アカキメ
メルは、痛みを感じ眼が覚める。
さっきの獣人族である青年が、深く脚と地面に突き刺さる長剣を抜こうとしていた。
だがあまりにも深く深く刺さり抜けずにいた。
カフエリはメルを介抱する為に獣人族の、
青年を応援している。
力む、その表情は赤くなり滑稽であった。
メルは、痛みを忘れ笑ってしまう。
獣人族の青年は気を悪くしたのだろう。
「ふん、化物が偉そうに!」
そういうと長剣を抜くのを
止めて他の者達の方へ行き穴を掘る。
メルは自分の破壊衝動が消えているのが理解できた。
獣人族の青年に頭を下げ「ありがとう。」
その一言を伝えるメル。
すると遠くで「うるセェ、バーカ。」
照れくさそうに頭を掻いている。
「カフエリ…。ありがとう。」
「誰も傷付けずにすんだ。」
カフエリにも頭を下げる。
何故か獣人族と同じ様に照れて笑うカフエリ。
メルは、片手で脚に突き刺さる長剣を引き抜く。
すると傷口から赤い液体が流れる。
カフエリとメルは驚く。
赤き血は、魔族や化物には流れない。
聖なる者の身体にのみ流れるのである。
(なぜ…俺は、化物の筈だが…。)
眉を歪ませ悩んでいるメル。
「私達と同じ血だね。」
「メルは、化物じゃないよ。」
カフエリは、心の中を覗いているかの様に
笑って話す。
メルは、自分の顔を触る。
やはり口角が上がっていた。
嬉しい。そう感じていたのだろう。
獣人族の青年が「おい、お前。穴を掘るのを
手伝え。」無遠慮にメルを指差し伝える。
メルは一緒に手で穴を掘る。
しかし穴をなぜ掘っているのか
獣人族の青年に尋ねた。
「弔うんだよ!分かったかメル。」
どうやら”墓”というものを作りたいらしい。
友、仲間、家族の亡骸を穴の中に埋める。
そして近くに咲いていた黄色い花、
(ミロエサリス)を墓に添えて瞳を閉じ
天に大地に祈りを捧げる。
メルも同じ様に祈る。
さてと…。これからどうしようか?
生き残った元奴隷達は、自分達の今後を話し合う。
メルは少し離れて座ろうとするがカフエリに手を引かれ獣人族の、青年とカフエリの
間に座らされる。
「お前、金目の物は無いか?」
いきなりメルに向かい聞いてくる獣人族の青年。
「お前では無いメルだ。」
「金目とはなんだ?」
その一言で元奴隷達はため息をして呆れかえる。
「とりあえず自己紹介しますか。」
カフエリがメルの事を仲間に
元奴隷達の事をメルに話す。
この無遠慮な獣人族の青年は
(メグラ)という名であり
人間族との戦で負けた国の住人であった。
鍛え上げられた肉体と縞々のふわふわした尾そして短気な性格が彼の特徴である。
「宜しくな!メル。」
牙を見せて口角を上げるメグラ。
メルは同じく口角を上げ牙を見せた。
何故かその場の空気が冷たくなる。
そして雪の様に肌が白い人間族の女性
生まれた時から奴隷だったとの事。
人間族同士でも奴隷を作る。
見た目は、二十代半ば傷を癒す(修道者)と
してこの場所に連れて来られたのだろう。
「助かったわ…メル、ありがとう。」
右手をメルへと差し出す。
何か欲しいのか?と思ったメルは血に染まったバンダナをユウの右手へと乗せた。
何故か更にその場の空気が重くそして悪くなる。
しかし奴隷という考え方がメルには不愉快であり怒りを覚えていた。
瞳が青い魔族の女性は言葉が話せない。
舌を切られているからである。
彼女も人間族との戦で負け奴隷として生きていたとの事。
だが彼女は、誰に対しても優しく接する。
フエンは魔族故に正確な年齢は
分からない。
だが見た目は十代の子供である。
彼女は、戦闘要員ではなく
別の目的の為に連れて来られた
らしい。
メルは怒りを覚えると紅き眼がズキズキと疼く。
人間族のユウは、これから王族の護衛騎士達が援軍としてここに来ると話す。
メルはそもそもここに来た理由を皆に尋ねる。
するとメルが倒した悪鬼を、
束ねる者は(ゴブリンジェネラル)と呼ばれ
恐れられていた。
もうかなりの被害と犠牲者が
出ていた。
故に討伐依頼が出されそれを
受けたのが黄金クラスの冒険者達であった。
黄金クラスとは冒険者達の頂点
を占める者達である。
それが半壊したのである。
王国の護衛騎士団が出るのも頷ける。
だがそんな相談も既に遅かった。
騎士団ではなく人間族最強と
呼ばれる死滅の賢者がメル達の前に現れる。
そのグランの瞳を見てメルは本能で、死を悟る。
グランの放つ殺気は、おだやかで静かな殺気である。
その異様で不気味な感覚で敗北を悟る。
メルはグランに向け「目的はなんだ?」と
尋ねる。
グランは、たった一言「特別種の生け捕りと分析。」それをメルに伝える。
メルは覚悟を決めた。
「俺の生命をやる。」
「その代わりそこにいる者達は見逃せ。」
「それが叶わぬのならば、この場で死を選ぶ。」
そう告げて長剣を首に突き立てる。
賢者グランはその行動に驚きと興味があふれでる。
それはそうだろう。
略奪と殺戮の悪鬼が
関係の無い奴隷達の身代わりとなると
提案してきているのだ。
グランは「ヒャハャヒャハャ。」
人間族とは思えぬ高笑いをする。
それを聞いたカフエリ達はメルとグランの間に立ち自分達だけが助かる位ならば…。
ここで相討ち覚悟でグランに挑むと息をまいている。
(聴いていた話と違うな…。)
グランは、敵意が無いと自分の杖を放り投げる。
賢者が杖を投げるという事は力が使えないという事である。
実際はグラン程の者ならば杖など、必要無い。
そもそも魔力を込めた気だけで
メルを含め全てを消し飛ばす力を持つ。
だがあえて敵意が無いと証明したかったのである。
(紅き眼を持つ者は正邪の理を越える。)
(…希望になればいいけど。)
理由は気まぐれなのかはたまたメル達を見て
何か希望を感じたのかも知れない。
グランは、
「皆ゴブリンに喰われて死んでいた事にするよ。」
「とりあえず戦利品としてこれ貰っていくよ。」
「あとメル君だっけ、お願いだから”あっち側”には行かないでね。」
そういうとゴブリンジェネラルの首をぶら下げて飛んで言った。
メグラは、腰が砕けてへたりと座る。
奇跡が起きた。
本来ならば皆グランに始末されていたのである。
メルは、不思議な感覚が胸に宿るのであった。
それは…。グランといつか戦ってみたい。
魔族の本能なのだろうか。
聖なる波動が宿る右手を握り締めて空を見上げる。




