39.ギャグパートの権化
冒険者ギルドの扉を開いて僕は中へと入った。
一歩踏み出せば視線の集中砲火、いや慣れたよ。
無視してそのまま受付に向かう。
しかし今日は不思議と絡まれなかった。
別に絡まれる事を望んでるわけじゃないよ?
でも、いっつも来る度に絡まれれば「あれ、今日は?」って自然となっちゃうんだよ!
……はあ、怒ってもしょうがないか。
たぶん理由としては僕の背が伸びたからか僕の名前が売れたからか。
「明らかに後者だろ!」って考えた人、手ぇ挙げて。
物理的に身長縮めてあげるからさ、フフフフフ。
いや、でも本当に身長伸びたんだよ。
今の僕の身長155cmだし。
ちなみにこの世界で13歳の男の子の平均身長は160cmだ。
女性は150cm。
ミュウからは「将来は長身美人だね!」って言われた。
身長伸びた意味ないですね。
はい、本当にありがとうございましたぁ!
くそぉーっ!そのうち絶対消してやるからなぁこの忌々しい称号~!
悲しい決意をひとまず胸にそっと仕舞い、受付嬢に話しかけた。
……正確には話しかける途中で踵を返した。
「すみませ……ごめんなさい間違えました失礼しますっ!」
僕は何も見ていない。
見て無いったら見て無いのだ。
薄緑色の髪にボーイッシュな雰囲気を漂わせてて和服が似合いそうな美人なんて見なかった。
だって居る筈ないじゃん、ここ王都のギルドだよ!
そうだ……あれはきっと幻覚だ。
そうだそうだ、そうに違いない。
「というわけで今日のところは帰rぐへぇっ!?」
「やあやあそこにいるのはレイ君じゃないかい?奇遇だねぇこんなところで出会うなんて」
僕が扉を開けて外に出ようとした瞬間、首根っこを掴まれ、目にもとまらぬ速さで受付の席へと戻された。
何この人ゴムゴ〇の実でも食ってたの?
腕めっちゃ伸びてなかった?
いや、ツッコンだら負けだ。
「ココココレハコレハ誰かと思えば城塞都市クートのギルドマスターカノン様ではないデスカ。オヒサシブリデス奇遇デスネ」
「なんだいその片言な喋り方は?最近の若者の流行りかい?まあいっか。それより君、私の見間違いで無ければ、さっき私を見てあからさまに出て行こうとしなかったかい?どうしてか理由を尋ねたいんだがな~?」
バレてらぁ。
ここは必死に誤魔化すべし!
「あ、アハハ!ヤダナァ、ソンナワケナイジャナイデスカ~ハハハ」
「うーん、本当にそうかなぁ?態々話しかけようとして出ていこうとしたように見えたんだけどなぁ。私、そういうのとっても傷ついちゃうんだけどなぁ」
………………。
「ごめんなさい謝りますから許してください」
三つ指立てて土下座する僕。
む、無理。絶対勝てない。
「うん、分かればいいんだよ分かれば。その代わり今度私の言うことを何でも1つきいてもらうけどね!」
「だから嫌だったんだぁぁああああッ!!」
「何にしよっかなぁ?あ、そうだ!今度メイド服着て奉仕してよ!」
「本気で容赦ないなアンタ!」
執事じゃなくてメイドというのが尚更タチが悪い。
うん、諦めよう。
この人に抵抗して成功したのは一番最初だけだ。
無心の境地だ。
「ちゃんとブラもつけてね☆」
「そろそろ黙ってくれない!?」
無心の境地は一瞬で脆く崩れさったのだった。
「それで、今日は闘技大会の申し込みでもしに来たのかい?」
さすがはギルドマスター、話が早い。
というか、
「……なんで普通に受付嬢してんすか?」
「む、まるで私が受付嬢をしちゃいけないみたいな言い草だね。これでもかなり馴染んだつもりなんだけど」
「うん、まわりをよぉ~く見てから言おうか。明らかに皆ビビってるからね!」
仮にも元Sランク冒険者だ。
『風獄の魔女』の名を知らない者は居ないのだろう。
そんなのが突然ギルドの受付嬢をしていたらそりゃビビるはすだ。
僕だってビビったし。
「さっきからやたら私のところに来ないのはそれが理由か。てっきり私の美貌に気後れしてるのかと思ってたよ」
「アンタ本当に揺るぎないな……」
帰りたい!今すぐここから帰りたい!
もういいや!さっさと用事を済ませよう。
「はぁ~。申し込み用紙をください。その後サブ職業も決めたいので案内してくれませんか?」
「了解したよ。じゃあこれ申し込み用紙ね」
差し出された紙に必要事項を記入していく。
職業か……魔剣聖だけでいいか。
サブまで書いたら大騒ぎになること間違いなしだ。
まあ、魔剣聖の時点でかなり騒がれると思うが。
書き終えた申し込み用紙をカノンに返す。
「確認お願いします」
「ほいほい。ん?サブ職業は書かなくていいのかい?」
「特殊なものばかりなんで」
「見せるだけで騒ぎになるサブ職業っていったいどんなのだろうねぇ。一度見てみたいよ」
「断固拒否させていただきます!」
「それは残念。確認終わったよ。選択の間に案内するからついて来て」
軽やかに席を立つとカノンは奥の部屋に消えていった。
なんだかんだ言ってギルマスだけに仕事が早い。
釈然としない思いを抱きながらも僕はカノンを追いかけた。
『選択の間』に着いた。
相変わらず暗いが、なぜか安心するような部屋だ。
そして中央には月を連想させる水晶が鎮座している。
以前までは分からなかったが、今ならわかる。
このどこか安心させるようなものの正体が。
「ここは君の優しい神気に満ちてるんだね、アル……」
「ん?何か言ったかい?」
「ここは安心しますね、って言ったんですよ」
「そうだね。暗いのにどこか安心させるような……そう、まるで愛に満ちているかのような感じがするよね」
「愛、愛か。ふふふ」
「む、バカにしてるのかい?」
確かにこれはアルの愛なのかもしれないな。
そう思うと自然と笑みがこぼれた。
「いや、案外カノンさんもロマンチストだなと思っただけですよ」
「わ、悪かったね!乙女はいつまでもロマンチストなんだよ!」
照れながらムキになるカノンは素直に可愛かった。
ただ、
「分かり……ましたから……首を……締めない、で……おえっ」
その両手は全力で僕の首を締め、前後にガクガクと脳内をシェイクしていた。
……僕じゃなかったら死んでましたよ?
「おっと、すまない。つい本気で首を締めてしまっていた」
そして見事なまでの切り替えの速さ。
いっそわざとやってたんじゃないかと疑いたくなる。
恨めしげにカノンを睨むと、
「何をしているんだい?速く決めに行きなよ」
「分かってたよ!アンタがそんな人だとは分かってたけどなんか納得できないッッッ!」
「うふふ、冗談だ。さすがの私も死人に鞭打ったりはしないさ」
「勝手に殺さないで!?」
「………………。」
「何か言えよ!!」
僕は諦めて水晶へ向かった。
後ろからはカノンの爆笑する声が聞こえる。
僕はおもちゃじゃないんだけどなぁ。
溜息をつきながら水晶に触れた瞬間、選択の間を閃光が包んだ。
あ、しまった。カノンに言うの忘れてた。
まあいっか。
周りの時間が停止する。
後ろを振り返るとカノンが驚愕の表情のまま固まっていた。
ふふふ、ざまぁ。
少し鬱憤が晴れたな、と思ったら不意に視界を何かが静かに塞いだ。
ひんやりして、滑らかな感触。
これは、手か。
するとすぐ後ろから綺麗な声が聞こえた。
「だぁ~れだ?」
「アル!」
「うふふふ、大正解」
手が静かに離れていく。
「ダメじゃない。私が居るのにほかの女の子を見たら」
ゆっくりと後ろを振り返ると、そこにいたのは黒髪金眼の美女、月の女神アルテミスが静かに微笑んでいた。
「久しぶり、アル。会えて嬉しいよ」
「久しぶりねレイ。といっても私はいつも見ていたけれど。私も会えて嬉しいわ。背、伸びたわね」
「それでもまだアルには届かないけどね」
「これからまだ伸びるわよ」
「だと良いけどね」
そして僕はふと思った事を尋ねた。
「アル、最近良いことあった?」
「えっ!?ど、どうして?」
「だってなんかすごく嬉しそうに見えたから……違った?」
「…………」
アルが固まってしまった。
あれ?聞いちゃまずかったかな?
それともまさか勘違い!?
だったらめっちゃ恥ずかしいなぁ。
「ふふふ、うふふふふふ」
すると突然アルが笑い出した。
「え!?なに、どうしたの?」
「あ~可笑しい!ええ、レイの言う通りよ。
あったわ。とっても、とっても嬉しいことがつい最近ね。まさか見抜かれるとは思わなかったからビックリしちゃったのよ。でもどうして分かったの?私、こう見えてそういうの隠すの神の中でも上手いと自負してたんだけど?」
「そりゃあ分かるよ。他でもない、アルのことだからね!声のトーン、見た目、そして気配。何をとっても今日の君はいつにも増して機嫌が良い。僕の顔についてる眼は節穴ではないつもりだよ」
なんかちょっとストーカーっぽいな。
引かれないよなこれ。
自分で言ってて不安になってきた。
しかし、その心配は杞憂だったようだ。
「そう。レイは私をちゃんとみてくれてるのね」
さらに機嫌を良くしたアルの嬉しそうな声が僕の耳に響いた。
微笑んでいるアルに僕も微笑みを返しながら言い切った。
「当然だよ。君は僕が誰よりも感謝しているかけがえのない神だからね!」
その後僕らはしばらく笑いあった。
「さて、今日はサブ職業を決めに来たんだけど、何かオススメはある?」
随分と長く話してしまったが、僕は本題を切り出した。
確か前は魔物が大量に押し寄せるからと言っておすすめな職業をアルが言ってくれたはずだ。
アルは「う~ん、そうねぇ~」と顎に手を当ててしばらく考えた後、
「あえて言えば称号と同じ名前の職業かしらね」
へぇ~称号と同じやつか。
「どうして?」
「そういったものはどれも強力な力があるからよ。レイも持ってるでしょう?」
「うん。殲滅者だよね?」
「あともう一個あるでしょう?」
あれ?なんかあったっけ?
とりあえず、ステータスオープン!
レイ・ヴァン・アイブリンガー(佐藤 黎) 半竜神
Lv.1004 男 13歳
ボーナスポイント:144600
称号:封印状態4/5 元天才軽業師 月の女神の友 竜王の孫 転生者 剣聖の息子
男の娘 超越者 殲滅者 魔王を退治した者 竜神 皆の英雄 邪神殺し 神殺し シェヘラザードの想い 沈黙の魔竜 鬼神
恨まれし者 リア充 特一級フラグ建築家 ワイルド王国公爵 第四王女の婚約者 カノンのおもちゃ☆ 視る者
職業:魔剣聖Lv. MAX 殲滅者Lv.47 聖竜騎士Lv.MAX
男の娘Lv.MAX 究極殺しLv.43
HP: 222607/222607 MP:1000000/1000000
STR:64243(+50)
DEF:64236(+50)
VIT:64121(+50)
INT:64254
DEX:64231(+50)
AGI:64314(+50)
スキル:
神力操作Lv.5
軽業Lv. 5
殺陣Lv. 5
体術Lv.5
片手剣術Lv. 5 (剣聖技、魔剣聖技)
両手剣術Lv.5
棒術Lv. 5
拳闘Lv. 5
竜の息吹きLv.5
気配察知Lv. 5
隠密Lv. 5
魔力操作Lv. 5
偽装Lv. 5
火魔法Lv.2
水魔法Lv. 5
氷魔法Lv. 5
風魔法Lv. 5
土魔法Lv.2
空間魔法Lv. 5
回復魔法Lv.4
生活魔法Lv. 5
詠唱破棄Lv.5
家事Lv.3
鑑定Lv.5
バッシブスキル:
異世界言語
異世界文字
竜の成長補正
女性成長補正
身体強化Lv.5
成長限界突破
即死攻撃無効
ユニークスキル:
魔剣創成
水氷魔法
竜化
鬼化
竜語魔術
超解析
無詠唱
はい称号無視しま~す。
だって見てるとイライラするから!
なんだよ、リア充って書いて爆発しろと読む称号って!
そしてカノンのおもちゃは、まあその通りだから百歩譲って仕方無いとするよ?
でもその後の(キラッ)って何!?
めちゃめちゃうぜぇえええ!!
だから無視する。
よし、次行こう!
「称号と同じ職業……それってまさか!」
「そう、それよ!」
そこで僕は重大な事を思い出した。
男の娘ってアルならけせんじゃね、と。
物は試しで聞いてみた。
「アル!称号やサブ職業って神力で消せないかな?どうしても男の娘を消したいんだ!」
「え?消したいの?」
「もちろん!」
どうやら脈アリっぽい!
聞いといて良かったぁ。
これでやっと男の娘から開放される!
するとそこでアルが驚くべきことを言った。
「称号はある程度自由に出来るけど、サブ職業は消せないわよ?」
「え?」
「当然でしょう。そもそも自分の未来を左右するものだもの。一度決めれば変えることは出来ないわ」
「そ、そんなぁああああ!」
僕は今日、絶望という言葉の意味を初めて知った気がした。
「ど、どうにかならない?」
「まあ手がないわけでは無いわよ」
「本当っ!?」
希望が、希望が見えるよ!
「ただ、あくまで男らしさが上がるだけだからそこまで変わりはしないけど、それでもいいの?」
「うん、うん!ありがとうアル!君はやっぱり大好きだよ!」
「ちょ、ちょっとレイ!?」
「あ、ごめん」
しまった。勢いでついアルを抱きしめてしまった。
怒ってないかな?とアルを見ると真っ赤になって何かぶつぶつ呟いていた。
「れ、レイが私を大好きって、大好きって言ってくれたわ。私今日死んでもいいかも……うふふふ……」
ちょっと不吉だけど怒ってはなさそうだ。
良かったぁ。
でも何を言ってるのか聞き取れないや。
まあいっか。
「それでアル……」
「ひゃいっ!?なんでせうか?」
「とりあえず落ち着こうか」




