33.ツンデレルームメイト
なんで?どうして日間ランキング5にランクインしてるんだろう。
アクセス数が大変な事にッッッ!
ありがとうございます!
「ふわぁ~。よく寝た」
ベットの上で体を起こし、大きく伸びをする僕。
ここは学園の男子生徒が使用する寮の一室、つまり僕の割り当てられた部屋だ。
バッカスと模擬戦を終えた僕はあの後、荷解き―――まぁ僕には空間魔法があるから解きはしないが―――をするために寮へ向かい、寮長さんに名前を言ったらこの部屋に案内されたわけだ。
ちなみに男子寮の寮長さんは普通に何の変哲もない男の人だった。
……べ、別に期待してたわけじゃないんだからね!?
「でもさぁ、やっぱり男子寮の寮長さんって大抵美人さんがやらない?
ていうかそれがお約束ってものでしょう?」
はぁ。これが現実というものか。
閑話休題。
まあ要するに、昨日は家具や調度品を配置したと言うわけだ。
「なに朝から独り言言ってるんだ?お前は精神障害者か何かか?」
「……朝からその毒舌は酷いと思うなぁ、アッシュ」
隣を見れば、そこにはいかにも几帳面そうなメガネ男子がベットに腰掛けながら目を細めてこちらを見ていた。
そう。実はこの寮二人部屋だったりするのだ。
そして僕のルームメイトは細身でスタイル抜群の理知的イケメン君なのである。
制服をキッチリと隙無く着こなし、くすんだ赤銅髪は綺麗に7:3に分けられている。
その口からは、知的な毒舌を容赦無く吐く。それがアッシュという男だ。
しかし一見隙無く見えるアッシュだが、唯一弱点がある。
この男、何を隠そう女性恐怖症なのである。
なんで1日でそんな弱点が見つけられたかって?
それは昨日、僕が寮に初めて入った時の話だ―――
「はい、ここがあなたの部屋ですよレイさん」
僕は寮長さんに案内され、寮の一室に着いた。
今日からここで3年間住むと考えると、少しワクワクしてきた。
「先に言っておくけど、ここは二人部屋だから仲良く使ってね。
まだ君のルームメイトは来てないみたいだから後できた時に挨拶しといて」
ほぉ~二人部屋か。
ルームメイトは優しい人がいいなぁ。
そして友好的な人。
間違ってもバッカスのような奴とはルームメイトになりたくないな。ペッ。
おっと、返事を返さねば。
「分かりました」
「じゃあはい、これ鍵ね。無くさないように。もし心配なら外出時はぼくに預けてくれればいいから」
空間魔法あるからいいかな?
まあそのへんはおいおい相方と相談しながらでいいか。
「はい、これからお世話になります」
「うん、じゃあね」
「ありがとうございました」
そうして寮長さんは帰って行った。
さて、そろそろ入りますか。
「いざ参る!」
渡された鍵を鍵穴に差し込み、回す。
カチャっといういい音が、間違いなく解錠されたことを知らせる。
ドアノブを回し、中へ入る。
「うわぁ~!広いし、思ったよりいい部屋で良かったぁ」
まるでホテルみたいな良い部屋だった。
大きな窓からは太陽の光が射し込み、室内を明るく照らしている。
壁は全て白で塗られ、シミ一つ出来ていない。
部屋は寝室、リビング、脱衣所、シャワールーム、トイレの五つに分けられており、寝室にはふかふかのベットが2つあった。
「風呂が無いのが悔やまれるな」
それを差し引いても良い部屋だと言えるだろう。
「じゃあ早速シャワールームを利用させていただきますか」
模擬戦をしたからか、なんとなくシャワーを浴びたくなったので僕はシャワールームを利用することにした。
脱衣所で衣服を脱ぎ捨て、そのままシャワールームでシャワーを浴びた。
「あ~生き返るぅ~」
浴び終えた後体をよく拭き、暑いので腰にタオルを巻きリビングに出て椅子に腰掛ける。
空間魔法でコーヒー牛乳に似た飲み物を取り出し、一気に飲み込む。
「ぷはぁ~。この時のために生きてるって気がする!」
そんな馬鹿なことをしていると、扉の前に気配を感じる。
敵か?と一瞬思ったが、その気配には微塵も敵意が感じられなかったので、すぐにルームメイトだと気がついた。
この格好のまま迎えるのはどうかと一瞬迷ったが、今更気がついても遅いと思い謝ればいいかと判断した。
僕がその判断を後悔することになったのは20秒後であった。
ドアが開き、一人の切れ長の目をした男が入ってきた。
その男は僕を視界に入れるなり固まってしまった。
まぁ確かに扉を開けたら半裸の男が一番最初に目に入ったら驚くだろう。
うん、それはいやだな。
謝ろう。
「見苦しい格好で迎えてしまってすまないね。僕が君のルームメイトであるレイ・ヴァン・アイブリンガーだ。よろしく」
「……」
あれ?なんかミスったかな。
何故そんなにも目を見開く?
「……お……」
お?やっと喋った。
「お?」
「……お、おお」
「おお?」
そこで真面目そうな男は肺に息をたくさん詰め込み、叫んだ。
「女ぁぁああああ!!?」
んん?
「へ?」
「なんで女が居るんだ?てか服着ろクソビッチ!テメェは娼婦か!」
「ちょっと待って何か勘違いを……」
「うわぁぁああ!寄るな触るな近づくな!」
寄るなと近づくなって同じ意味じゃない?
てかまず触ってないし。
うん。これ殴っていいよね?
「なんなんだお前は。ここは男子寮だぞ」
「ぼ……お……だ」
「は?何言ってんだ?聞こえねぇよ」
「僕は男だぁぁああああッッ!」
「ぐごべっ!?」
そして僕は赤銅髪のイケメンを部屋の外までぶっ飛ばしたのだった。
ということがあったわけだ。
いや、いつもなら僕も話し合いで男だと理解してもらうんだけどね。
不意打ちは卑怯だと思うんだ。
「何をボサっとしている。さっさと支度をしろ。遅刻するぞ」
アッシュがカーテンと窓を開けながら言ってくる。
「君は僕の母上か?今支度するよ」
しかしわざわざ僕が起きるまでカーテンを開けずに待っていてくれるとは。
案外ツンデレかもしれないこの男。
「さっさと準備しろ。お前が遅刻すると俺の印象まで悪くなるんだからな」
「うへぇ」
前言撤回。やっぱ最低野郎だ。
まあバッカスよりは断然いいが。
ベットから降り、着ていたパジャマを脱ぎ捨てる。
「おい、部屋を散らかすな」
「……わかりました」
この先やっていけるかなぁ。
制服に着替え、身支度を整えた僕はアッシュとともに部屋を出る。
昨日話し合った結果、鍵は寮長さんに預けることになった。
「おはようございます。これお願いします」
「おはよう。了解した」
アッシュが寮長さんに鍵を預け、寮を出る。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
僕も寮長さんに見送られ、寮を出た。
「アッシュ、今日の1時限目って何?」
「俺のクラスは数学だ」
「へぇ、僕のクラスは歴史だよ」
「そうか」
会話終了。
っていやいやいやいや。
「歴史って何やるかな?」
「知らん」
会話終了。
あれ?おかしくない?
「違うよね?もっとこう、会話のキャッチボールを楽しもうよ!」
「無駄なカロリーを消費したくない」
「会話くらいしろやぁぁああ!」
スタスタスタスタ。
アッシュは僕を残して早歩きで去っていこうとする。
ていうか速っ!歩いてるよねあれ?
僕が呆気にとられていると、アッシュの姿が校舎の中に消えていった。
「なんなんだあいつ?」
僕も小走りで食堂に向かった。
食堂に入ると、生徒達がごった返していた。
ちなみにアッシュはすっかり見失ってしまった。
「さっさと食べよう」
そう思っておばちゃんから朝食を受け取ろうと列に並ぶ。
するとタイミング悪く放送がなった。
『1年E組レイ・ヴァン・アイブリンガー。学園長がお呼びだ。至急学園長室まで来い。』
ん?僕か。
一体なんだろうか。
周りがざわざわしてきたので、僕は急いで食堂を出た。
あー僕の朝食がぁ。
学園長室の前につくと怒鳴り声が聞こえてきた。
「ですから、貴女の学園の生徒、レイ・ヴァン・アイブリンガーなる者に無理矢理模擬戦をさせられ、私の息子は傷だらけにさせられたのですよ!どう責任を取るつもりですこと?」
あー、厄介事の臭いがプンプンしてくるなぁ。
入りたくなくなってくるんだけど……。
仕方ない。
あきらめの境地で、僕は扉をノックした。
「1年E組レイ・ヴァン・アイブリンガー。参上しました」
「入れ」
「失礼します」
ドアを開けて中に入ると、学園長の他にケバい女がいた。
顔はなかなか良いが、その良さをかき消すような厚塗りの化粧に、キツイ香水の臭いが特徴的な細身のドレス姿の女だ。
会話を聞いた限り、この女がバッカスの母親なのだろう。
「貴方がレイ・ヴァン・アイブリンガーね!貴方のせいでうちの息子が怪我をしましたの。一体どうなさるおつもりかしら?」
そう言ってポンコッツ夫人は傍らにいるバッカスを撫でる。
親子揃ってバカなのだろうか?
「そうなのかえ?レイよ」
「はぁ。そのような事実は月の女神アルテミス様に誓ってございませんよ学園長」
「嘘つくな!無理矢理模擬戦を挑んで無抵抗の俺様を一方的に嬲ったくせに!」
「は?模擬戦を申し込んできたのはお前で、受けたのは僕でしょう?それに立会人は第四王女様にお願いしましたよね?よもや忘れたとは言わせませんよ。なんならロゼリーナに確認してもらっても構いません」
「グ、グルだ!第四王女様もグルなんだ!」
その一言にバッカスの母親も事態に気づいたのか、一気に顔色を青ざめる。
「まさか第四王女様を疑っているのか?不敬罪だぞ」
「う、うるさい黙れ!」
「黙るのは貴様じゃバッカス」
学園長室に濃密な魔力が荒れ狂う。
発生源は学園長だ。
バッカスとポンコッツ夫人はその威圧に耐えられず、膝をついている。
一方僕は全く顔色を変えず、学園長に視線を向けた。
「もう下がってよいぞレイ。どうやらお前に非は無さそうなのでな。後は第四王女ロゼリーナに真相を聞こう。呼んですまなかったな」
「いえ、では失礼します」
静かに扉を開け、後ろ手に扉を閉める。
そこで僕は1つ溜息をつき、
「朝食、食べ損ねたなぁ」
今後への憂いと朝食を食べ損ねた後悔を乗せ、もう一度溜息をついたのだった。




