第51話 これが俺の選択です
俺たちは王都の中央広場に立っていた。空には巨大な亀裂が広がっている。ここまで俺たちは異界の痕跡を追い、世界の境界を安定させる方法を探してきた。そして、ようやく最後の場所へ辿り着いた。
【世界境界安定度:5%】
『警告』
『世界境界の崩壊が開始されました』
「時間がないな」
俺はスマホを見る。
「これを止めれば、全部終わるんだな?」
「ああ」
クロエが頷く。
「世界の境界を閉じれば、ライトディアは救われる」
「でも……」
俺は空を見る。
「地球との繋がりも消えるんだろ?」
「そうなる」
クロエが静かに答える。俺は黙り込む。地球へ帰る方法は見つかった。でも、それと同時に、この世界との繋がりを失うことになる。
「タローさん」
レモンが声をかける。
「大丈夫ですか?」
「ちょっと考えてただけだ」
そのときだった。
「迷っているの?」
「……!」
聞き覚えのある声がした。振り返ると、そこには銀髪の少女が立っていた。
「お前……」
これまで何度も俺たちの前に現れた少女。教会でも、王都でも、異界の痕跡を追っていたときも。いつも俺たちを導いていた。
「やっぱり来たのね」
「お前は一体何者なんだ?」
俺が尋ねる。少女はいたずらっぽく笑った。
「ずっと聞きたかったでしょう?」
「ああ」
「なら、今度こそ教えてあげる」
少女が空へ手を伸ばす。するとスマホが震えた。
『特殊解析を開始します』
『対象の情報を確認』
【名前:シルバー】
【種族:???】
【正体:世界の管理者】
「世界の……管理者?」
グレイプが目を丸くする。
「そんな存在が本当にいるの!?」
「この世界を作ったわけではないわ」
シルバーが答える。
「私は世界の境界を管理する役目を持っているだけ」
「じゃあ、今まで俺たちを導いてたのも……」
「あなたたちが必要だったからよ」
シルバーは俺を見る。
「タロー。あなたの神器は世界と世界を繋ぐための鍵。そしてレモンの聖女としての力は、その境界を安定させる力を持っている」
レモンが驚く。
「私に……そんな力が?」
「ええ」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「神器と聖女。そして、この世界を守る意思を持った者たち」
シルバーが俺たちを見る。
「5人全員の力が必要なの」
「5人……」
俺は仲間を見る。レモン、グレイプ、モモ、クロエ、そして俺。
「つまり、全員でやればいいんだな?」
「そうよ」
シルバーが頷く。
「ただし、1つだけ問題がある」
「何だ?」
「境界を完全に閉じれば、あなたは地球へ戻れなくなる」
「……」
【帰還機能:使用可能】
ずっと欲しかったもの。元の世界へ帰るための道。俺はしばらく画面を見つめる。
「タロー……」
モモが俺を見る。
「帰りたいなら、帰ってもいいのよ」
「私たちは大丈夫です」
レモンも微笑む。
「タローさんの気持ちを尊重します」
「私も」
モモが頷く。
「私もよ!」
グレイプも頷く。
「……まあ、少し寂しくなるけどね」
クロエが俺の目を見る。
「私はお前の選択に従う」
「そっか」
俺は空を見る。地球に戻る。家族に会う。友人に会う。元の生活へ戻る。それはずっと俺が望んでいたことだった。でも――。俺はスマホの『帰還』を押さなかった。
「俺は……この世界に残る」
「タロー……」
「最初は帰りたかった。でも、この世界に来たから出会えた人たちがいる」
レモンを見る。
「一緒に旅をして」
グレイプとモモを見る。
「毎回騒がしくて」
「それ褒めてる?」
「褒めてない」
「何でよ!」
「ふふっ」
モモが笑う。
「でも、楽しかった」
そしてクロエを見る。
「クロエにも会えた」
クロエは少し驚いた顔をした。
「だから俺は、ここで生きていく」
シルバーが微笑む。
「それがあなたの答えなのね」
「ああ」
俺は神器を構える。
「みんな!」
「はい!」
「任せて!」
「もちろん!」
「行くぞ」
5人が力を合わせる。レモンの聖なる光が広がる。グレイプの魔法が空へ昇る。モモの剣が魔力を切り裂く。クロエの黒い魔力が神器へ集まる。そして俺は、全員の力を受け取った。
『パーティスキルを確認』
『《異界の絆》を発動します』
【連携率:100%】
「これで終わりだ!」
神器を空へ掲げる。
——パァァァァァン!!
巨大な光が王都を包み込む。
空を覆っていた黒い亀裂が、少しずつ消えていく。
【世界境界安定度:30%】
【世界境界安定度:67%】
【世界境界安定度:100%】
『世界境界の安定を確認しました』
『異界干渉を停止します』
『全クエストを完了しました』
最後の亀裂が消える。空には青空が広がっていた。
「……終わった」
俺はその場に座り込む。
「疲れた……」
「お疲れ様です、タローさん」
レモンが笑う。
「私も疲れたわ……」
グレイプが地面に座る。
「でも、私たちが世界を救ったのよ!」
「そうね」
モモも笑う。クロエは空を見上げていた。
「これで世界の境界は安定した」
俺はスマホを見る。
【帰還機能:使用不可】
もう地球へ戻ることはできない。少しだけ寂しい。それでも、不思議と後悔はなかった。そのとき、スマホが震える。
『最終結果を確認しました』
『異世界転移から現在までの全行動を記録しました』
『称号を獲得』
【称号:異世界を救った者】
思わず笑みがこぼれた。
「何だよ、この称号」
「いいじゃない!」
グレイプが覗き込む。
「ああ、いいな」
みんなが笑う。俺も笑った。異世界へ来たばかりの頃は、こんな日が来るなんて思っていなかった。ただ元の世界へ帰りたかった。でも今は違う。俺には、この世界で一緒に生きていきたいと思える仲間がいる。
「さて」
俺は立ち上がる。
「これからどうする?」
「もちろん旅でしょう?」
モモが答える。
「まだ見てない場所がたくさんあるもの」
「賛成!」
グレイプが手を上げる。
「次はもっと凄いダンジョンに行きましょう!」
「またダンジョンかよ」
レモンが笑う。
「でも、楽しそうですね」
クロエも頷く。
「私も付き合おう」
俺はスマホを見る。新しいクエストは表示されない。もう、誰かに決められた旅ではない。
「じゃあ行くか」
俺は振り返り、青い空を見上げる。
「異世界に来て……悪くなかったな」
スマホが小さく震えた。
『これからも、この世界で生きていきますか?』
俺は迷わず画面をタップした。
これにて完結です。最後まで読んでくださりありがとうございました。




