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ようこそ、天ノ川女学院生徒会室へ③

私は、生徒会室の重厚な扉を躊躇いがちにノックした。


バザーの際に負った左腕の包帯は、昨日ようやく取れたばかりだ。それでも、ふとした瞬間に古傷が疼くような感覚が残っている。


(会長に、「遊びに来ないか」って言ってもらったからお言葉に甘えて来てみたけど……本当にいいのかな)


校舎の最奥、格式高い生徒会室の扉は、私にとってまるで異界への入り口のように思えた。


せっかくお誘いしてもらったし、この機会に聞きたいこともある。会長たちと話すチャンスでもあるし!と自分を奮い立たせ、深呼吸をして、もう一度ノックする。


中から「どうぞ」という、静かな凛とした声が響いた。その響きに背筋が伸びる。ゆっくりと重厚な扉に手をかけ、押し開いた。


室内の空気は、廊下とは明らかに違っていた。


磨き上げられた床。


静寂の中に香る、微かなティーリーフの香り。


部屋の奥では、琥珀色の西日が、三人だけを特別な存在のように照らしている。


さら会長、海寧先輩、そしてさゆり先輩。三人が、一つの絵画のように収まっている。その完璧な調和の中に、私が足を踏み入れることへの場違いな感覚が、胸をざわつかせた。


「し、失礼します!」


絞り出すような自分の声が、静寂を汚した気がして身が竦む。


会長が顔を上げ、こちらを向いた。


「梅沢さん、よく来てくれたわね。怪我の方はもう大丈夫なの?」


会長の声は、先ほどまでドア越しに聞こえていた落ち着いた議論の空気とは一変し、驚くほど親密で柔らかいものだった。そのギャップに私は一瞬戸惑い、自分の心拍数が上がるのを感じる。


「は、はい!おかげさまで。……あの、突然押しかけてしまってすみません。今日、少し時間があったので、ずっと気になっていたことを聞きたくて」


「気になっていたこと?何かしら?」


会長が目を輝かせる。私は緊張を隠すように、促されるまま空いている椅子に腰を下ろした。


座面はひんやりと冷たく、その感触だけが、自分が今、確かにこの部屋にいるのだと教えてくれるようだった。


「はい。この天ノ川女学院という場所のことや、会長たちが担っている生徒会という場所が、実際にはどんな役割を果たしているのかを。遠くから見ていて、いつもすごいなと思っていたので」


私の言葉に会長は驚いたように目を瞬かせ、すぐに嬉しそうに微笑んだ。


「そうね……ここへ来る生徒のほとんどは、要望や不満を抱えてやってくるわ。純粋にこの場所を知りたいという動機で扉を叩いたのは、あなたが初めてかもしれない」


会長はデスクの端に置かれた書類の山を一瞥すると、少しだけ肩の力を抜いたように椅子に深く座り直した。


「天ノ川女学院はね、歴史という重圧の上で成り立っているの。でも、それ以上に、生徒一人ひとりが自分らしくあるための場所であるべきだと私は信じているわ。生徒会は、そのための秩序を維持する番人よ。予算の管理から校風の維持、時には外部との折衝まで……私たちは学院の心臓を止めないように走り続けているの」


「心臓……ですか」


無意識に復唱していると、今度は海寧先輩が静かに口を開いた。彼女の声はどこか冷ややかだが、不思議と嫌な響きはなかった。


「言葉通りの意味だ。生徒たちの活動が、この学院という組織の中で健全に回るよう、私たちは規律という名の血を送っている。甘えは許されないが、規律があるからこそ自由がある。それを理解しようとする姿勢は、……まあ、悪くない」


海寧先輩の真っ直ぐな視線に射抜かれ、私は小さく背筋を正す。すると、隣にいたさゆり先輩が、頬を緩めながらカップに紅茶を注いでくれた。湯気が細く立ちのぼり、甘い香りが静かに鼻先をくすぐる。


「……要するにね、私たちは学院の調整役なの。会長が目指す理想の形を現実の校則や行事の枠組みに落とし込んでいく。それは時には堅苦しい作業だけど、全部は会長が掲げる誰もが居心地の良い庭を作るためなのよ」


三人それぞれの視点から語られる生徒会。それは、私が遠くから見ていたような、ただ権威を振りかざす場所ではなかった。彼女たちは、この美しい学び舎を維持するために、想像以上の重圧をその細い肩に乗せているのだ。


「……すごく、大変そうですね」


私が小さく呟くと、三人は顔を見合わせ、会長が温かな笑みをこぼした。


「ええ、とても。でも、こうして誰かが興味を持ってくれて、私たちの想いを知ろうとしてくれることが、何よりの活力になるわ。……ねえ、梅沢さん。今度はあなたの話も聞かせてもらえないかしら?以前の学校ではどんなふうに過ごしていたのか、以前からずっと気になっていたのよ」


会長の真っ直ぐな瞳に見つめられ、私は少しだけ躊躇ったあと、ティーカップを両手で包み込んだ。

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