表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

5

「……記憶の残滓か。」


クラヴィオは小さく呟いた。

魔法具には稀に作り手の想いが残ることがある。特に強い願いを込めて作られた品には。クラヴィオは再び時計へ手を触れた。


「見せて下さい。」


静かに魔力を流し込む。すると、時計は再びカチリと秒針をひとつ進めた。淡い光が溢れ、クラヴィオの視界が揺らぐ。



そこは見知らぬ工房だった。


棚には工具や歯車が並び、机の上には分解途中の時計がいくつも置かれている。


窓から差し込む朝日。


その中央で、一人の老人が作業台に向かっていた。


白髪混じりの髪に、優しそうな目元。

エリックによく似ている。


「これで良し、と。」


老人は完成した懐中時計を持ち上げた。

その足元には、蓋に彫られていたのと同じ毛足の長い犬が寝転がっている。


「お前も見てみるか?」


犬が尻尾を振った。老人は苦笑する。


「今日、孫が生まれたそうだ。」


そう言って懐中時計を見つめる。

その顔は職人の顔ではなく、祖父の顔だった。


「会うのが楽しみだな。」




景色が滲む。工房の様子が霧のように崩れていく。

クラヴィオは慌てて意識を繋ぎ止めた。


まだだ。まだ終わっていない。


時計の奥には、もっと何かがある。



カチ。


再び秒針が進む。



今度は別の光景だった。工房に少し成長したエリックがいた。十歳くらいだろうか。作業台の横で椅子に座り、足をプラプラとさせながら頬を膨らませている。


「じいちゃん!また約束忘れた!」


「おお、すまんすまん。」


「今日遊びに行くって言ったのに!」


「この時計だけ仕上げたら行く。」


「昨日も同じ事言ってた!」


老人は困ったように笑う。犬は二人の周りを嬉しそうに走り回っていた。しっぽははち切れんばかりにブンブンと揺れている。



クラヴィオの胸に温かなものが広がった。


仲の良い祖父と孫、そして家族のような犬。

どの記憶にも共通しているものがある。

それは愛情だった。


だが。


次の瞬間、胸を締め付けるような感情が流れ込んできた。



木漏れ日差し込む病室に、弱々しく横たわる老人がいた。ベッドの傍らには成長したエリックがいる。

握られた手。

無理に浮かべた笑顔。


『泣くな。』


老人の声が響く。


『お前は優しい子だからな。』


景色が揺れる。


『幸せになれ。』


『誰かを大切にしろ。』


『それだけで十分だ。』


エリックの瞳からはボロボロと涙が零れていた。

そして。最後に見えたのは、病室の窓辺に置かれた懐中時計だった。秒針は確かに動いていた。



クラヴィオが目を開く。気付けば机に手をついていた。額には汗が滲み、くらりと酒を飲んだ後の様な酩酊感がした。時計は静かに机の上に置かれていた。


だが先ほどとは違う。ほんの少しだけ、温かい。まるで誰かが、


「頼む」


と託した後のように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ