【絶望からの始まりの予感】
俺は二十八歳、独身。
特に理由もなく借金までして大学に行き、そのまま流されるように社会に出た。
働いてはいる。だが、まともかと言われれば違う。
すぐ感情的になり、大して理不尽でもないのに上司に噛みつく。
そして、すぐに謝る。
終わり良ければすべて良しそれが俺の信条だ。
金は適当に稼いで、ほとんどをギャンブルに突っ込む。
毎月の残高は、せいぜい数百円と少し。
普通の基準から外れていることくらい、自分でも分かっている。
だからこそ、開き直って生きている。
本気で何かに向き合ったこともない。
努力も、胸を張れる功績もない。
そんな俺でもやればできると信じたい。
そんなことを考えながら、社用車を走らせていた。
今日も、いつも通りの適当な一日になるはずだった。
ヤニでも入れるかと、タバコに火をつける。
「……なんだ、眩しいな」
対向車のハイビームか。
そう思ってクラクションを鳴らそうとした、その瞬間
視界が、白い光で塗り潰された。
目を開けると、また眩しい光が飛び込んできた。
……知らない天井だ。
ゆっくり視線を動かすと、金髪のシスターがいた。
何かを話しているが、言葉が理解できない。
どういう状況だ。
シスターが俺を抱え上げる。
……軽々と、持ち上げられた。なんでだよ。どんな馬鹿力だ。状況を整理しようと、直前の記憶を辿る。
――ああ、事故ったのか。
そこまではいい。
だが「なんでシスターなんだ……普通、看護師だろ」
もう一度顔を見る。
整った顔立ちだな、と場違いなことを思ってしまう。
口元が緩む。まずい、と手で隠そうとするが、動かない。
違和感に気づき、視線を自分の身体に落とす。
白い布。その下が、うまく見えない。呼吸が乱れる。声も出ない。
やばい。欠損してるのか。涙が滲み、視界がぼやける。やっと出た声は、「あ……あー……」情けない音だけだった。シスターが、笑っている。
小馬鹿にしたような顔で、俺を左右に揺らした。
……サイコパスかよ。恐怖より先に、苛立ちが込み上げる。その瞬間「ピリッ」と耳元で、静電気のような音がした。
「……っ!」
今度はシスターが苦しみだす。
どうした。大丈夫かそう言おうとして、言葉が出ないことを思い出す。何やってんだ俺。サイコパスの心配してる場合かよ。
慌てた様子で、シスターは俺をどこかに寝かせた。
「そんな……この子、ユニティーが……?」
その言葉に、違和感が走る。
……ん?今、普通に意味が分かったぞ。
もういい。どうでもいい。
こいつの遊び相手にでもなってやるか、そう諦めかけたとき、両親の顔が浮かんだ。
……泣くよな。ごめん、母さん、父さん。
シスターが、白い布を剥がす。
やめろ。まだ覚悟ができてない。目を閉じるが、間に合わない。そして、俺は理解した。
手も足も、ちゃんとある。……だが、小さい。
いや、違う。これ赤ん坊の身体じゃねえか。
「あー、あー!」勝手に声が漏れる。その瞬間、確信した。
転生している。
そう理解した直後、
下半身から、水分が勢いよくスプラッシュした。
慌てるシスター。どうにもできない俺。
……すまん、不可抗力だ。そう言いたげに、俺は笑った。




