小◯の音が聞こえてくるよ
「仕方なく……仕方なくなんだから」
私は恐る恐る……もあるけど、少し興味があって、男子トイレに足を踏み入れた。
「……へぇ~、意外と綺麗だし、男臭いというか、変な臭いもしないわね。臭いは女子の方が酷いかも」
男子トイレの中には誰もいなかったので、色々と調べる事が出来る。男専用のトイレは的みたいなものがあって、そこを狙ってるんだろう……とか、意外に汗臭いとか、タバコ臭くもなかった。女子の方が臭い……というのは、化粧の臭いがキツイって事ね。
「個室の方は……流石に一緒だよね。って、何!? 壁に文字が書かれてる。『愛して欲しい人はこの番号に』って、本当に電話番号が書いてるし」
他にも変なコメントとか、落書きが書き込まれてる。その番号に連絡すると絶対危ないでしょ。男子トイレに書いてるんだから、相手も男だよね? BL展開……なわけじゃなく、何か生々しくて嫌なんだけど……
「それでも紗季の漫画のネタになるかもしれないから」
これをカメラに残す事で、蛍の前で置き去りにした事はなしにして欲しいぐらいなんだけど……
「あっ……」
爺さんが男子トイレに入ってきた。男子トイレを写真に撮る変質者と思われるところだったけど、個室の部屋を閉じる事で事なきをえた。
「ふひ~」
と思ったのも束の間。爺さんの奇声……じゃなくて、スッキリした声と共に、あの音が聞こえてくる。トイレでする事なんて一つしかないでしょ。
(そんな音、聴きたくもないんだけど!!)
脱出すれば問題ないけど、ここにいるのが誰にも知られたくない気持ちもあるし。
「ふ~何とか間に合った」
「公園にトイレがあって、良かったっすね」
と、更に男達がトイレの中に。しかも、爺さんのはまだ続いていて、嫌な音の合奏が……カエルの歌みたいな感じで……ある意味地獄だわ。
(女子とは違って、男子がここに入ってるという事は……長くいるだけ、ここから出た時に変な目で見られる)
もしかしたら、ベンチに座っていたオッサン達が、私がトイレに長い間いる事に気付いてるかもしれない。そこで思う事なんて……
(私も合奏に参加……するか!!)
思わず、気を紛らすためにトイレをしようとしたけど、何とか踏みとどまった。ズボンに手を掛けたら駄目。
その手助けをしてくれたのはスマホの着信音と振動。それも紗季からだ。
(紗季が公園に着いたなら、自然とトイレから外に……ここで紗季と会うのはいいの?)
オッサンの姿の私と、女子高校生の紗季が待ち合わせをしてるのは端から見たらおかしい……ベンチにいるオッサン達から見たら、羨ま……じゃなくて、駄目な事をしてると思うんじゃないの? まだ一緒に来てた方が……
『今回のネタはなしで。少し経ったら、デザートバイキングの【ケーキング】に集合。私のためを思うなら、来てくれ』
「こっちに来ないのかい!!」
思わず、トイレの個室の中で叫んでしまった。