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ぜんうさ。  作者: 月白
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32/36

32 聖夜


 玄関の扉が開いた瞬間、冷たい空気と一緒に賑やかな声が流れ込んできた。


「うわ、もういい匂いしてる!」


「いらっしゃい、寒かったでしょ?」

 雪斗の母親が笑顔で迎える。


「おばさん、急にごめんなさい!」

「大丈夫よ♪早くやるって言わない雪斗が悪いんだから」


 靴を脱ぎながら、わいわいとした空気が広がっていく。

ふと紅葉が、エプロン姿のこはるに気づく。


「あれ?こはる、もう来てたんだ」

「あ、はい。準備のお手伝いを……」

「まぁ、途中寝てたけどね」

「むぅ〜……」


 雪斗の発言に小さく足を踏み鳴らし、口を膨らませるこはる。


「ふ〜ん……親公認だね(笑)」

 そう言って、くすっと笑う紅葉。


 陽向と渚に続いて、リビングへと向かっていった。


 首を傾げるこはると顔を赤くする雪斗。

そしてその2人を微笑みながら見る母親。


「ほら、2人とも行った行った。始めましょ♪」


 そう言って背中を押され、


 こはるも、みんなの後を追う。


 リビングからは、もう笑い声が聞こえていた。


⸻


「ウヒョ〜!」

「すごい……」


 テーブルいっぱいに並んだ料理に驚く陽向達。


「うふふ♪こはるちゃんも手伝ってくれたのよ♪」

「いえ!私は全然……」


 恥ずかしくなり顔を伏せるこはる。


「それじゃみんないっぱい食べてね♪」


 そう言って再び台所へ消えていく母親。


「いただきまーす!」


 一斉に手を合わせる。


「うっま……!」

「やっぱおばさんのご飯神だわ」

「おかわりもあるからね〜!」


 箸が進み、笑い声が重なる。


 こはるも、静かに口元を緩めながら食べていた。


 温かいご飯。

優しい味。

賑やかな声。


 その中にいることが、当たり前のように感じられる――


 ふわふわした感覚……


 それだけで、こはるは嬉しかった。


⸻


 食事が一段落した頃。


「そろそろメインのプレゼント交換でもしますか!」


 陽向が立ち上がる。


「よっしゃ!」

「どうやって決めるの?」

「そこはもちろん……考えてない!!」

「でしょうね」


 笑いが起きる。


――その瞬間


「たけのこたけのこニョッキっき! 1ニョッキ!!」

 突然両手を突き上げる渚。


「は?」

「え?」

「……?」


 一瞬遅れて、


「2ニョッキ!」


 雪斗。


「3にょっき……」


 紅葉。


「……? 4にょっき?」


 こはるも、小さく続く。


 一瞬、空気が止まる。


「……は?え?これで決めるの?違うよね?」


 陽向が混乱した声を上げる。


「もうみんなが参加した時点で、ゲームとしては成立しているのだよ」


 渚がドヤ顔で腕を組む。


「というわけで、私1番ね♪」

「ずるっ!!それはあまりにもひどいと思います!!」


 陽向の発言をスルー。

鼻歌を歌いながら、プレゼントが並んでいるクリスマスツリーのところまで歩いて行き……


「この大きいのしかないでしょ!」

 1番大きな袋を手に取る。

その瞬間ブーイングしていた陽向が静かになった。


⸻

1人目 渚


「じゃ〜開けるよ〜♪」


 ガサゴソと音を立て、袋から物を取り出す。


「………なにこれ」

「……でかい靴下」


 ニヤリと笑う陽向。


「大当たりだろ?」

「どこがだ!お前のか!クソ〜!!」


 悔しがる渚。


「あ、でも……」

「そんな大きい靴下なら、サンタさんに大きなプレゼントがもらえるかもしれませんよ!」

 目を輝かせて言うこはる。


「……まぁ、夢はでかい方がいいよね……」

 残念そうな顔をこはるに見られないよう、すっぽり靴下に身体を入れて隠れる渚であった。


⸻

2人目 雪斗


「こう言うのはちょうどいい大きさのがいいんだよ」


 そう言い、中くらい大きさの箱を選択する雪斗。


 中身を確認すると……


「「おぉ〜」」

 たくさんの種類のコーヒーが入っていた。


「あ、普通に嬉しい」

「甘いのも入ってるし、これならみんな飲めるかなって思って」

 靴下から顔を出し、少し照れながら言う渚。


「勉強の時に飲ませてもらうよ。ありがとう」


⸻

3人目 紅葉


 プレゼントの前に立ち……スッと手に取る紅葉


「なんかビビッときた。」


 手に取ったのは、小さな箱。


 そっと開ける。


「……」


 中にあったのは、可愛らしいフォトフレーム。


「あ、可愛い」

「皆さんとの思い出が、残せますように……と言うことで選んでみました」


 少し照れながら言うこはる。


(後悔の無い……幸せの道を歩めるよう、見守ってあげてくださいね?)

 ふと天ちゃんの言葉を思い出し、胸が少し息苦しくなる紅葉。


 ゆっくりとこはるに近づき、そっと抱き寄せる。

こはるの高い体温を感じながら……


「ありがとね……」

 ほんの少しだけ、力を込めて。

そう呟く。


「いいえ、そんなに喜んでくれるとは思わなかったです(笑)」


⸻

4人目 こはる


 よたよたとツリーへと足を運ぶこはる。


 平べったい、少し大きめの箱と……

厚みのある箱。


 こはるは箱の前に顔を近づけて……


 くんくんくん……


「え?嗅いでる……?」

「犬かよ(笑)」


(こっちは……いい匂い。)


 もう片方の箱へ顔を近づける。


(甘い匂い……でも少し……ん?)


「………!」

「こっちにします!」


 平べったい方の箱を手に取ったこはる。

中を開けると……


「お菓子です!」


 焼き菓子セットが入っていた。


「え、何、今匂いを嗅いで食べ物を当てたの?」

「いや、それはないでしょ……さすがに……ねぇ?」

「でも、こはるならやりそうだよね」

「ありえる……」


 驚く4人。


「それは俺のだね」

 そう言って雪斗が手を上げる。


「ありがとうございます♪」


⸻

最後 陽向


「くっ……残り物には福が……!!」

 そう言ってプレゼントの封を開ける陽向。


 入浴剤セット


「普通にこの時期嬉しいやつじゃねーか!!」

「オチが弱くてすみませんね!」


 腕を組んで少しぶっきらぼうに言う紅葉。


「いや、俺風呂で動画見たりして結構長風呂だから普通にありがたいけどね(笑)」

「それなら良かった」


 笑い声が、しばらく部屋に残っていた。


⸻


 窓の近くで身震いをする陽向。

家の中の光に照らされた、白いものが見えた。


「あれ?雪……いつのまにか結構積もってね?」


 陽向が窓の外を覗き込む。


「え?ホント?」

「ホワイトクリスマスってやつですな!」

 渚も陽向の隣から外を眺める。


「これは行くしかない!!」

「よっしゃ!」

 渚と陽向が勢いよく外へ向かう。


「え……寒いって絶対……」

 紅葉も苦笑しながら上着を手に取り後に続く。


「早く来いよー!」

「はいはい……」


 雪斗も立ち上がる。


 その時。


「……あ」


 何かを思い出したような、こはるの小さな声。

雪斗が振り返る。


「雪斗くん」


 呼び止められる。


「ん?」


 こはるは、自分の荷物から何かを取り出した。

少しだけ、躊躇って――


 差し出す。


「これ……」

「……俺に?」


 こくり、と頷く。


「外は寒いので……」


 少し視線を逸らしながら、


「使ってもらえたら……嬉しいです」


 受け取って包みを開ける。


 あの時見ていた……紺色のマフラー。

あまりにも偶然が重なり、思わずくすりと笑った。


「…おかしかったですか?」


「いや……嬉しいよ。ありがと」


 首元に当ててみる。


「似合ってます」


 こはるが、少しだけ安心したように笑う。


「実は俺も……」

「おーい!」


 外から声がする。


 こはるは、少しだけ満足したように頷き……

「行きましょうか!」


 そう言って雪斗の手を取り、踏み出す。


――その瞬間


 ふらり、と


 視界が揺れる。


「……あれ……」

「こはる?」

「大丈夫、です……」


 そう言って、笑おうとして――


 力が抜ける。

そのまま、崩れた。


「こはる!?」


 とっさに抱き止める雪斗。

返事はない。


「おい、こはる!」


 外から陽向の声が飛ぶ。


 バタン!


「こはる!どうしたの!?」


 真っ先に紅葉が戻ってきた。


 陽向、渚も続けて戻ってくる。


 さっきまでの笑い声は消え、


 窓の外では、雪が静かに降り続けていた。


⸻

客室。


「びっくりした……」

「大丈夫そうだけど……」


 布団に寝かせられたこはる。


 静かに呼吸をしている。


「疲れていたのに……お手伝いで無理させちゃったわね……」

「今日はこのまま寝かせておきましょう」


 こはるの頭を優しく撫でる母親。


「こはるちゃん、一人暮らしなんでしょ?」

「はい……」

「なら、今日はうちに泊まらせるから、安心してちょうだい。」


 そう言って、もう一度こはるの頭を撫でると、

母親は静かに部屋を後にした。


 その言葉に、みんなが少しだけ安心する。


「あ、そうだ……」


 紅葉がぽつりと呟く。


「それじゃ、ここに置いておいたほうがいいかな」


 上着のポケットから、小さな包みを取り出す。


「こはる、サンタのこと信じてるみたいだったから。本当は……ポストに入れとこうと思ってたんだけど」


 枕元に、そっと置く。


「……え、紅葉も?」

 渚が驚く。


「ん?」

「紅葉にこの間その話聞いてたからさ、私も実は持ってきてるんだよね」

「あ、俺も」

 次々と、取り出される小さな包み。


 静かに、枕元に並んでいく。


 最後に、雪斗。


 少しだけ迷って、


 自分の部屋へと戻る。


 戻ってきた手には――


 みんなとは違い、少し大きめの包み。


「……でかっ」

「ちょっと主張強すぎない?」

「さすが……」


 軽く笑われる。


「うるせぇ」


 そう言いながら、


 こはるの枕元に、そっと置いた。


⸻


「じゃ、俺らは帰るわ」

「また連絡するね!」


 2人が帰っていく。


 最後に残った紅葉が、


 一度だけ振り返る。


(後悔の無い……幸せの道を歩めるよう、見守ってあげてくださいね?)


 ふっと、笑う。


(……こんなに思われてるんだもん)


 静かに目を細める。


(幸せ者だよ)


 そうして雪斗へ一言。


「こはるに変なことしないでよ?」

「しねぇよ」


 そう言い残し、背を向けて歩いていった。


⸻


 しばらくして――


「……ん」


 こはるが目を覚ます。


「……あれ……」


「起きた?」


 雪斗の声。


「ここ……」


「うち」


 横には、雪斗と母親。


「……ごめんなさい……」


「いいのよ、疲れてたのね」


 優しく微笑む母親。


「こはるちゃん。思ったんだけどね」


 母親がこはるの目を見て優しく言う。


「冬休みの間、うちで過ごさない?」

「え……?」

「こはる1人暮らしでしょ?心配だし……って母さんが」

「もちろん、ご両親の了承は必要だけど」


 こはるは、少し驚いたように目を見開いた。


「まぁ、とりあえず、雪降ってて外も寒いし。せめて今日は泊まって行きなさい?」


 そう言い残し、立ち上がると……


「雪で電車動いてないみたいだから、ちょっとお父さん迎えに行ってくるわね」


 そう言って部屋を出ていった。


⸻


 2人きり。


 静かな空気。

ふと、こはるの視線が動く。


「……あ」


 枕元。

並んだプレゼント。


「サンタさん……!?」


 目が、輝く。


「えっ?サンタさん来たんですか?!」

「ほ、ほんとだ……いつのまに……」


 こはるの反応に少し笑いそうになる雪斗。


「こんなにたくさん………開けていいのかな……」

「こはるのだし、いいんじゃない?」


 雪斗が軽く答える。


 小さな包みを一つずつ、開けていく。


「……あ」


 ティーパック。


 みんなでよく行くお店のもの。


「これが家で飲めるの最高でしょ!」


 無邪気な声が、頭の中でよぎる。


「……」


 もう一つ。


 保湿クリーム。


「この時期は必需品だよ」


 落ち着いた声。


「……」


 手に収まる、小さなカイロ。


「寒いの苦手そうだしな」


 軽く笑う声。


「……」


 どれも、


 こはるのことを考えて選ばれたもの。


「……こんなに……」


 小さく、息を吐いて――


 ふっと、笑った。


 そして……


 1番大きなプレゼント。


「……サンタさん」


 小さく笑う。


 赤いマフラーを手に取り……

首に巻く。


「私が欲しかったもの……」


 そっと、目を細める。


「……ちゃんと見ててくれたんですね」


「……」


 雪斗は、少しだけ顔を逸らす。


「……なにか温かい飲み物取ってくる」


 立ち上がる。


「その間に、連絡といたら?」


 そう言い残し、部屋を出ていく。


「……?」


 こはるは、少しだけ首を傾げる。


「……あ」


 さっきの言葉。


「冬休み……」


 小さく、笑う。


 外では、雪が静かに降り続けていた。

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