~プロローグ~ 一難去ってまた一難
「うぁあぁぁぁぁぁぁぁー!!!あんの糞オヤジ!!!またやりやがった!」
街の外れにある古びた民家でクラヴィオは叫んだ。その手には、思わず握り潰してしまったのかクシャクシャになった紙切れが握られている。
古くはあるが小綺麗にされ、クロスのかかった机にあるのは一枚のしっかりとした作りの紙。そこには慣れ親しんだ妙に綺麗な筆跡で借用書と書かれていた。
金額は600万ゼニー。子供が3人いる家庭が贅沢をしなければ一年は過ごせる額である。
借用書の借主に記載された小汚い字は勿論我が糞オヤジ殿である。そして連帯保証人の欄には慣れ親しんだ自分の字で、クラヴィオ・ゴエティアのサインがあった。
ズキズキと鈍く痛む頭を抑えながらクシャクシャになった手紙をもう一度見る。
そこには殴り書く様に、
最愛の息子へ
昨日は久しぶりに会えて楽しい時間が過ごせて嬉しかったぞ。一緒に酒を酌み交わせるほど立派な男になって父は嬉しく思う。
昨日は申し訳なかった。俺の作ってしまった借金を一緒に返してくれると申し出てくれてありがとう。
共にしっかり返して行きたいと思う。
だが、すまん、急な用事ができた。すぐに出立せねばならん。帰れるのは2年後か、3年後か…。申し訳ない。とりあえず借金返済をお願いしたい。
立派な息子よ!頼むぞ!
父より
…………。
動揺して騒ぎ暴れたくなるのをおさえ、昨晩の事を思い出す。
3日前の夜無事クエストを終え、長年格闘した借金をついに返し終えたばかりだったのだ。それで、一昨日は泥の様に眠り、昨日は晴れた気持ちで、ずっと空けがちにしていた家を掃除し、整えていた。
夕方に自宅にオヤジが現れ、今まで音信不通だった事を謝られて……。一緒に食事をして、成人祝いだと酒を持ってきてくれて…。それで…。
それ以降の記憶がない。
震える手と考えが纏まらない頭をスッキリさせようと水差しを取りに台所へ行こうと身体をむけると、すっとグラスを手渡された。
クラヴィオはそれを受け取ると一気にあおった。
喉を通る冷たい水が幾分か頭をスッキリとさせ、動揺した心を落ち着かせる。
ゆっくり目を閉じ、深呼吸をした。
目をあけ、目の前を見る。
水を差し出した青年が眉を下げ、同情するようにこちらを見ていた。
青年、幼馴染のリュカは黒髪の短髪をオールバックに撫で付け、程よくついた筋肉、190は超える大柄な体躯。焼けた肌からいかにも町の女性に人気の騎士といった風貌である。
しかし、その風貌に不釣り合いな、モノクルを掛けている。
こいつはこの見慣れた筆跡の正体。つまり金貸しである。
「不憫だな…。」
大きな手のひらで頭を撫でられる。
その手を払い除けながら、
「うるせぇよ、リュカ。お前何でアイツに金貸したんだよ…。」
と力無く返した。
「まぁ、ちゃんと返済もしてくれるお得意様だからな。そりゃぁな。」
「ふざけんな!返してるの俺だかんな!!」
「仕方ねぇだろ。こっちはこれで食ってんだ。だいたい、お前自分でサインしたからな。まぁ、めっちゃ酔ってたけど。」
取り付く島もない発言である。分かる…分かってはいるが納得いかない…。コイツは基本的、基本的には良い奴…なんだが、何よりも超ド級の守銭奴なのである。基本友か金かと言われたら金を選ぶ。だが、他の借金取りに比べればずっとマシだ。じゃなければ腐れ縁とはいえ、家になんか招きいれない。根はイイヤツなんだ、そうイイ奴…。
自らを半ば無理矢理納得させる。
しかし、オヤジへの怒りや悔しさ、昨晩オヤジの謝罪に気を許して迂闊にも喜んでしまった自分の浅はかさがグッと押し寄せ、ぐちゃぐちゃになった感情で涙が滲んだ。
「お前…本当、産まれてくる性別間違えたよな。女なら借金どころか、大金を持った男共が我先にとよりどりみどりだろうに…。」
まじまじとこちらを見ながらリュカが言った。
「は?!ふざけんな!!」
めいいっぱい睨みつけてやる。
だが認めたくはないが、その通りではある。俺、クラヴィオは緩くウェーブのある、淡く光をはらんだような明るく長い金髪。碧灰色の瞳。すっと通った鼻梁に形の良い唇。人形のように整った顔立ちで、まるで本に出てくるお姫様の様な容姿であった為、幼少期から散々女の子に間違えられ続けてきた。街へ行くと散々ナンパされ、酷いときは人攫いに狙われたりしていた。
今は成人し背も伸び、身体もある程度鍛え、女の子に間違えられなくなった…と思いたいが、まだまだの様である。
「多分、その睨みつけるのは逆効果だぞ。」
リュカに言われ、
「はぁ、いっそムキムキになりたい…もう一度髭伸ばそうかな…。」
クラヴィオは悲しげに呟いた。




