38.大乱闘騎士団ブラザーズRei
というわけで無理矢理戦闘回に持っていきました。
また、感想でアルテミスの身悶えるシーンを希望されましたので入れてみました( ̄∀ ̄)
書いててニヤニヤしてしまいました(笑)
「どうしてだ……どうしてこうなった!」
目の前には騎士甲冑を着た野郎どもがわんさか群がっていた。
おいおい僕はノーマルだぞ!
そんなに囲むなよ暑苦しい!
「レイ様!私にも稽古を!」
「レイ様!私にも……」
「どうか、どうか俺にもご教授下さい!」
「俺にも!」
「レイ様はぁはぁレイ様!」
おい待て、最後に変なの居たぞ!
間違いなくそっち方面だよね!?ね!!
くっ、こうなったら仕方ねぇ!
「お前ら全員かかってこいやぁぁあああ!!」
『『『うぉおおおおおおおお!!』』』
半ば自棄になりながら、僕は自分の行いの何が間違っていたのかを考えた。
そう、事の発端は……。
「失礼ながらレイ様。どうかわたしの願いを聞いていただけないでしょうか?」
庭で僕はロゼリーナとメイドのヴィヴィアンや女騎士のリベッタも交えて談笑していた。
二人とは名前で呼び合うくらいには仲良くなったつもりだ。
まあ相変わらずリベッタは硬いのだが。
そんな時、突然リベッタが僕に頼み事をしてきたのだ。
「なにかな?僕に出来ることなら大抵のことは受けるつもりだよ」
「そうですか!ではわたしと模擬戦をしていただきたいのです」
今思えばこれが災難の始まりだったのだ。
そんなことにも気付かず僕は、
「良いけど、どうして?」
と了承してしまった。
これで僕の運命は決まった。
そこで急に熱くなるリベッタ。
「聞けばレイ様はかの剣聖のご子息だとか!ならば剣士としてお相手していただくのはこれ以上無い幸せ!どうかお願い致します!」
「へぇ~そうなんだ。別にいいよ」
「ありがとうございます!では参りましょうか!」
そこでリベッタは歩き出す。
「行くって何処に?」
と傍らに居るロゼリーナに聞く。
「騎士団の訓練場だと思いますわよ。私も応援しますわ!」
「誰を?」
「レイに決まってますわ!」
「それは負けられないな」
苦笑して僕は返す。
「当然ですわ!」
とロゼリーナは頬を赤く染めながら小走りでリベッタの背を追いかけた。
「待ってください姫様ぁ~」
そしてヴィヴィアンも自らの主を追いかけていった。
最後に僕は、
「忘れ物は感心しないな」
と言って、リベッタに弾かれ飛んでいった木剣を魔法で回収し、去っていったロゼリーナ達を追いかけるのだった。
訓練場の中は熱気で満ちていた。
あまりの男達の熱気に思わず「うっ」と声を出してしまった程だ。
別に室内でやってる訳ではない。
訓練場はサッカーのスタジアムのようになっており、どうやら上から観戦できるようだ。
上ではロゼリーナとヴィヴィアンがこちらに手を振っていたのでとりあえず手を小さめに振り返しておいた。
そこでリベッタが声を張る。
「皆少し耳を貸して欲しい!今からここでわたしと第四王女ロゼリーナ様の婚約者であり、剣聖の御子息であらせられるレイ様との模擬戦を始める!観たい者は観戦席へ行くように!」
すると訓練に励んでいた騎士達は皆観戦席へと向かった。
「すごいな……」
「皆貴方がどれほど強いのか確かめたいのでしょう」
「王女を守るに値するか、試されてるってことか?」
「そこまでは言いませんが……」
「冗談だ。少し意地悪だったな。まぁ安心していいよ。たぶんお眼鏡には適うと思うからさ」
「それは楽しみです」
「うん、期待しといて」
そう言って両者開始の位置に着く。
「誰か審判をしてくれないだろうか?」
リベッタが言うと、
「俺が引き受けよう」
「ゼスか。よろしく頼む」
「心得た」
「ゼス……さん?よろしくお願いします」
「心得ました」
そしてゼスさんはルールを説明し始めた。
細かいことを省けばルールはこんな感じだ。
得物は木剣を使用。
魔法、魔術あり。
致命傷になりうるあらゆることは禁止。
最初に一撃を入れた者が勝ち。
武器を破壊されたら負け。
相手が降参したら勝ち。
「あの~木剣てこれでいいですか?」
「それは?」
「さっきまでロゼリーナが使ってたやつです」
「それならば別に構いません」
「分かりました」
リベッタの許可も取れたし、この木剣で頑張りますか!
ここで勝たなきゃ男じゃない!
「そろそろ始めます。両者準備は良いですか?」
「構わない」
「いつでもOKだよ」
「では両者構え!」
静かに、だが確実に緊張が高まっていく。
僕はこの静寂が好きだ。
前世で言う、舞台が始まる前の緊張と似てるから。
この先、自分の動きで観客の反応が変わると思うとワクワクする。
さぁ~て、始めよう―――――――――、
――――――殺陣を!
「始め!!」
こうして近衛騎士序列第5位リベッタと魔剣聖レイとの模擬戦が始まった。
開始の合図とともに飛び出したのはリベッタだった。
その速さは観戦している騎士から感嘆の声があがるほど速い。
一方僕はその場から動かず持っている木剣を脇に構える。
それはあたかも剣が納刀されているままの状態にも見えた。
これは前世で抜刀術と呼ばれる剣技であり、本来は鞘から刀を抜刀し、神速の居合いを走らせるという剣術だが、もちろんこの世界でそれを知る者は勇者くらいのものだろう。
しかしこれ、実は刀でしかやらないものだ。
でも僕はやる。
だってカッコイイから!
そこでリベッタが一見隙だらけに見える僕に袈裟懸けの一撃を放ってくる。
とれると思ったのだろうそこには笑みが浮かんでいた。
甘い甘い。
僕もニヤリと笑みを浮かべ、ギリギリのところで木剣を抜き放った。
観客は僕が何も出来ずに終わるのだろうと思っていたのだろう。
だがリベッタは嫌な予感がしたのか、その場からすぐに身を翻して躱した。
距離をとったリベッタだったが、その鎧の表面には小さな傷がついている。
観客席では「今何か見えたか?」とそこかしこから聞こえてくる。
やばい、楽しい。
「……今のはなんですか?」
と、リベッタが尋ねてきた。
僕は素直に答える。
「抜刀術って言ってね。まぁ戦いは剣が抜かれてからではないってことだよ」
「はぁ」
気の抜けた返事をするリベッタ。
そこで僕はあるパフォーマンスを思いついた。
右手に持っている剣をクルクルと高速で回転させたのだ。
会場がどよめく。
これはヒーローショーや舞台などでもある剣回しのパフォーマンスだ。
それを非常識なSTRにものをいわせて地球では有り得ない速度にしたのだ。
最後に一回転して正眼に構える。
これをやることに特に意味はない。
だが、上手い人がやるとめちゃくちゃカッコイイ!
そして僕はこの剣回しが得意だった。
だからこれをすれば……、
『『『うぉおおお!?』』』
こうなる訳だ。
ロゼリーナが「レイ、かっこいい……」と言ってるのが聞こえる。
照れるなぁ。
さてと、気を取り直して。
「今度はこっちから行くよ!」
「っ!?」
僕は一気にリベッタの懐へ飛び込むと同時に真横に剣を振るう。
リベッタはそれにしっかりと対処し、僕の剣を受け流すと突きを放ってきた。
しかし、リベッタの視界には既に僕はいない。
「は?」
突きを放ったそのままの体勢で固まるリベッタ。
僕はその剣先に着地をした。
「危ない危ない」
「な、にっ!?」
慌てて剣を下ろし、再び僕に剣を振るうリベッタ。
それはとても速い真っ向斬りであった。
しかし僕はその前にバク宙の一回転捻り、スタンフルツイストを華麗に決めて静かに着地した。
リベッタはその着地地点を狙い魔法を撃ってきた。
『炎よ、槍となりて敵を貫け。フレイムランス!』
着地したばかりの僕にそれが対処出来ないと見たか、観客が大いにざわめく。
炎の槍は着弾し、あたりを煙が覆う。
そう、湿っぽい水蒸気という煙が。
煙が晴れ、そこに左手を出し自らを覆うくらいの氷壁を展開している僕を見た観客はとても盛り上がった。
リベッタも驚愕に目を見開き、「あの中をどうやって?」と呟いている。
僕は氷壁を消すと疑問に答えた。
「僕は無詠唱で魔法が使えるんだよ。そのせいで『沈黙の魔竜』なんて恥ずかしい二つ名をつけられたけどね。しかし今のは焦ったよ。さすがは近衛騎士、強いね」
「……お褒めいただき恐縮です」
「あはは!無理しなくていいよ。あんたに褒められてもあんまり嬉しくないって顔に出てるよ?」
「そ、そんなことはありません」
「うん!ならそういう事にしておこうか。じゃあ―――行くよ?」
「っ!」
僕は再び駆け出した。
楽しい楽しい、打ち合う度に心が躍る。
やはり剣はいいものだ。
自分でも知らず知らずのうちに笑みを浮かべてしまう。
僕が斬り上げを行うとリベッタが避け、好機と見たのか一気に踏み込みがら空きに見える胴を凪いできた。
それを僕は空中で体を地面と水平にして横一回転、つまりバタフライツイストで綺麗に躱す。
剣を振ったあとの硬直を利用し、僕が突きを放つ。
慌ててリベッタは剣を前に出して防ごうとするが、あっさりと僕はそれを空中へ弾く。
僕は流れるようにそのままリベッタの脚を刈り、転ばせる。
そして最後に宙を舞っていたリベッタの木剣を左手でキャッチし、剣をクロスさせてリベッタの首元に当てた。
「チェックメイトだ」
リベッタは一瞬呆けたような表情をしたが、やがてニコリと笑みを零し負けを認めた。
「……参りました」
『『『うぉおおおおおおお!!』』』
観客席から歓声があがる。
僕は客席に手を振り、そして木剣を地面に置くとリベッタに手を差し伸べた。
「お疲れさま!とっても楽しかったよ!」
リベッタは僕の手を掴み、立ち上がる。
「こちらこそありがとうございました。まさかこんなにあっさり負けるとは思いもしませんでした……自分の未熟さが分かった気がします。これからはより精進したいと思います!」
「ははは、ほどほどにね」
「はい!」
ストイックだなぁ、と思いながら握手をし、ロゼリーナのところへ向かおうとすると騎士達が訓練場へ雪崩込んできた。
そして―――、
「まぁ冒頭に戻るということだな。ふぅ~疲れた」
訓練場には倒れた騎士が散らばっていた。
うん、僕が全員ぶっ倒しましたよ!
ちなみに掛かった時間は約10分。
前世でもこんなに大規模な立ち回りはやったことが無かったよ……。
手をパンパンと払って汚れを落としていると、ロゼリーナとヴィヴィアン、途中からちゃっかり観客席へ行っていたリベッタがこちらに向かってきた。
「お疲れ様ですわ」
「そう思うなら止めてくれても良かったんじゃ……」
「かっこよかったですわ!」
「……さいですか」
そう言われてしまっては何も言い返せない。
僕既に尻に敷かれてるんだけど……。
結婚したら大変な事になりそうだ。
まあ可愛いからいっか。
「さて、明日は学園行かなきゃだし、そろそろここを出ようかな」
「もう行ってしまわれるのですか?」
「うん。本当はゆっくりしたいけど、1ヶ月後にある武闘大会の申し込みをしないと」
「レイ様も出場なさるのですか?」
「『も』ってことはリベッタも?」
「はい。騎士は全員出場しますよ」
Oh……なんということだ。
今日倒した人達も出るのか。
やりづれぇ。
まあ出るけどね?
「私は観戦させていただきますわ!」
「ロゼリーナは見に来てくれるのか!」
「私は出ますぅ!」
「えっ!ヴィヴィアンが!?」
まさかロゼリーナならまだしもヴィヴィアンが出るとは……。
うん、よく見ればこの子暗器持ってるわ。
カチャカチャいってたのはそれだったのか。
怖いよ!
「そっか、みんな出るのか。お互い頑張ろうね!」
「ええ!」
「はい!」
「はいぃ~!」
「じゃあまたね!」
そうして僕は王宮を後にした。
転移魔法で。
いやだって申し込みは冒険者ギルドでやってるらしいからさ。
遠いんだよねあそこ。
というわけで一気に冒険者ギルドまで跳んだ。
もちろん裏手の人が居ないところだよ。
さすがに僕もそれほど常識知らずじゃないからね。
じゃあ行ってきます!
あ、ついでにサブ職業も決めようかな。
一方その頃天界にいる月の女神はというと……。
『雲上の神、かな』
「―――――――――っ!?」
レイの言葉を思い出しては身悶えし、思い出しては地面をゴロゴロと転がり、赤面した顔を両手で抑えていた。
何故顔を抑えているかと言うと、
「どうしましょう!顔のニヤケが止まらないわ!」
こういうことであった。
ゴロゴロゴロゴロ、ガツン!
「っ!?痛ぁ!」
しまいには壁まで転がり、頭をぶつける始末。
「最近は婚約者が出来たっていうじゃない?だから私は憂鬱だったのよ!でもそんな中での不意打ち!卑怯よ!レイは卑怯よ!うふふふふふ……」
そしてまたも身悶える始末。
もはやどうしようもない。
「……はっ!?そろそろレイがサブ職業を決めに来るわ!久しぶりに会える!うふふふ……」
そして再びニヤニヤとだらしない笑みを浮かべるアルテミス。
そこでアルテミスは重要なことに気がついた。
「……レイに会うまでに治るかしら?このニヤケ」
必死に自身と闘うアルテミスであった。
その日教会ではアルテミス像が終始笑みを浮かべていたとかいなかったとか。
信者達の安堵から、その事実は容易に想像できたという。




