表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星降る村の小さな英雄  作者: 南木
第1章:星降る村の小さな英雄
15/25

辺境民たちの憂鬱 前編

 アグニとグエンが、各里の山の民たちと共に西の里に足を踏み入れると、そこには焼け落ちた建物跡や破壊された物の残骸だけが残されていた。もはや、木が焼けた臭いすらしない。代わりに、どこからか腐敗臭が漂ってくる。


「酷いありさまだ……」


 グエンが思わずつぶやいてしまうほど、里の状況は悲惨だった。

 幸い、住人約20名の半数以上は、命辛々メルタ村まで逃げ延びることができたが、その大半は力のない女子供や年寄りで、大人の男たちは彼らを逃がすために犠牲となった。


「よし、付近をくまなく調べよう。一つでも多くの手掛かりを見つけなければ」


 アグニの里にほど近い、別の里に住む山の民の男性――ラクタイネンが、苦虫を噛潰したような表情でそう言うと、ほかの山の民たちも、力強く頷いた。


 二日前、ローザからアグニに「西の里がドレークに襲われた」と伝えると、アグニはローザの代わりに各里に状況を知らせるべく、一度帰った自分の里に戻り両親に報告。すぐに緊急事態と判断したグエンは、すぐに各里へ連絡するとともに、自分もすぐにメルタ村まで下った。

 こうして、グレンの音頭を受けて集まった各里の山の民たちは、夜を徹して西の里までたどり着いた。ここまで迅速な行動ができたのは、ひとえにアグニの母フアナが、5年前の魔樹ヤテベオの事件を受けて、

各里への連絡網を強化したからだ。


「確かにこの足跡は、ドレークのもので間違いない」

「食糧庫の破損が激しい。奴らの狙いは食い物だろう」

「足跡の数はそこまで多くないな。5人くらいか?」


 各々が廃墟で痕跡を探る中、アグニは焼け残った壁に凭れ掛かるようにして倒れている遺体に目を付けた。遺体は濃い髭を持つ40代の男性のもので、左肩を刃物でざっくり割られている。


「この傷跡は……」


 何か思うところがあったアグニは、別の遺体にも目を向けた。

 おそらく樵と思われる筋骨隆々の男性の遺体は、やはり同じく左肩に大きな裂傷があり、おまけに胸の中心部に深い傷がある。


「父さん」

「アグニ、何かわかったことがあったか?」

「うーん……一つ聞きたいんだけどさ、ヴェル達って斧を武器に使う人いたっけ?」

「斧だと?」

「この傷、武器の重さで切断した痕じゃないかって思うんだ。ほら、特にこの人は肋骨ごと粉砕されるように止めを刺されてる」

「…………俺の記憶では、ブレヌスたちの集団で斧を使ってたやつはいない」


 アグニとグエンは顔を見合わせる。

 何かおかしい……だが、足跡を見れば襲撃者がドレークであることは一目同然だ。彼らの独特な足跡は、人間に決してまねできるものではない。


 結局、彼らが一日かけて捜索を行って得られた情報は、斧を装備したドレークの小規模な集団が、村を襲って食糧を略奪していったということくらい。どうもドレークたちは、彼らの里からはるばる深い谷を越えてこの里まで来たらしいが、突然盟約を破り、食糧を略奪しに来た理由までははっきりしなかった。


「ドレークの奴ら、また食糧不足にでも陥ったか?」

「里の貯蔵なんて奪っても、たかが知れてるってのにな」

「ほかの里にも警戒を呼び掛けなければ」


 西の里を後にした山の民たちは、村に戻る道すがら野営を設けて、焚火を囲みながら情報の整理に努めた。その中でアグニは一人だけ、一人で黙々と考え事をしていた。


(ヴェルが約束の日に来なかったのと、今回の襲撃……何か関係があるのかな)


 アグニの気がかりは、専らヴェルとその父ブレヌスの消息についてだ。

 すると、山の民の一人が、アグニ親子たちがドレークとのわずかな交流があることを思い出した。


「そういえばグエンさん家は、ドレークたちと比較的仲が良かったんだろう。何か思い当たる節とかはないのか」

「あったらもうとっくに話してる。こっちだって、ブレヌスたちとは3か月近く会ってないんだからな」

「いや、悪かった。疑うようなこと言って。お宅らもわからないって言うなら、どうにもならんな」

「しかしドレークが相手か。今の我々に、防ぐ手立てがあるだろうか?」


 情けない話だが、はるか昔にドレークと争っていた時代に比べ、山の民たちの実力ははるかに落ちている。盟約が結ばれた後も、己の力を高めることを忘れなかったドレークたちとは大違いだ。


「今は……グエンさんとフアナさんだけが頼みの綱だ。俺もできる限りの努力はするが……」

「まあそう悲観するな。今頃村長とうちの妻が、対策を考えているはずだ」


 気持ちが沈む山の民たち。グエンもできる限り前向きになろうと努めてはいたが、心の中ではやはり言い知れない不安が渦巻いていた。



××××××××××××××××××××××××××××××



 一方そのころメルタ村では、村長の家の応接間に村長と神官とフアナが揃い踏みし、今後の対応について協議していた。

 今アグニの里は、グエンもフアナもおらず無防備なので、里の住人はアグニの妹たちも含め全員、一時的にメルタ村まで避難しており、フアナも当分はこの村で陣頭指揮を執ることに決めた。


「村長、郷土兵の手配は?」

「しましたとも。3日後には村に到着するでしょう」


 髪の毛が白く染まりつつある村長は、顎髭をなでながらフアナの質問に答えた。


「しかし、普段ロクにこの村に巡回に来ない彼らが、果たしてどこまで踏みとどまれるか」

「まず期待はできません。おそらく半数は高山病で脱落し、戦力になりません。ですが、いないよりはましでしょう。援軍が来るまでの時間は稼ぎたいところです」

「お二人とも……あまり彼らを責めないでいただけないでしょうか。彼らも必死なのですから」


 せっかく呼び出しておきながら、郷土兵についてさんざんな言いようの二人を、ブライトン神官がフォローになっていないフォローをする。

 郷土兵とは、国の各都市部に配置された一応国の正規兵で、主に地方都市とその周辺領土を警備する役目を負っている。しかしながらその内情はお寒いもので、とにかく給料が安いうえに危険も伴うため、

なり手が少なく士気も低い。

 そのあたりの事情は誰もが把握しており、有事の際は郷土兵はあくまで援軍が到着するまでの戦線維持要員(捨て石ともいう)と位置付けられている。


「では即応軍の手配も済んでいますね」

「もちろんですとも。私が伝達精霊を飛ばしました。早ければ明日には連絡がいくでしょう」


 緑宗の神官であるブライトンは、遠い地に情報伝達する手段として、風の精霊を使役する術を習得している。事実、ブライトンが飛ばした風の精霊は、郷土兵が連絡する前に、遥か山の下の町にある即応軍の詰め所にたどり着いているのだった。

 

 さて、辺境で有事が発生した際、郷土兵の次に戦闘に加わるのが「即応軍」である。

 郷土兵と違って、ある程度まとまった戦力を持つため、事と次第によっては彼らだけでも事態解決の目途が立つこともある。ついでに言うと、即応軍ですら対応できないと判断されると、さらに上の「方面師団」が動くことになり、最終的にはこの国の「王都」から「騎士団」が出撃することになっている。

 広大な国土を守るために中央集権国家が苦心の末生み出した、多重式の時間稼ぎシステムだが、辺境の住人たちは中央の反応の鈍さに正直辟易しており、それがある組織の台頭につながったのである。

 その組織こそが――――――


猟騎士フライコールへの依頼は?」

「いえ……それがまだ。実はフアナさんに、そのことについて相談しようと思っておりまして」


 そう、危機対応のプロフェッショナルである、フライコールたちの出番だ。

 彼らは軍隊と違ってフットワークが軽く、場合によっては一人で兵士何人分もの働きをする。メルタ村のような過酷な環境の有事では、実際に頼りになるのはフライコールだけだろう。


「相談ですか。さては、報酬の額を悩んでいるのですね」

「おっしゃる通りです……何しろこのような事態になったのは初めての事。私には彼らへの依頼の相場がわかりませぬゆえ」


 だが、猟騎士に依頼するにもそれ相応のデメリットがある。

 彼らはそれ相応の報酬がなければ動かないのだ。


「逆にお聞きしますが、どの程度なら用立てることが可能でしょうか?」

「村の貯蓄と、我が家の財産を合わせて……1100§(オリオン)

「1100……ギリギリですね。最低でもEランク相当のパーティー2組は必要ですが、下手するとさらに下位のランクの中から、自信過剰なパーティーが来るやもしれません」

「下位のパーティーには魅力的だが、適正ランクに対してはあまり魅力的ではないと」

「神官様の認識で大筋間違いありません。運が良ければ、心優しい暇な上位のパーティーが来てくれるかもしれませんが、善意はあまり期待しないほうがよろしいかと」


 ここで、フライコールが依頼を受けて任務に取り掛かるまでの過程を簡単に説明する。

 フライコールは通常の冒険者と違い、あくまで「国に雇われている」存在である。その為、まず依頼者は報酬を定めて「猟騎士組合フライコールギルド」に依頼をかける。緊急の場合は報酬を定めずに依頼も可能だが、その場合は後日組合から依頼者に請求がいく。

 依頼を受けた組合は、まず所属するフライコール全員に依頼の掲示を行う。このとき、依頼に志願する者がいればそれに越したことはないが、場合によっては依頼内容と報酬が割に合わず、誰も志願しないこともある。そうした場合は、組合の方から出撃人員を強制的に指定することになる。


 フアナが懸念しているのは、今回の依頼はまさにギリギリ割に合わないラインの報酬しか出せないことである。

 適性実力を下回るパーティーが数多く派遣される程度ならまだいいが、下手に欲張るパーティーが、報酬を多くもらおうと、たった1組で来られると非常に面倒なことになる。


「仕方ありません。我が家からも貯蓄を切り崩し、200§報酬に加えましょう」

「緑宗の神殿からも、200§出します。神殿の建て替えの費用ですが、当面は我慢しましょう」

「フアナさん、ブライトン殿、村を代表して感謝いたす」


 フアナとブライトンの援助に、村長は両手を合わせ、深々と頭を下げた。


 ここに、メルタ村第二の試練が幕を開けた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ