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32.騒がしすぎる初日終了!

「ロゼリーナ」


レイが声をかけると、どこか緊張した面持ちで事態を見守っていた第四王女、ロゼリーナ・スィ・ヴァン・ワイルドが薄桃色の瞳をこちらに向けた。


「は、はい。なんでしょう?」

「悪いが模擬戦の審判を頼まれてくれないかな?

一番公平なジャッジが出来そうなのはこの場の中で君だろうから」

「承知しましたわ」

「お願いするよ」


レイはロゼリーナに向けていた視線をバッカスにずらし、淡々と告げた。


「場所は……まぁグラウンドでいいかい?」


バッカスは急に態度を真逆に変えたレイに困惑するも返信をする。


「あ、ああ。構わない」

「得物は木剣でいいか?」

「構わん」

「細かいルールはあちらで決めるとして、とりあえずご飯食べてからでもいい?」


ここまできて余裕をみせるレイに苛立ちを隠せないのか、バッカスは不機嫌そうに言った。


「ここまできて飯だとぉ?」

「決闘を申し込んできたのはそっちだよね?受けてあげるんだから文句言わないで欲しいんだけど。それに君にだって準備が必要だろう?まさかその格好で決闘するわけでもあるまいし。」

「っ!?ああ分かったよ!それでいい!」

「じゃあ決闘は一刻後の12時の鐘がなったら開始。

場所はグラウンドで得物は木剣。審判はロゼリーナにやってもらう。

これでいいか?」

「チッ!ビビって逃げんじゃねぇぞっ!」

「はぁ。君程度、逃げる必要なんてないよ。じゃあね」


そう言ってレイはミュウ、ガイ、ロゼリーナに声をかけると、踵を返した。


「てめぇは絶対泣いて許しを乞うても許さねぇ!」

「そうなるのは君だとおもうけどね」


ドアを開け、レイはそのまま去っていった。

バッカスは教室を見回し誰もいないことを確認すると、おもむろに通信用の魔道具をポケットから取り出し、魔力を込める。

魔道具は薄く輝きを放つとやがて何処かに繋がった。

バッカスはそれを自らの耳にあて、


「俺様だ。至急来てくれないか?」


と話し出した。


「どうしてもぶちのめしてぇ奴が出来た……」


通信を終え、魔道具をポケットに仕舞うと突然バッカスは笑い出した。


「くくく、くはははははは!」


その目は濁りきっている。

やがて笑みをおさめると、一瞬で真顔に戻り、


「地獄に落としてやるよ!」


と零し、そのまま教室を出ていった。

教室には久しぶりの静寂が訪れた。





「ありがとうロゼリーナ!」


食堂の前に着くなりレイはそう言った。


「?」

「審判役引き受けてくれて」

「別にいいですわよそんなこと。

それよりも勝てますの?」


と、そこで一度言葉を区切ったロゼリーナにガイが質問する。


「バッカスって奴強いのか?王女殿下」

「ロゼリーナでよろしくってよ。

腐っても三大公爵家の長男、当然それなりの教育は受けておりますわ」


するとそこでしきりに首を傾げるミュウ。


「う~ん。でもあの人(バッカス)がレイに勝ってる姿が想像できない」

「てかレイが負ける姿が想像できねぇな……」

「……貴方そんなに強かったんですの?」


そこで急にミュウの目が輝き出した。

お星様の幻覚が瞳にみえるほどだ。


「強いも何も、賞金首の盗賊団を一瞬でカッチカチのギンギンにしちゃったんだからね!」

「ミュウその発言アウトッ!!」

「ふぇっ!?」


確かに間違っていない。

氷漬けにしたのだからカッチカチにも光の反射でギンギンにも見えるだろう。

だが、その発言は危ない。

下手すれば規制がかかるのでは?とレイはくだらないことを考えていた。


レイがツッコミを入れたことに目をパチクリさせているガイとロゼリーナ。

どうやら理解していないようだ。

レイは内心でホッと胸をなで下ろした。


「まぁカッチカチのギンギンにできるなら問題無さそうですわね!」


(ブルータスお前もかッッッ!!!)


これ以上叫べば間違いなく変人扱いされるので、ツッコミは心の内に留めておいたレイであった。





今日のメニューはカツカレーだったらしく、トレーを受け取り席を探す。

だが、昼時なのでなかなか空いてる席がない。


どうしようかと悩んでいると、ポッカリと一部だけ空いている席を発見した。

その六人席は窓際で、日当たりの良い席で誰か一人が座っているのが見えるが、日差しの角度でどんな人が座っているのか分からなかった。


「相席頼んでみるか」


レイはそう決め、その六人席に近づき、声を掛けた。


「あの~相席よろしいで……す……か?」

「ん?」


そこに居たのはよく知った紫髪の幼馴染みだった。

ミリアも驚いているようで、表情が固まっている。

しかし同時にレイは納得した。


(まぁ確かに絵になるし、相席を頼むには勇気がいるよな……)


ミリアは紛うことなき美少女である。

そんな女の子が窓際にいるとして、声をかけるには相当な勇気が必要なのは想像に難くない。

すくなくとも前世のレイならば声を掛けられなかったであろう。

当のミリアはというと、


「なんだ、誰かと思えばレイじゃない!

久しぶりね。もちろんいいわよ座って。

あ、お連れの人もどうぞ座って!」


あっさりOKした。

ここでレイは少し悪戯をしてみることにした。


「ありがとう!ミリア先輩!」

「せ、先輩!?そ、その呼び方は嬉しいけど恥ずかしいからやっぱやめて!」


やはり面白い反応だとレイは思った。

と、ここでガイの石化が解け、レイに疑問をぶつけた。


「なぁレイ。その人確か2年首席の……」

「うん、そうだよ!この人は2年Sクラストップのミリア。僕の妹弟子さ!」

「「「い、妹弟子!?」」」

「あはは……」


3人は声を揃えて驚愕した。






「つまりミリア先輩は昔盗賊に攫われそうになったところをレイに助けられて、強くなるためにレイと一緒にレイのお母さんに魔法を習っていた、というわけですか?」

「うん、そうだよ。あと先輩は照れるから出来ればやめて欲しいかな……(もじもじ)」


食事をしながらのミュウの質問に、もじもじしながら答えるミリア。

僕はそれを見て密かに、しばらくはこれでミリアをイジれるな、とゲスいことを考えていた。


「へぇ~。レイの母ちゃんってすげぇんだな!」

「ああ、自慢の母上さ」

「レイはねぇ、凄いんだよ?私なんかよりずっと剣も魔法も上手くてね。結局最後まで追いつけなかったなぁ……」


ミリアはしみじみと語る。


「貴方予想以上にすごいんですのね?」


ロゼリーナにも感心される。

ちなみに先ほどミリアにロゼリーナを紹介したらものすごくびっくりしていた。

危うく椅子から転げ落ちそうになるところだったのだ。

そのあとロゼリーナから普通に接するように言われ、少々困惑しながらも普通に接しているのが現状だ。


流石に転げ落ちると先輩の沽券に関わるので全力で支えたが……。


まあそれはこの際置いといて、そろそろいい時間になってきたので僕は席を立つ。


「もう行くの?何か用事でもあるの?」


ミリアに聞かれたので素直に白状する。


「模擬戦を、ね」

「ふぅ~ん、誰よその命知らずは?」

「バッカス・ヴァン・ポンコッツですわ」

「ポンコッツ!?三大公爵家じゃない!レイ、貴方何を入学早々やらかしてるの!?」

「別に何もしてないよ?ただあっちが突っかかって来たから。それに……」


つい目を細めてしまう僕。


「先に手を出してきたのはあっちだよ」


ミリアは1度溜息をつくと、


「レイ、分かってると思うけど……」

「あー魔剣は使わないよ。そんなの使わなくて十分だよ」

「そ、ならいいわ。頑張ってね」

「ありがとう!頑張るよ、ミリア先・輩☆」

「っ!?レイ!!」

「あははは!じゃあまたね~」


僕は滑るような足取りで食堂を後にした。

去り際にガイがミュウに、


「姉ちゃん、ライバルは強力だな!たぶんまだまだいるけど頑張れよ!」

「ッ!?」


とよく分からないことを言ったらミュウがポカポカとガイを殴り出した。


新手の姉弟喧嘩かな?と僕は呑気に考えていた。






グラウンドには既にバッカスの姿があった。

しかし何故かその背後には屈強な男共が控えていた。

その数10人。

それを見た瞬間にレイは察した。


(あ~、やっぱりね。にしても冒険者を連れてくるとは予想外だったな)


そう。レイは最初から予期していたのだ。

バッカスがまともに闘うことは無いだろう、と。

仮にも全力の拳を片手で止められ押し返されたのだ。

それで実力を察せないほど、どうやら馬鹿ではなかったようだ。


するとロゼリーナが前に出た。


「バッカス、その後ろの方々はどちら様ですの?」


するとバッカスはわざとらしいほどに恭しく頭を下げ、挨拶をした。


「これはこれは王女殿下。よく来てくださいました。

こいつらは見ての通り模擬戦の参加者ですが、何か問題でも?」


明らかに分かっているのにシラを切るバッカスに、ロゼリーナはこめかみに青筋を立てた。


「貴方自分が何をしているのか分かっておいでですの?これはルール違反ですわよ?」

「これはこれは何をいうかと思えば、ルールには確か人数が指定されておりませんでしたよね?」

「ならばこれが有りだと仰るのですか!?そんなの絶対に間違って……」

「いいよロゼリーナ。全員相手するからさ」

「「「レイ!?」」」


レイが突然ロゼリーナの言葉を遮った。

その言葉にミュウ、ガイ、ロゼリーナは驚愕の声を上げる。


「はっきり言おう。こういうことも予測しなかったわけでは無かった。馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが分かってくれると思ったんだけどねぇ~」


そこで溜息をつくレイ。

次にバッカスを見るレイの目には明らかな侮蔑が篭っていた。


「君には心底失望したよ」

「貴様!!」


とここでタイミング良く12時を告げる鐘がなった。

レイは予め用意されていた木剣の中から適当に一本を取り出すと、ロゼリーナに告げた。


「始めてくれロゼリーナ」

「……はぁ、分かりましたわ」


やがてロゼリーナも諦めたのか大人しく両者の間から離れた位置につき、手を上げた。


「……両者構え!」


場を緊張が支配する。

緊張が最大に高まった瞬間、


「始め!」


ロゼリーナの手が勢いよく振り下ろされ、模擬戦は始まった。






先に動いたのはバッカスの後ろにいた冒険者達だった。


「へへへ」

「嬢ちゃんに恨みはねぇが」

「こっちも仕事なんでなぁ」

「ちょっと痛いかもしれねぇが」

「我慢してくれよ?」

「「「ぎゃはははは!!」」」


木剣をパシパシと手に叩きながら笑い続けている冒険者にレイは、


「あのぉ~そういうのイイんで、……さっさとかかって来やがれクズ共が!」


突然声を荒らげたレイに冒険者達は目を丸くし、やがて状況を理解したのか、今度は憤怒に顔を真っ赤に染めた。


「テメェ」

「人が優しくしてやってんのによぉ!」

「ぶっ殺す!」


「はぁ~、だぁかぁらぁ~」


瞬間、レイの姿がブレた。

と、思ったら冒険者A(仮)が高みの見物を気取っているバッカスのところまで吹き飛んだ。

バッカスは慌ててそれを避けた。



「早くしてくんない?」

「な、なにをしている!早くそいつを片付けろ!」



ここで焦りを覚えたバッカスは冒険者達を怒鳴りつける。

その言葉にハッとしたのか、冒険者達は油断なく今度はレイを取り囲んだ。

(なお、現在より最初に倒された冒険者をA、残りの冒険者達をB~Jと仮呼称)


「最初っからそうすればいいのに。なんで出来ないの?」


この一言にまた冒険者達は激怒した。

次々と気合の言葉を叫びながらレイに斬りかかってくる。


「死ねこの尼!」

「遅い!」


Bの斬撃を危なげなく木剣で受け流し、腹に掌をくい込ませる。


「ゴボェッ!」


それだけで冒険者Bは数メートル吹き飛び、白目をむき気絶した。


「バカにしやがって!」


冒険者Cは木剣を水平に凪いできたのでその柄に手を当て、勢いを利用してくるりと回転した。

すると冒険者Cは剣の柄を軸に空中で横回転をし、地面とキスをすることになった。


「ゲフッ」

「邪魔」

「おがぉっ!」


その場にあるのが邪魔だったのでついレイは蹴り飛ばしてしまった。

冒険者Cはそのまま倒れている冒険者Bの上に重なった。


続いて冒険者D,E,Fが同時攻撃を仕掛けてくる。

レイはそんなことは意に介さず、Eの木剣に自らの木剣を絡ませ跳ねあげる。

Eの木剣はあらぬ方向へ飛んでいき、Eは大きく体勢を崩される。


レイは流れを止めず、後ろから迫ってくるD,Fの木剣を認識し、木剣を逆手に持ち変えると、Dの木剣を弾き、Fの木剣へと衝突させる。

両者の木剣はてんでバラバラの方向に吹き飛び、D,Fもバランスを崩した。


ここまで、Eの剣を弾いてから約1秒の出来事である。

D,E,Fは何が起きたのか理解できていない。

だが、気づけば己の得物が消え、体勢を大きく崩し、目の前に空色の髪を持つ美しい少年が肩に木剣をトントンさせながら立っていた。


「そらっ!!」


レイは掛け声と共に自らを独楽のように回転させ、木剣で冒険者D,E,Fを弾き飛ばした。

もはや包囲網など存在しなかった。

美しい少年、レイは微笑みを絶やすことなく残りの冒険者達を睨みつけた。

そこには包囲網の名残で固まった冒険者G,H,I,Jが蛇に睨まれたカエルの如くなっていた。


レイの体がまたブレる。

残像すら残す速さで冒険者達の間をすり抜け、気付けばバタバタと冒険者G,H,I,Jが倒れていた。

その首には高速で打たれたであろう打撲の痣がのこっていた。


「うりゃぁあああ!!」


バッカスの踏み込みは確かに同学年で見れば速く鋭い踏み込みだった。

だが、それはレイにとっては全く脅威には成り得なかった。


「貴族に誇りを持つならば!」


そこでレイは大声を上げる。

バッカスが振り被った木剣の軌道をよみ、そこに直角に木剣を振るう。


「せめて最後は民のために―――」


木剣同士が激突し、


バッカスの木剣が斬れた(・・・)


そのことを認識したバッカスは即座に踵を返し、レイから逃げようとした。

が、既にバッカスはレイに手を掴まれていた。

レイがバッカスを引き寄せ拳を引き絞り、バッカスの頬に放った。


「―――闘って果ててみせろ!」


バッカスが大きく吹き飛び、地面をゴロゴロと転がり、やがて停止した。

歯が何本か抜けていた。

レイは振り切った拳を元に戻し、最後にバッカスを見ると、



「それが君が成り上がりものと罵った父上、

レウス・ヴァン・アイブリンガーの教えだ。

しかとその胸に刻むといい……ってもう聞いてないか」




「しょ、勝者、レイ・ヴァン・アイブリンガー!」



「レイお疲れー!」

「お疲れ様!レイ」

「見事な戦いぶりでしたわ!」

「ありがとう皆」


最後にバッカス達に範囲回復魔法を掛け、


「帰ろっか」

「おう!」

「うん!」

「ええ!」



こうして、騒がしすぎる入学式初日は幕を閉じた。




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