣れてるんですっ。それに浜田ジョーの言ったことに対して、自分の譲れない気持ちがあって、それの方が大事だったから、腕の1本や2本折れたっていいやって気持ちばっかで・・・。」
と、さっきの状況を必死で伝えようとしていたら、途中でミッチーに泣きそうな顔でにらまれた。
「ノリコの腕折れたら俺が嫌だ。ノリコが怪我したり、ノリコになんかあったら嫌だ。エミちゃんも絶対にそう思ってるし、エミちゃん泣いちゃうよ?史子ママだって。マサルだって・・・みんな、ノリコのこと思ってるんだから。そんな風に思っちゃだめだよ。」
あっ、と思った。
そうだ、さっき浜田ジョーが言ったことに対して譲れない気持ちって・・・こういうことで。
なのに、自分で反対の事を考えるなんて、バカだ私は。
「ごめん、ミッチー・・・マサルもごめん。」
自分の誤りに気がついた私は、泣きそうなミッチーに謝り、ソファーで1人ビビリながらこちらを心配そうに見ているマサルにも謝った。
そして、殴られてダメージが出始めた浜田ジョーに私は向き直った。
「浜田ジョー、もう一回言っとく。世の中力がものをいうかもしれないけど、でも、私は力や金だけじゃないと思う。最後は心だ。自分の大切な人を守ろう、助けようとする心だって私は信じてる。」
殴られた方の頬が腫れ目も開きにくくなってきたようだけど、それでも彼の目をジッと見据えて、はっきりとそう伝えた。
もう歳上だけど、敬語も吹っ飛び、名前も呼び捨てだ。
すると、何とも言えない表情で浜田ジョーが言いにくそうに。
「お前・・・親・・・いないのか・・・捨てられたって・・・父ちゃんにも母ちゃんにも、か?」
「うん、小さいころ『育てられないから』って、叔母ちゃんの家に置いて行かれてそれっきり。あんまり覚えてないけど、それまでも育児放棄っぽかったみたいで、今が嘘みたいだけど、小さくてガリガリだったんだって。あー、骨折して骨がへこんだままとか煙草のやけどの痕とか体に今でも残ってるけど・・・それも覚えてないから、別になんてことないし。それより、叔母ちゃんとエミ姉が滅茶苦茶かわいがってくれて、そっちの記憶しか今ないから、浜田ジョーに共感できないし、悲壮な気持ちにはならないよ?っていうか、浜田ジョーだって、滅茶苦茶いい親いるじゃんか。今日ここにきてから、私何度も叶社長が浜田ジョーのこと気遣ってるって思ったよ?実際、さっき殴られて叶社長の気持ち聞いたじゃん。自分に向けられる愛情に鈍感じゃ感謝もできないし、幸せに気づけないよ?」
一気に思っていることを言うと、浜田ジョーは言葉が出てこないようだった。
私のタメ口にムカつく様子もないし。
まぁ、確かに今までずっと思い続けていたことを一気に変えるなんてできないか。
色々自分の中で考えて納得していくことなんだろうと、唇をかみしめる浜田ジョーを見つめた。
だけど、ミッチーはそうは思っていないようで。
「君ばかりが不幸なわけじゃないよ。皆・・・どこのうちだって、大なり小なり問題がある。自分にないものばっかり数えて、持っている人間妬んだって、それで自分が幸せになるわけないよ。大切に思える人を大切にすることが、大切に思ってくれる人を大切にすることが、幸せなんじゃない?あー、ついでに君の不幸自慢大会に俺も参戦しようか?俺も、親に捨てられた子だよー。しかも、ノリコと同じ煙草の痕もあるし、骨はへこんでないけど、刺された痕はあるよ?でも、ノリコがいう通り『世の中は力や金だけじゃなくて、最後は心』って、今は思ってるから、俺幸せなんだー。」
私たち家族には絶対見せない冷たい顔で、ミッチーは衝撃の告白をした。
そしてニヤリと嗤うと、浜田ジョーの腕をつかみ自分に引き寄せた。
その途端、浜田ジョーの腫れた顔が酷く歪む。
え、どうしたんだろう?と思っていたら。
「兄ちゃん、そろそろいいんじゃねぇか?さっきの手首も骨イっちまったみてぇだし、そのままだとジョーの腕、一生使いもんになんなくなっちまうからよ。こんなクソガキでも俺にとっちゃ大事な息子だ。ここは貸しひとつで、こらえてくれねぇか?」
叶社長がそう言って、浜田ジョーの腕をつかんでいるミッチーの手をポンポンと静かに叩いた。
その言葉にミッチーはしょうがないなーと呟いて、つかんでいた手をあっさりと離した。
崩れ落ちる浜田ジョー。
とっさに、叶社長がそれを支えた。
綺麗にセットされていた叶社長の前髪が一筋ハラリと顔にかかる。
そんな2人を冷ややかに見つめたミッチーはふんっと鼻で嗤うと、もう一度浜田ジョーに近づき耳に口を寄せ。
「次、俺の大事なもの傷つけたら、殺すよ。」
と甘いハンサムな顔で、恐ろしい事を言った。




