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エルグラント 〜勇者学園の神童〜  作者: 武崎豊
第三章 恋の嵐
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第二十四話 密会

 ミレアと交際を開始してから一週間後、レオンは再びサロンを訪れていた。

 レオンとミレアがテーブルを挟んで向かい合わせに座り、ミレアの側近がレオンとミレアの前にお茶を差し出す。


「夕飯の鐘が鳴りましたら、部屋の片付けに伺います」

「ありがとう、よろしくお願いします」


 そう言ってミレアは側近たちにニコリと微笑む。


「恐れ入ります。どうぞ、ごゆるりとお過ごし下さい」


 ミレアの側近たちは頭を下げ、部屋を後にした。

 レオンとミレアはお茶を一口飲み、受け皿にカップを置く。

 世間話を少しした後、本題に入る。


「最近、嫌がらせが起きたという話は聞かないですが、ミレアの方はどうです?」

「そうですね、私の情報網でも被害に遭った女生徒は確認できておりません」

「ミレア自身は何かされたりしてないですか?」

「ええ、私の周囲には常に人がおりますもの、危害を加えることは出来ませんわ」

「それは良かった」


 レオンは胸を撫で下ろした。


「そういえば最近、私とミレアの気になる噂を耳にしまして」

「噂、とは?」

「ミレアが公爵家の名を利用して、私と付き合っていると」

「ふふっ、面白い噂ですわね」

「ミレアはこの噂、どう考える?」

「男性の方は女性の方が身分や能力が高いと、プライドが傷付くという方も中にはおります。おそらく、レオンのプライドを刺激して、私と仲違いさせようとしたのではありませんか?」

「なるほど、そういう意図もあるかもしれませんね」

「レオンはどう考えます?」

「ミレアの名を貶めるため、という可能性もあるかと」

「そうですね、あるいはその両方ではないでしょうか」

「噂の出所を突き止められませんか?」

「実はレオンと交際する以前より、その手の噂は何度か流されているのですよ」

「そうなのですか?」

「ええ、ですが私の派閥の情報網をもってしても、噂の発生源を特定することは出来ませんでした。今回の噂も、調べても何も出てこないと思いますよ」


 やはり、誰かが明確に流した噂ではない。

 だから噂の発生源に辿り着くことは出来ない、ということか。


(厄介だな……)


 正面からぶつかってきてくれた方が、まだ対処のしようはある。

 実家にいる時は、兄のマルシスに散々嫌味を言われたが、それでも俺と向き合ってはいた。

 しかし、今度の相手は俺と向き合わない。

 向き合ったのは、サミーさんのように善意で動いた人たちだ。


「実はその噂のことで、ミレアにお願いしたいことがあるのですが」

「なんでしょう?」

「その噂を私に教えてくれた女生徒たちに、その噂はデタラメだから否定してくれと頼んだのですよ」

「まあ、それはありがとうございます」

「もしそれで彼女たちの立場が悪くなるようでしたら、ミレアの派閥で保護していただけませんか?」

「その女生徒たちは、シーラさんの派閥の方でしょうか?」

「ええ、そうです」

「分かりました、何かあれば保護いたします」

「ありがとうございます」


 レオンは深々と頭を下げる。


「うふふっ」


 すると、ミレアが笑い出した。


(なんだ? 何か変なこと言ったか?)


「なにか、おかしなこと言いました?」

「いえ……」


 ミレアはレオンの目を見る。


「レオンは相変わらず、お優しいのですね」


 そう言って、ミレアは微笑んだ。


 一通り情報共有を終え、レオンは部屋の出口へと向かい、ミレアも出口の近くまで付き添う。


「それでは、また夕食時に食堂で会いましょう」

「ええ、楽しみにしております」


 レオンは扉を開け部屋を出る。

 その姿をミレアは笑顔で見送った。


(最初は胡散臭い男だと思っていたけれど、信頼できそうね)


 ミレアはレオンのことを、何か裏があると思っていた。

 文武両道、容姿端麗、気立ても良く、人格者。

 まさに非の打ち所がない。

 驚くべきは、誰もレオンのことを悪く言わなかったことだ。


 人というものは、例え何も悪いことをしていなくとも、表面上では仲良くしていても、陰では悪く言われていたりする。

 それは、利害であったり、嫉妬であったり、ストレスの発散であったり、自尊心を守るための防衛本能であったりと理由は様々だ。

 しかし、レオンのことについては、不自然なくらいに誰も悪く言う者はいなかった。


 ミレアは、レオンが何か情報操作をしているのではないかと考えていた。

 けれど、これ以上嫌がらせの被害者を増やさないためには、レオンと付き合うしか方法は思い浮かばなかった。

 だからこそレオンを信用できずに、本当の理由は隠して、表面上の交際をしようとしていたのだが。


(世の中には、ああいう方もいるのですね)


 いざ話してみれば、レオンも学園で起きていることを自分なりに調べ、被害に遭った女生徒たちを本気で心配していた。

 彼女たちはレオンの恋人でもなければ、友達ですらない。

 一度は振った相手、同じ学園の生徒、ただそれだけなのに。

 そして、今度はシーラ派閥の者までをも気に掛けている。


「シノブ」


 ミレアが扉の方を向いたまま声を掛けると、部屋の物陰から一人の女生徒が音もなく現れる。

 少し小柄な体、肩口ぐらいまである黒髪をポニーテールにしている。


「お呼びでしょうか?」


 ミレアは振り返ると、ソファーへと向かい腰を掛ける。

 シノブはその横に移動し、片膝をついた。


「先程の話、聞いていましたね?」

「はい、学園に妙な噂が流れているとか」

「おそらく、調べてもまた空振りでしょうね」

「どうなされるおつもりですか?」


 シノブは現在鎖国している蒼嶺国《そうりょうこく》の忍者の末裔だ。

 忍者とは、主君に仕え、諜報、破壊工作、侵入、暗殺を生業とする、影として生きる者達。

 シノブの両親は、仕えていた主君が討たれ、中央大陸に逃げ延びる。

 シノブは中央大陸で生を受け、両親から幼い頃より忍びとしての技を叩き込まれた。

 今ではその技は、ミレアのために使われている。


「彼氏があそこまで真剣に頼んでるんですもの、レオンに接触した四名の女生徒、彼女たちが何かされた場合教えて下さる?」

「よろしいのですか? 彼女たちはシーラ派閥、敵に情けをかけるおつもりで?」


 シノブはミレアの派閥に入ってしばらくした後、ミレアの人柄に惚れ込み、己の素性を明かして主になって欲しいと頼み込んだ。

 以来、ミレアはシノブに学園内の情報収集を頼んでいる。


「彼女たちは敵ではありません、ただ流されているだけ。そういう意味では、彼女たちもシーラさんに踊らされている被害者なのかもしれません」

「寛大な御心、感服いたします」


 シノブはミレアの派閥に所属しているが側近ではない。

 表向きは。

 彼女が忍びであることは、シノブの両親とミレアしか知る者はいない。

 裏でミレアを支える、影の側近だ。


「やっていただけますか?」

「ミレア様のご命令とあらば」

「それではお願いします」

「はっ!」


 シノブが頭を下げ、立ち上がると、静かに部屋から退室する。

 ミレアは目を閉じ、数秒後ゆっくりと開く。


「このまま、何も起きなければ良いのですけど」


 ミレアはポツリと呟いた。

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