13、譲れない気持ち(ノリコSide)
申し訳ありません、ノリコサイド3話続けてとお伝えしましたが、3話に収まらず5話になってしましました。しかも長いです。本日1話UPで、また明日もう1話UPします。ここがこのお話の軸になる場面ですので、切るに切れず・・・よろしければおつきあいくださいませ。
私たちに向けた叶社長の表情は、初対面の時のようなこちらを威圧するものではなくて。
ソファーに背を預け足を大きく開いていた様とは異なり、姿勢を正しこちらを真っすぐに見据えていた。
「俺は、回りくどいのが嫌いだ。はっきり言う。今回は、おめぇらがこっちに頼んできた形だったが、逆にこっちが助けられた。『はま夕』の孫があんま質がよくねぇって聞いてはいたんだけどよ、表立って問題をおこさなかったから注意しなかった。高校生相手にダセェイジメして、挙句の果てにカツアゲしてたんだから立派な犯罪だ。でもよ、ヤスシはだんまり決め込んで、今回は怪我がかなり酷くて全員入院だ。いつものあいつならここまではヤらねぇのにおかしいと思ってたんだけど・・・マサルを庇ってたんだな。つうか、8人相手にたった1人でこんだけヤっちまうって、どんだけだよ。ったく、ヤスシの野郎の怪我は、殴りすぎて拳が打撲で色変わって、腫れただけだぜ?相手のやつらは鉄パイプとかナイフ使ってんのに、ヤスシが喧嘩に使ったのは素手だけだ。はぁ・・・そんだけやっちまったから、『はま夕』の大将も孫可愛さで理由も確かめずブチ切れて、『魚富士』に取引停止の上慰謝料を要求して・・・おまけに店先で騒いだもんだから、商店街のヤツらはまだしも買い物客にも知れ渡って・・・『はま夕』の常連にもヤスシはとんでもねぇ野郎だって噂ばらまいて・・・まぁ、『魚富士』の夫婦の方も倅が暴力をふるったことは謝って医者代も払うとは言ったけど、息子は理由がないことはしないって何か理由があるはずだって言い張るからよ・・・火に油を注いじまったわけだ。結果として、『はま夕』の孫がクズだったって理由のオチだ。」
そう一気に言うと、叶社長は膝に手を置き、ガッと頭を下げた。
「本当に助かった、よくここまで伝えにきてくれた。ありがとう。」
私は大人の男の人が、こんな子供にきちんと頭をさげるなんてことがあるんだと驚いて、返す言葉が見つからなかったけど。
「こ、こちらこそ・・・ありがとうございました。俺の話をちゃんときいてくれて・・・俺の方こそ助けられました。だから、おあいこです。」
最初は叶社長や浜田ジョーにビビっていたマサルが、自分の気持ちをはっきりと伝えた。
マサルはビビリだけど、やっぱりいい奴だと思った。
そんなマサルの言葉に叶社長も表情を崩し。
「ハハッ、おあいこかぁ・・・おめぇ、いい奴だな。ノリコ、お前の幼馴染で兄弟分だって言ってったよな。あのヤスシをシメたお前が認めるだけあるなぁ。『カジワラ酒屋商店』もいい息子もったなぁ。」
そう言いながら上機嫌で、煙草をケースから取り出した。
「え、うちの店を知ってるんですか?」
「おう、昔俺が最初に飲み屋始める時に、資金があんまなくてなぁ・・・あっちこちの酒屋に仕入れ断られて、そん時お前のじいちゃんが、死んだ俺の親父のツレだった『魚富士』の初代と・・ああ、ヤスシのじいちゃんだ。その初代と知り合いで頼み込んでくれて。初代がここらの漁師の親分で世話役みたいなもんだったから無理言ったんだと思うが、結局店が軌道に乗るまでお前のじいちゃん1年半支払い待ってくれたんだぜ。やっと払う金ができて現ナマ持って店いったら『なんだ、思ったより早かったな』だと。大したじいちゃんだったぜ。ま、考えてみると・・・ヤスシがお前を助けたのって、きっとお前のじいちゃんとの縁だろうよ。」
昔を懐かしむように遠くを見つめそう話すと、叶社長はようやく煙草を咥えた。
すると、カウンター席にいた浜田ジョーが音もなくやってきて、先程と同じようにライターの火をかざした。
年季の入った仕草で叶社長が煙草に火を点け、目を細めうまそうに吸い込むと。
後ろに下がった浜田ジョーが皮肉交じりに口を開いた。
「結局、親に・・・家族に甘やかされて育ったから、甘ぇんだよお前は。お前が『はま夕』の孫をお前んちの力使って最初にねじ伏せときゃぁ、こんな大事にならなかったんだよ。お前んち『カジワラ酒屋商店』なら鎌倉の地主だろうが。家柄でいえば『はま夕』より上だ。力があるやつはそれ使えばいいんだよ、クソガキが。」
マサルをにらみつけ、吐き捨てるようにそう言った浜田ジョーは、くしゃくしゃな煙草の紙包装を、皴のないピシリと決まった背広の内ポケットから取り出した。
そして、中から煙草を一本取り出し噛みしめるように咥えると、ライターの音を立てながら火を点けた。
その仕草は叶社長の行動と同じ目的であるのに、私には全く別のもののように見えた。
本当においしそうに煙草を嗜む叶社長と違って、苛立ちと堪えられない何かを吐き出すような煙草の吸い方をする浜田ジョーの仕草を目の当たりにして、このまま放っておけない気持ちになってしまった。
「マサルは、大切な親だからこそ、迷惑をかけたくなかったんですよ。確かに、もっと上手いやり方があったかもしれないけど、マサルなりに親のこと考えた結果だったんです。力、力っていうけど・・・確かに、世の中力がものをいうかもしれない。でも、私は力や金だけじゃないと思うんです。ヤスシがマサルを庇ったのだって・・・昔、マサルのじいちゃんが叶社長を助けたのだって、力や金だけじゃないじゃない。だから、マサルも親の——「うるせぇんだよっ!親、親って、そんなん親がいるから言えるんだろうがっ。親がいないもんにとっちゃ、わかんねぇし、関係ねぇ話だっ!」
私の話を遮った浜田ジョーはそう声を荒げると、点けたばかりの煙草を近くの灰皿に乱暴に押し付け、扉の方に向かった。
だけど、私は聞き捨てならないことを言った浜田ジョーが許せなくて。
「ちょっと、待ちなよ!バカなこと言っちゃいけないよ!親がいなくたって、関係あんだよ!待ちなっ!」
ソファーから立ち上がると、扉へ向かう浜田ジョーの腕を私はつかんだ。
だけど、気が立っている浜田ジョーは私がつかんだ腕を乱暴に払うと、逆に私の腕をひねり上げた。
滅茶苦茶痛かったけど、腕の1本や2本折れたってかまわない。
それよりも、譲れない気持ちの方が大事だ。
そう思って下から浜田ジョーの顔を睨んだら、急に腕の痛みと拘束が無くなった。
あれ?と思っていると。
「いっ・・てっ・。」
「うちのノリコに何すんの・・・お前はガキじゃないんだろ?大人ならちゃんと分別持とうよ。」
いつの間にか私の後ろにミッチーがいて、今まで私の腕をひねり上げていた浜田ジョーの手首を握っていた。
一見軽く握っているように見えるのだけど、浜田ジョーは私の腕を離しているし、顏を歪めて痛いと言っているから・・・ミッチー実はバカ力なのかもしれない。
バキッ――
また気が付かないうちに、すぐ近くに叶社長がやってきていて。
いきなり浜田ジョーの顔を拳で殴った。
間近で見たし、かなりの威力があるとわかったけど、ミッチーが手首を持ったままだったので、体は傾いたけど浜田ジョーは倒れなかった。
って、やっぱりミッチーバカ力だ!!




