継承された才能
「由良花、最近の体の調子はどうだい?」
男は椅子に座っている。
「全然大丈夫です。」
由良花と呼ばれる女は男の正面に座っている。
「そうか、なら欲しいものはある?」
「無いです。」
「何でも良いんだよ?ゲームでも庭を広くして欲しいとか」
「無いです。」
芳蘿は頭を抱えた。
甘やかす方法がわからない!!
誰かいないのか、誰か、自分に甘やかす術を伝授してくれる人はいないのか。
「本当に…何もないのかい?」
「はい。」
由良花は真顔で言う。
「そうか、もう部屋に戻って良いよ…体調の確認をしたかっただけだから…
欲しいものが見つかったらいつでも部屋においで。」
「はい、では失礼します」
1人の女性は部屋から出ていく。
1人の男は頭を抱える。
「アルス様、今お時間よろしいでしょうか。」
「どうした?」
二人は耳に手を当てて音に耳を澄ませる。
「由良花様は何がお好きなのでしょうか。」
「好きなものか、」
数十秒、無言の時が流れる
「知らないな」
芳蘿はさらに頭を抱える。
「ただ…魔法は好きかもしれないな。あの子は見たことのないものを好むと思う」
芳蘿の表情は笑顔に変わっていく
「そうなのですね!ありがとうございます!」
「何が目的だ?」
「それは、ただ由良花様に気に入っていただきたく…」
「それは、それは。随分と時間がかかっているようで。これを機に人間との接し方を覚えるのも良いだろう。」
「心に刻んでおきます。それでは、失礼致します。」
「あぁ。」
声は互いに聞こえなくなった。
芳蘿は悩んだ。
魔法…か
自分はあまり戦闘魔法を使うのを好まない。だが、自分が使える魔法はほぼ戦闘魔法だ。
「どうするか…」
その時、コンコンと音が聞こえた。
「誰?」
「由良花です。」
「どうぞ」
「ちょうどよかった、話したいことがあったんだ。君の欲しいものについてだが…」
「それについて私も話したいことがありました。私の欲しいものは、剣です。私は剣が欲しいです!」
「剣…?魔法を教えてあげようと思ったんだけど…そうだね、だが、剣をもらってどうするんだい?」
由良花は芳蘿のすぐ目の前まで歩く。
「剣で戦えるようになりたいです!」
「剣か…」
やはり血は争えないか。
「わかった。剣を買って、教えようか。」
「良いんですか?ありがとうございます!」
芳蘿は由良花の頭を撫でた。
「由良花が望むことなら、喜んで」
由良花は少し恥ずかしくなった。
顔が少し赤く染まり、素早くドアの前に立った。
「私はこれで、失礼します!」
そして素早く出ていった。
芳蘿は由良花が愛おしかった、とても可愛かった。と思った。
「はははははは」
思わず笑ってしまった。とても可愛いかった、それはもう…誰にも渡したくないほどに。
数日後、芳蘿の元に剣が届いた。芳蘿たちが住んでいる屋敷の壁に飾ってある剣よりも刃が短く軽い、これは芳蘿が由良花に合うように事前に頼んでおいた。
芳蘿はすぐに由良花を呼び出し、
「今から軽く剣を振ってみよう」
と言った。
芳蘿が連れて行った練習場のことを由良花は知らなかった。
「ここで剣を練習するんですか、広い割にはだれもいませんが…」
「君は屋敷内で何人の人を見かけたことがある?」
「芳蘿さんと…あと4人ぐらいですかね?」
「そうだね、ということは?」
「この屋敷にはあまり人は出入りしない…?」
「そう、正解だよ。ここには君と私以外は誰も住んでいない。こんなに広い練習場があるのは、いずれ誰か雇おうと思っていたんだけどね。自分が強くなってしまったから、その必要がなくなったんだ。
さて、雑談はこれぐらいにして、今から剣を振るってみるからしっかり見ておくんだよ。」
由良花は芳蘿から少し離れ、芳蘿を見つめる。
フゥゥゥと息を吐き、力を体全体に分散させる。
由良花は今か今かと待っていると、徐々にその場の空気が張り詰めてきた。
そして、1秒程で芳蘿は剣を華麗に振り、5mほど先に立っていた。
由良花は一瞬だが芳蘿が剣を振って空中で回転し何度も突きと振りを入れていたのがわかった。
彼女は彼の剣術に心が奪われた。
「芳蘿さん、私もやりたいです。私も!そのように剣を!振りたいです!!」
由良花は人生で今までも、これからもないだろうと思えるぐらいの満足感を感じた。
芳蘿はそんな由良花の笑顔を見ることができ、とても嬉しかった。ここまで喜んでくれるとは思っていなかったのだ。
「由良花、こちらにおいで。教えてあげよう。」
由良花は芳蘿の横に立った。
由良花は剣を両手で握り、芳蘿が振っている剣を見よう見まねで振ってみた。
「腕と足に力が入りすぎてるかな。」や「それだと刃が綺麗に入らないよ」と言ったアドバイスを芳蘿はしていたが、由良花にはイマイチわからなかった。
「よし!じゃあ感覚で覚えようか。」
芳蘿は由良花の後ろに周り、由良花が剣を握っている上から手をさらに被せた。
「基本はこう!スパッと下に刃を向ける!」
そうして2人は何時間も何時間も剣を振るった。
「疲れたようだね」
由良花は両膝に両手をつけ、呼吸が速くなっている。
「芳蘿さんはとても…まだ元気なご様子で…」
「まぁ…体力をつける必要があったからね。君は疲れたら休憩して良いんだよ?」
「いえ、まだ。まだ出来ます!」
芳蘿は数秒考え、「わかった」と了承した。
それから1時間後、由良花が倒れるまで特訓し続けた。
「由良花!由良花!」
「芳蘿…さん?」
由良花の目には知っている天井、そして知っている男が映っている。
「もう身体の限界だと気づいてあげられなくて申し訳ない…」
「大…丈夫ですよ。私の体は意外と頑丈なんです。」
由良花は体を起こした。
「こう言ってはあれだが…由良花の剣捌きは筋が良かった。君が無理をしない範囲でまた練習したいと言うなら、教えてあげられるが…」
芳蘿は少し目を下に向ける
「はい!もちろんですよ!これぐらいで私の心は変わりません!」
由良花は羨望の目を芳蘿に向ける。
由良花は希望に満ちていた。
由良花の目を見た芳蘿は見てはいけないものを見てしまった気がして、咄嗟に手を由良花の頭の上に乗せて
「今日はもう休んでいなさい」
と言った。




