12、根性のある奴(ノリコSide)
すると、マサルは今までよりも大きな声で自分の考えを話し出した。
「そうじゃありません!結局、俺がちゃんと中里さんに断りきれなかったことが原因で、いや、嫌がらせを受けた時にきちんと先生や親に話をすればこんな迷惑をかけなかったし、殴られそうになったからって人を傷つけたのに、ヤスシさんにまかせて自分は知らん顔しようとした自分が許せないんです!だから、『はま夕』の社長さんに俺がちゃんと事情を話したいんです!でも、こんな高校生の俺の話を面と向かって聞いてくれないかもしれないから、叶社長さんに『はま夕』の社長さんを紹介してほしいんです。傷つけた人にもちゃんと俺、あやまります。警察行くなら行きます。自分でやったことですから!ヤスシさんは悪くないって、ちゃんと言います。紹介、お願いします!」
最初は叶社長にビビっていたのに、今はソファーから立ち上がり目の前のテーブルに身を乗り出して、必死の形相でマサルは訴えていた。
そんなマサルを見て、叶社長は短くなった煙草をクリスタルの灰皿に押し付けた。
そして。
「兄ちゃん、マサルっていうのか?おい、ノリコ!おっちゃん、さっき言ったこと撤回するぞ!マサル、おめぇ根性あるじゃねぇか。よし、わかった!おめぇらついてこい!このまま『はま夕』行くぞ。今の話、おっちゃんついててやるから、『はま夕』の大将にきっちり話せ・・・おい、ジョー、『魚富士』行って、ヤスシを『はま夕』まで連れてこい!」
肺に残っていただろう煙を吐き出しながらそう言って叶社長は立ち上がると、マサルにもういっぺん根性みせろと、肩をたたいた。
結果、叔母ちゃんの判断は正しかったようだ。
残念ながらヤスシの家は親戚の用事で今日は店を休み、一家で東京に出かけて留守だったが、『はま夕』の社長は叶社長が行ったことでビビリ、素直にマサルの話を聞いてくれ・・・孫の話を鵜呑みにしてしまった事を詫びてきた。
そして、改めて『魚富士』とマサルの家にお詫びにうかがうことと、入院中の孫やその仲間に対してのこともきちんとすると言ってくれた。
また、マサルがナイフで仲間を傷つけたことも言ったのだけれど、それが誰なのか全くわからないくらいヤスシがボコボコにしていて、マサルが傷つけたことは不問とされた。
マサルは人を傷つけたのに何も自分は責めを負わなかったことに罪悪感を持ち、居たたまれないようだ。
「もう気にすんなって言われたんだから、いつまでもビビってんじゃねぇよっ。」
まだ話があると、『はま夕』を出た後に叶社長に言われて、私たちはまたさっきのキャバレーに戻ってきた。
自分の気持ちがおさまらないマサルが悩んでいると、イライラした様子で浜田ジョーがマサルに絡んできた。
その言い方にカチンときて。
「あのっ、普通、人を傷つけたら平気でなんていられません。ナイフで傷つけて、ビビらない高校生なんて、めったにいません。傷つけられたら痛いし、だから、やっちゃいけないことだし。もし、人を傷つけたら謝るって、あたりまえの事じゃないですか。」
と、思わず言い返したら、浜田ジョーが鼻で笑い。
「だから、ガキだって言ってんだよ。自分が傷つけられたら痛いからやちゃいけねぇって?傷つけられたら痛いから、大人はヤラレる前にヤルんだよ。」
そんな恐ろしくて悲しいことをゾッとする声で言った。
私がびっくりして、それは本意なのかと浜田ジョーをジッと見つめたら、何故か舌打ちして目を反らされた。
叶社長はそんな浜田ジョーを静かに見つめて。
「何だ、ジョー・・・お前、高校生に何ムキになってんだ。お前のツレのヤスシはこいつら思って全部ひっかぶる覚悟したのによぉ。ダセェことやってんじゃねぇよ。」
そう諭した。
叶社長に絶対服従なのか、浜田ジョーはそう言われたら黙って少し頭を下げボックス席から少し離れたカウンター席に腰かけた。
そんな浜田ジョーを見つめて、しょうがねぇな・・・と口の中でつぶやくと叶社長は本題に入る様子で、私たちに向き直った。




