プロローグ
寒い夜だった。その日は満月だというのに、雲にたびたび遮られ、地上に不安定な光を投げかけていた。その不明瞭な月明かりの下の街路では、一人の女性が歩いていた。古い石畳の街道を、ハイヒールを響かせている。時折周囲を気にし、歩調を速めていた。
彼女を不安にさせるのは、この通りで頻発している通り魔事件だった。被害者は皆女性、血液をすべて抜かれており、傷は肩のかみ傷だけ。犯人を見た者はいない。そしていつもこの時間のあたりで襲われていた。まだ真夜中にはまだ早いというのに、通りには人通りが全くなく、道行く人は彼女一人だった。
暗い路地に入り、建物との間を通り過ぎようとしたときだった。暗闇から何かが彼女を襲った。そいつは彼女を暗闇に引きずり込むと、壁に押さえつけ、肩に鋭くとがった犬歯を突き立てた。肩から血を吸い取られているのを感じ、彼女は悲鳴を上げたが、男が既に彼女の口をふさいでいたため、くぐもった音しか漏れることはなかった。彼女は身をよじったが、相手は彼女よりも少し背が高いほどの体格であるにもかかわらず、まるで子供を扱うかのように軽々と抑え込んでいた。血液が失われてゆくのを感じたが、そのころには抵抗する力はほとんどなくなっており、薄れゆく意識の中で、自分を襲った相手の目が、月明かりに妖しく赤く反射しているのを見た。
男はもう血は吸えないと判断すると、突き立てていた牙を離し、女をぞんざいに振り払った。地面に落とされた女の体は細く、萎びており、まるで木乃伊のようだった。
男は食事に満足すると、壁をけって屋根へと上った。彼が誰にも目撃されていないのはそのためだった。まさか犯人が壁を登って逃げるとは思わないだろう。人でない自分を捕まえることなど出来ないとは思っていたが、少しでも痕跡を残さないのが彼の流儀だった。
しかし、彼の予想ははずれた。屋上には男が一人たたずんでいた。
男は黒いマントを身にまとい、着ているものはすべて黒かった。ぴったりとしたシャツに動きやすいズボン、ブーツまで黒だった。それゆえに、男の背負うものが特に目についた。長身の男にさえ大きすぎると思われる銀色に光る剣。
男はおもむろに口を開いた。
「姫はどこにいる」彼は答えなかった。姫、それは誰のことだろうか。そもそも、なぜこの男にこたえなければならないのか。それよりも、男はいつからここにいたのだろうか。もし自分がここに来るのを待ち伏せしていたのなら、食事を見られていた可能性がある。彼は男をいぶかしげににらんだ。
「やはり知らぬか。所詮小物ということか」男がため息をついた。彼は抗議の声を上げた。
「小物だと。私は人を超越したのだ、貴様ごときに小物呼ばわりされる筋合いはないわ。」だが、彼の言葉はまるで狼の吠え声のようだった。
「言葉さえ失っていたのか。こんなやつを相手にしていたとは。もういい、さっさと塵に帰れ。」男はそういうと、月の光を受けて銀色に輝く大剣を構えた。月が雲に隠れた時、彼は男に突進していった。
月が地上を照らしたとき、屋上には男の姿しかなかった。
これが初投稿となります。正直、読者に受け入れてもらえるのか堂が非常に不安です。話も最初と最後しかまだ決めていないので、これからどう話が展開していくのか、私にすらわかりません。ですが試行錯誤しながら、努力していく所存ですので、どうぞ応援よろしくお願いします。




