番外編 花畑薫の災難 ー1ー
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俺の名前は花畑薫。周囲の人間が逃げ出す程の強面の男ながらも、女子しか持てないはずの能力を手にした男でもある。その能力はチョコを食べるとオバサンに【変身】というろくでもない……と思うかもしれないが、案外悪くない。
というのも、俺の些細な夢を叶えてくれるからだ。
駅前商店街にあるケーキバイキング【ケーキング】。そこはある意味、女の花園。男だけで無闇に足を踏み入れる場所ではない。
だが、甘い物好きの俺としては、一度はケーキに囲まれながら、それらを食べるのが夢だった。加えて、スタンプカードのスタンプ十個集めると、用意して貰えるスペシャルケーキも興味がある。
その全てを叶えてくれるのがオバサンに【変身】だ。オバサンといえど、女性だ。何の問題もない。
「いらっしゃいませ。お一人様でよろしいですか?」
「……はい」
俺はドキドキしながらも、【ケーキング】の中に入り、店員に案内される。店内を歩く中、数多くのケーキを見るだけでも至福な気持ちにさせてくれる。
店内はやはり女子ばかり。どういうわけか、視線は俺の方に向けられている気がするんだが……窓に反射して自身の姿が見えたけど、元の姿に戻っていない。
「あの人……モデル? スタイルとか凄いんだけど」
「……美人が歩いてる」
そんな声が聞こえてくるが、俺じゃないだろう。【変身】した姿は身長も百八十近くで、筋肉もついてるわけだが、母親に少し似ていて、美人ではないはず。
「こちらはバイキング形式になっていまして、お客様の食べれる量を選んでくださいね。時間は一時間となっていますので、お気をつけください。ドリンクバーは+200円で追加出来ますが、いかがでしょうか?」
「それじゃ……ドリンクバーをお願いします」
「分かりました。ドリンクバーはセルフとなっていますので。どうぞ、お楽しみください」
言葉使いも注意しなければ、怪しまれる。そこは頭の中でシミュレーション済みだ。チョコもカカオ96%を選び、三時間は【変身】状態のまま。%が高いと時間も伸びる。とはいえ、チョコケーキを食べた事で重複する事はない。最初に口にしたチョコの時間が経過しなければ、いくつチョコを食べても変化しないのも確認済みだ。
ショートケーキ、モンブラン、タルト、チーズケーキと種類が豊富。日替わりのケーキもあるらしく、【変身】出来る事で、十回だけでなく毎日でも通う事に何の躊躇いもない。
だからこそ、今日だけで全部を制覇するのではなく、一つずつ味わって食べると決めていた。
「よし!! いざ出陣……」
席から立ち上がったところで、体が硬直した。というのも、【ケーキング】に新規客が入ってきた。しかも、同じ学年の海野蛍。学校の有名人ではあるが、彼女相手に緊張したわけじゃない。
その後ろの人物、海野と一緒に入ってきた人物が駄目なんだ。俺の天敵と呼んでも過言ではない、有野紗季。
奴は俺が可愛い物を集めたり、甘い物が好きな事という弱味につけこみ、無理難題を突きつけてくる。
折角の至福の時間が、地獄の時間に変わったのでは? と思ってしまうぐらいだ。




