45話 子熊族の移民
帝国歴223年11月 シューネヴァルト辺境伯政庁 リヒト・フォン・シューネヴァルト
シューネヴァルト辺境伯領が誕生してしばらくすると、異民族も異種族も差別されないという噂が広がり、少しずつ移民が増えてきた。
前領主の悪政のせいで人口が減っていたので移民は歓迎だ。
ある日、少し変わった獣人が移住を希望してきたと聞いて、会うことにした。
やって来たのは小熊族だった。
成人でも2キュビット(※)を越えるくらいしかない。
獣人には獣耳と尻尾以外の外見は人族と変わらない狼人族や弧人族のような部族もいれば、見た目が獣に近い子熊族のような部族もいる。
「初めてお目にかかります。小熊族の族長のフーと申しますクマ。」
変わった話し方だな。
「リヒト・フォン・シューネヴァルトだ。よく我が領に来られた。知ってのとおり、我が領はどの種族にも扉を開いている。今日から我が家と思ってほしい。」
「ありがとうございますクマ。」
フーは泣き出してしまった。聞けば、以前住んでいた皇子派貴族領ではタダ同然の安い賃金で農業や林業の手伝いをさせられていたらしい。
こんな可愛い生き物を虐めるとは、皇子派の貴族は歪んでいるなあ。
小熊族は取り敢えず移民用の集合住宅に住んでもらった。
幸いにグリューネヴァルトには材木は多いので住宅建設のコストは低い。
樹海は保護されているが、その周囲にも森が散在していて、もともと林業は盛んだった。
移民によって人口が増加しているが、受け入れがそこまで負担にならない理由の一つだ。
一週間後、フー殿と再び会った。
「辺境伯閣下、おかげさまで弱っていた同族も元気になったクマ。」
しっかり栄養と睡眠を取ったことで、長い逃避行の疲れもだいぶ抜けたようだった。
「それは良かった。今日は仕事の話と聞いたが、急がなくてもいいんだよ。」
「うぅ、閣下は優しいクマ。帝国貴族と同じ種族とは思えないクマ。」
フー殿は小さなハンカチで涙を拭った。
「でも小熊族も働けるクマ。こんなによくしてもらった恩も返したいクマ。小熊族は力仕事には向いていないけど、手先が器用なので細工物を造ったり、料理は得意クマ。」
「そうなのかい。じゃあ得意なことで仕事をしてもらえるようにしよう。詳しいことはアダムズ護民官と話してくれるかな。」
内政の実務面はアダムズ護民官とそのチームがこなしてくれる。つい頼ってしまって申し訳ないが、有能な彼らは綺麗に仕事を捌いてくれる。有難いことだと思っている。
グリューネブルク市街 リヒト・フォン・シューネヴァルト
しばらくして、小熊族のレストランの一号店がオープンしたと聞いたので妹とレーナと行ってみた。
木組みの壁に赤い屋根の可愛い建物だ。
木のドアを開けると、鈴の音が鳴った。
「いらっしゃいクマ。」
赤と緑のチェックの揃いのエプロンを付けた店員が笑顔で迎えてくれる。
「うわー、何これ、可愛い。」
「うむ、可愛いな。」
妹もレーナも喜んでいる。
席に案内されて、メニューから鶏肉のハチミツ焼きランチを注文する。
ランチはメイン料理にパンと紅茶、さらにデザートとしてパンケーキが付いているらしい。
「どうぞ、召し上がれ。」
小さい小熊族が一生懸命運んできてくれると、それだけでほっこりした気分になる。
「おお、甘いメイン料理っていうのも新鮮だね。元気が出そうだよ。」
「このパンも仄かな甘みがあっていけるな。」
うん、二人の言うとおり美味しい。特にパンケーキはふわっと焼き上がっていて、口の中で溶けるようだった。バターの塩味とハチミツの甘味が絶妙なハーモニーを奏でている。
これはうまくいくだろうと思ったら、予想どおり子熊族のレストランは大人気になった。
シューネヴァルトにはいろんな種族のいろんな店があるので、それを目当てに観光客が来るのだが、すぐに小熊族のレストランは人気スポットになった。
帝都の女性たちの間では「可愛い子熊族が接客をしてくれる美味しいお店」として話題になっているらしい。
レーナが話してくれたところでは、カトリーヌ皇女殿下からも依頼があり、子熊族のお菓子を帝都に送ったそうだ。
※1キュビット=約50㎝




