12
無事に江蓮邸に戻れた。この敷地内では水の精霊がある程度は優位になれるように手を入れてある。
(精霊王クラスの力の持ち主に対しては“無いよりはマシ”程度の微々たるアドバンテージだが)
涼からしずくに礼の言葉が掛けられた。
「助かった、しずく。感謝する」
姫からも感謝の言葉があった。
『うむ助かった。我からも礼を言うぞ。』
「勿体無いお言葉です」
涼が火の精霊王に声を掛ける「ここ江蓮邸敷地では、巨大な精霊力が発現しても外には感知できないように結界術を行っている。一度本来の姿に戻って傷と精霊力の回復を行うと良い。ただし精霊王クラスが長時間発現しても大丈夫という保証はない。短時間で頼む」
火の精霊王が手を握ったり開いたりし、それを見つめながら言う
「大してダメージはねえし、精霊力もまだ充分に余裕がある。それに…燃やして良さそうなものも見当たらねえしな」
そう言って周りに目をやると、確かに手入れの行き届いた庭には落ち葉も小枝も見当たらなかった。
涼は姫の方に向き直り、姫にもお伺いをたてた
「姫は如何ですか?」
姫『わらわも大丈夫じゃ。先ほどの水が効いておる。しいて言うなら若干おなかが空いた。美味しいものを食べて、ぐっすり眠れば完璧じゃ』
“美味しいもの”を想像し、姫の顔がほころんだ。
人間の身体に化身している時は、所謂“人の身体の休息回復方法”である適度な食事と睡眠を行う事により、それなりに精霊力も回復するのだった。
しずくが少し申し訳なさそうに言う
「出かけに“食事不要”の宣言をされましたので…おにぎりぐらいでしたら即時準備出来るのですが…」
涼がしずくに声掛けする
「それは私の判断ミスだな。すまなかった」
これほどまでの事態になるとは思っておらず、調査後、帰宅時に姫が食事を所望するのであれば、何か購入して帰ればよいかぐらいに考えていたのだが、まさか帰宅すらおぼつかないほど苦戦するとは…。
姫も『うーむ』と唸りながらも仕方なしかといった表情をしていた。
涼がふと疑問に思った事を火の精霊王に尋ねた。
「何故あそこに現れたのだ。いや、そもそも何故人間界に来ようと思ったのだ?」
火の精霊王が答える
「まあ、化身人化術を覚えたとは言え、体を水みたいなものに変えようってのは…そりゃ抵抗はあったさ。ただ、姫が人間界に御自ら出向かれるって言われ、しかもすぐ帰るって聞いていたのに一向に戻る気配が無い。居ても立っても居られなくなったんだ」
火の精霊王が言葉を続ける
「それでゲートに出来そうな炎を近辺で探してたんだが、なかなか大きな炎が無い。困っていると近くのビルってところ?で大きな火があがったんで、次を伺っていたんだ。そうしたら案の定火が上がって、様子を見てみたら中々大きな炎だったんで、見つからないようにゲート移動して、身を隠そうと思ったら、うっかり喋っちまった。まさか喋った相手が“邪なるもの”とは思わなかったぜ」
涼「ふむ、場所と場合によっては大きな炎があがる場所があるのだが、火力発電所や焼却場など限定的でゲート移動には向いていない。炎のゲートでの人間界との移動は、そう考えるとかなり難しいな。」
火の精霊王「まったくだ。さっきの場所の近くで少しマシな炎があったんだが、燃えてる間は人間の声が途切れなかったしな “麻婆豆腐イー、餃子リャン、チャーハンがサン…” とか」
涼が呆れた顔で火の精霊王を見た“中華料理屋のコンロでゲートを開くつもりだったのか”。
姫が何かを思いついたように顔をあげ、火の精霊王に向かって言った
『火の精霊王、その圧倒的な火力を持って成し遂げるべき使命を与える!』
反射的に火の精霊王が跪いて言う
「なんなりと!」
(“俺は火の精霊の王なのだ。火に関しては俺に出来ない事は無い!”)
姫『チャーハンを作れ!!』




