プロローグ『ウンメイ』
不定期に執筆している為
気長にお付き合いをいただけると嬉しいです。
私のわがままですが、宜しくお願いいたします。
この世界は……混沌に満ち溢れていた。
『人間族』『魔族』『獣人族』『精霊族』
これらの者達はお互いに相容れず
決して交わる事などない。
そして各々の持つ"正義"という形の無い理想を掲げ争いを続けていた。
数ある種族の中で特に忌み嫌われている種族。
それは人間族であった。
人間族は傲慢で他の種族を蔑み見下す。
それ故に他種族の者達から憎しみと恨みを
持たれていた。
愚かな人間族は、己に従わぬ他種族を悪と
勝手に定め討伐と支配を繰り返している。
他種族も人間族の身勝手な正義という名の
支配に抗い戦う。
この様な戦争がもう6000年も続いている。
現在では争いの発端などを知る者もいない。
それでも無益な戦いが続いていた……。
各地で絶え間なく起こる戦のせいで
小さな村落を守る為に兵を送る事もない。
闇夜に輝く妖しげな紅き満月。
大地を血の様に染め上げ、照らし正邪を分ける。
不気味に蠢くそれは、光りを拒み闇を望む。
そして…破壊と死を呼び寄せる。
地図にも載らぬ人間族の小さな村へと
魔物達が無情の火矢を放つ。
村を取り囲む血も涙も無い化物たち。
大きな雄叫びと共に奇声を発し襲いかかる。
慎ましく暮らしていた罪も無い母と子の家にも例外なく不幸が訪れる。
「メル、ここに隠れて。」
「お母さんが必ず守るから。」
紅き瞳の女性が鉄の鎌を握り締め
我が子を戸棚の隠し扉へと押し込む。
(嫌だよ、行かないで。)
顔を無理につくろい微笑む女性。
「ごめんねメル…。」
「あなた…。どうかあの子だけは守って……。」
銀色のペンダントを強く握り締め祈る。
ガチャガチャパリーン。
窓ガラスが割れ。化物がその眼で獲物を捉えた。
ヒギャギギ。
鎌を振り回すが、躱され押し倒される。
ギャギャギャァ。
生臭い息を吐きかけ、紫色の粘り付く長い舌が女性の頬を軽く舐める。
止めて…。お願いぃ…。
ヒギャギギ。
その手を離せ!
化物の血で全身が紫色に染まる戦士。
斧を振り下ろしゴブリンを一刀両断する。
怯える女性に駆け寄る勇敢なる者。
「大丈夫か!」
手に古傷のある紅い瞳を持つ女性が
安堵のため息を付く。
「あ…りぃが、!」
しかしまだ新たなゴブリンが油断している
戦士の背後から首を鉄の鎌で切り裂く。
ガシュ。プシャァ、ピチャッ。
ぐぐぅ…。ドサッ…………。
「あぁ、そ、…ん。」
ギヒャー!!!
いぃやぁー、!……。
たった一晩でその村は跡形もなく消え去る。
この様な事が常に起きている。
それがこの世界である。
そして浚われた者達は、
自由など許されない。
生きる……。いや死んだ方がましなのかも
知れない。
だが弱者には生死すらも選ぶ自由など無い。
暗く生臭い洞窟。
糞尿の臭いが鼻につく。
そしてその洞窟の奥では、
地獄、地獄、地獄、地獄
死ぬまで深緑の化物に犯され
子供を作らされる。
そして死という安らぎが
訪れるのをひたすらに待つしかない。
洞窟の最新部、中央には体長3メートル弱の
化物が三人の哀れな贄を弄ぶ。
その光景は、命の営みという
神聖なものではない。
魂を汚し。蹂躙する。
まさに悪鬼そのものであった。
そして……。いつしかその者達からは
声が聴こえなくなる。
瞳から光も消え去る。
動かなくなった者はただの肉の塊と化した。
それを引き裂き、飢えた化物の子供に
分け与える。
その肉を化け物の子供達が貪り喰らう。
バキバキ、メリィ。
骨が砕ける音だろう。
そして最後に残った紅い眼を持ち、
手足に深い古傷がある、女性も化物の子供を産む。
紅い瞳から光が徐々に消えていく。
村に隠した我が子の幻覚を見ていたのだろうか。
「メル…。ごめんね。」
幼きゴブリンの頬を撫で
そのまま動かなくなった。
産まれたゴブリンもその女性と同じ紅い眼を持つ。
自分を産んだ母親が目の前で
化物達に引き裂かれ喰われていく。
その紅き眼を持つゴブリンだけがその光景を眼に焼き付ける。
紅き眼を持つゴブリンの頬には涙が伝う。
ここは悪鬼の巣窟。
誰も救いには来ない。
村を襲い手に入れた贄も底を尽く。
新たな贄を求めてゴブリン達は、蠢きだすのだった。




