12 告白の行方
長い、長い沈黙が横たわったあと。ふと黒髪の少年が我にかえった。
告げてしまった言葉を反芻し、(勢いで、告白……。しかもこの体勢……)と、今更な心配をし始める。
内心でたらたらと冷や汗をかき、それでも抱きしめた少女を手放せずにいたとき。「……あの」と、身じろぐ気配があった。
アルムは慌てて力を弛めた。
「ごめん、いやだった?」
「え、ううん。その……嫌とかじゃなくて………殿下からのお達しと、正反対じゃないの? これって」
「――……」
腕の中の、ごく近い距離から少し上ずった甘い声が響くことに先ず打ちのめされる。
小柄な彼女の頭の位置は、アルムの鎖骨に届くほど。すこし体を離すと、隙間の分だけ温もりが恋しくなったが……あえて身を屈めて覗き込む。
次いで、絶句した。
俯いた少女の赤面の破壊力が、もの凄い。まだ、そこまでの夕映えじゃない。
伏せられた暁色のつややかな睫毛が、なにかの奇跡みたいに綺麗な影を頬に落としている。
揺れて潤む青い瞳に、ただ見とれる。――幸せな気持ちになる。
「……どうしよう」
「ね? そうでしょう? 貴方、将来は殿下の近臣っぽいじゃない。だめだよ」
「いや、そうじゃない。ユナが好きだって再確認してた。マルセル経由の皇王命令だけど、気持ちは偽れないよ」
「皇……っ?! ますます、だめじゃないの!」
細い腕が精一杯の力でアルムの胸を押す。その華奢さがいとおしくて、名残惜しかったけれど腕を解いた。
それを、どう受け取ったのか――ユナは、握った小さな拳を心臓のあたりに当てて、すぅ、と息を吸い込むと……辺りに響き渡るほどの大音声を放った。
「だめだからっ! もう、歌のパートナーもなし!! 他をあたって! わ……わたし、アルムをそんな風には、ぜっったい、見られないからっっ!!」
――ほぼ、涙目で言葉を叩きつけた彼女は素早く踵を返し、そのまま走り去って行った。
* * *
深夜。
コンコン、と部屋を訪う音がする。誰なのか、何となく察したアルムは寝台で仰向けに寝転がったまま、左手の甲を額に当てて「……どうぞ」と応えた。
意外な繊細さで、音もなく扉を開けたのはプラチナ色の髪の美青年。そっと閉めてからはいつも通り、時間帯にそぐわぬ明るさで話しかける。
「慰めに来たぞ、色男。振られたって?」
「……どこから聞いたの、それ」
「夕食のとき。ユナと同席になったからな。様子がおかしかったので探りを入れた。呆気なかったな」
それが、彼女が白状したことを指すのか、アルムが振られたことを指すのか――判別し難かったが、アルムは重いため息とともに半身を起こした。ぎし、と寝台が軋む。
「それで? わざわざ笑いに来たの」
「慰めに来たと言ったろうが、馬鹿め。ほら起きろ。さっさとグラスを出せ」
「えぇ……今から飲むの。そういや、夕食とってない……やばい。お腹減ったかも」
そう、思わず漏らしたとき。
前触れもなくカチャ、と扉がひらいた。
「呼んだか?」
「呼んでない」
もはや定番のやり取りである。
「何なの、あんたら……待ち合わせなら違う場所にしろよ」
げんなりとした黒髪の少年の意見は、かなり綺麗に聞き流された。
断りもなく入室した白銀の髪の青年は、手にしたバスケットを掲げて見せる。窓からの月明かりではなく、かれ自身がもう片方の手に持つランタンによって、暗い部屋の中でも浮かび上がる、それを。
「んん~? そんなこと言っていいのかぁ? 皇族特権でわざわざ夜食まで作ってもらったのに。つれない奴だなぁ……でも、そこがまたいいんだよな! ジュード?」
「そうだなマルセル。流石、よくわかってる」
うんうん、と頷いた南国の王太子の両手には、やはり断りもなく棚から出されたグラスが三つ。
ランタンの灯りが室内を移動する。部屋の中央となる、窓と扉をつなぐ線をはさんで寝台の反対側――こじんまりとしたソファーとローテーブルのある、応接セットまで。
「ほら、始めるぞ。来い」
「…………ほんとに。あんたら、揃いも揃って、しょうもない……分かった。わかりましたよ、起きます今行きます」
きし、と再び寝台を軋ませて素足のまま降りて、歩く。
部屋に差し入る青い月光の向こう側、あたたかなランタンの灯りまで。
どうしようもない人たちだな、と心で溢した――その暗緑色の瞳に険しさは既になく、頬は自然と緩んでいる。




