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偽・信長公記――信長に転生してエクスカリバー抜いて天下布武る俺――  作者: 曖昧


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61話

 安土城での宴から半年後、高野山に通じる街道を完全封鎖し信長自ら高野の御山を完全包囲。

 そこから先は語るまでもない、叡山の焼き増しだ。

 燃える山々、火に追われて逃げて来た者らを一人残らず斬り捨てる。

 今回は錦の御旗も掲げているので叡山の時よりも兵の動きが良い。

 綺麗さっぱり滅ぼした後、


「(……そういや俺が叡山や高野で燃やした寺社やら何やらって現代まで残ってりゃどんだけの価値だったんだろうな)」


 そんなことが気になったりしたものの焼いてしまったものはしょうがない。

 代わりに自分が天下を取ったら名高き芸術家を集めて色々作らせるからごめんなさいで自己完結。

 まあ、民草に豊かな時代になったのだと思わせる意味で華美な建造物などを作ると云うのが主目的なのだが。

 さて、高野山を綺麗さっぱり灰にした後、信長は即座に安土へ帰還。

 奪い取った寺領の割り振りをしつつ妊娠休暇で屋敷に滞在している藤乃の大きな御腹を見てほっこり。

 やはり家族が増えるのは嬉しいのだ。


 が、信長の幸福とは裏腹に敵対勢力――中でも本願寺は悲惨極まりなかった。

 謙信が景勝の裏切りによって死去したことが知れ渡った辺りから再三、織田に降伏を申し入れていたのだ。

 しかし信長、これに対してまたも無茶な要求を突きつける。

 顕如を初めとして本願寺の中で一定以上の立場に在る者全員の首を寄越すなら良いぜと哂って返した。

 実質、民草以外は全員死ねと云うことなのだから受け入れられるわけがない。


 真の僧であれば喜んで受け入れていただろう。

 それでこれ以上の流血が防げるならば、と。しかしそんな連中がトップに居るのならばハナから戦になっちゃいない。

 何のかんので我が身が可愛いし権力も欲しい、そんな連中が多いのだ。

 総てが総てそうではないのだろうが、今の本願寺にどれほどそんな人間が居るのか。


『だったらケツに火がつく前に降伏して来いよ、具体的には叡山辺りで』


 信長からすれば遅過ぎるのだ。

 武装し権力を握る僧侶に対しての仕打ちは叡山で見せた。

 あれから一体何年経ったと思っている? あの頃ならばまだ信長も寛大な処置で済ませただろう。

 そりゃ顕如や首脳陣の首は飛ばすし寺領は総て没収する。

 が、ある程度の立場に居る僧侶らは生かしてやっても良かった。

 織田が用意した寺社で細々と坊主をやるのならば。


 なので信長からすれば未来に遺しても害悪と云うことで殲滅決定。

 別に本願寺を潰したからとて仏教そのものが消えるわけではないのだ。

 何せ信長の領内には腐れ坊主の扇動に乗らなかった、或いは乗らせなかった者らの寺社があるのだから。

 叡山、本願寺、高野山、それぞれ宗派は違えど教えは残る。

 流石に一つの文化が消えるとなれば信長とて躊躇うだろう。


 個人の多様化においても宗教は役に立つから。

 しかしそうでないのならば躊躇う理由は皆無。

 結果、高野山焼き討ちから二月ほどで本願寺攻めを決行。

 陸上戦力は信長が、海上戦力は奇妙丸と九鬼が率いて総攻撃を仕掛ける。

 事前に、


『お前ら下の人間は上の阿呆共が首を差し出せば助命してやるつったのに突っ撥ねられたぜ。

あーあ、アイツらが受け入れてりゃ俺もお前らだけは元の民百姓として扱ってやったのになー』


 そんな流言をしこたまばら撒いて嫌がらせをしていたので士気は最悪だ。

 戦の最中でさえも各部隊の指揮官に大声で似たようなことを喧伝させる。

 尚、その際に信長が首を差し出せと云った人間の名も伝えている

 まるでそいつらの首を持ってくれば赦してくれるかのように。

 溺れる者は藁にも、の理論で――――ようするに内部分裂を誘発する嫌がらせだ。


 別に成功しなくたって良い、それでも疑心暗鬼を植えつけることは出来るから。

 圧倒的な兵力で真正面から押し潰せるのに、何処までも徹底的。

 苛烈で非情な振る舞いを見せ付けることで断固たる決意を示したのだ。

 とは云え無論、それだけが理由でもない。

 自分が苛烈さを見せ付けることで二代目――奇妙丸の治世を後押ししたのだ。


 例え奇妙丸が厳しい仕置きをしたとしても信長ほどでは……と思わせることが出来る。

 ただ、だから舐められ易くなると云うデメリットもあるがそこは問題ない。

 奇妙丸は父や他の先達のやり方をよく学んでいる。

 良いタイミングで引き締めて仁君なれども道理を外れれば容赦なしをやってくれるはずだ。

 そんなこんなで徹底的に本願寺をイジメている中、安土より吉報が届く。


『羽柴殿、御出産。母子共に健康也』


 それを聞いた信長はますますテンションをアゲ(↑)アゲ(↑)で本願寺イジメを加速させる。

 報が届いてから一週間ほどで本願寺殲滅を完遂させて安土へ凱旋。

 身体を清めてから藤乃と鶴松と名付けられた我が子の下へ赴いた。


「おぉ……珠の様な男の子だ」

「それ、信忠様や信康さんの時も云ってませんでした?」


 にやけ顔で我が子を抱く信長を茶化す藤乃だが、彼女の顔もまた優しい。

 念願の我が子を授かったのだから当然と云えば当然である。


「ああ、源二郎と源三郎以外には全員云ってる気がする」


 ちなみに女児の場合はこりゃ将来美女になるな! だ。

 親馬鹿極まりないが、実際イケメンと美女が合わさったので容姿的な意味で将来は明るいだろう。


「そりゃ初めて会ったのが武田攻めの時ですからねえ」

「まあしゃーないっちゃしゃーないな……ところで、この産着って……」

「ええ、帰蝶様がこの子のために密かに縫ってくれていたんですよ」

「やっぱり……何となくそんな感じがしたんだよな」


 改めて部屋を見渡してみれば玩具やら何やら子供のために品が部屋のあちこちに置かれている。


「御婆ちゃんや竹千代さん、昌幸さん、他の皆さんからも……まあ、色々と祝いの品が届きまして」


 中には他の異母兄弟達からのプレゼントもある。

 信長としても身内同士は仲良くと骨を折って来た甲斐があると云うものだ。


「や、私も他の子達の時に贈りましたけど……何か照れますね」

「ははは!」

「まあでも、これで私もようやく御仕事に復帰出来そうです」

「いやいや……気がはえーよ」

「えー? でも、子供も出来たし後はお嫁さんになるだけじゃないですか」


 だったら邪魔者を消してから心置きなくやりたい、それが藤乃の素直な願望だった。


「バッカ、身体壊したら意味ねえだろ。何ヶ月かはゆっくりして、そっから中国攻めに移れば良い」


 信長としても光秀関連で色々準備をしたいのでそうそう復帰されても困るのだ。

 勿論、今云った理由が大半なのだが。


「あーあ、羽柴の御家を小一郎に押し付けてゆっくり出来ると思ったのに……」


 中国攻めを完遂すれば、藤乃は家督を小一郎に譲り渡すつもりだった。

 無論、信長に嫁いだ後も仕事はこなすつもりだ。

 帰蝶だって正室なのにバリバリ働いているし。


「おいおい……一代で築き上げた御家じゃねえか」


 史実と違い天下人にならないとは云え十分過ぎるほどのサクセスだ。

 何せ百姓から織田の重臣にまで上り詰めたのだから。

 その証たる羽柴の御家に対する執着がもっとあって良いのでは? と苦笑する信長だが……。


「と云っても主目的ではありませんしぃ」


 第一、小一郎が居る。

 彼ならば鶴松が相応の年齢になるまで羽柴の御家をしっかりと切り盛りしてくれるだろう。

 そう云う信頼があるからこそポンと譲り渡せるのだ。


「世間じゃ羨望の的だってのに……いやまあ、らしいっちゃらしいか」


 有名人の逸話なんてものは娯楽の少ないこの時代、良い種だ。

 政戦両面で活躍する藤乃についての情報も広く知れ渡っている。

 百姓の娘から一代で此処まで成り上がったのだ、下層の人間にとって憧れと嫉妬の対象になるのは当然だ。


「私、そもそもからして武士に向いた人間じゃありませんしねえ」


 やる気が欠如しているのだ。

 目立ちたいし派手なことも好きで功名心もある。

 が、藤乃にとっての一番はそこではなく女の幸せ。

 そして一番以外は殆ど横並びでそこまで執着心を沸かせることが出来ない。


「ま、それはさておき信長様」

「ん?」

「光秀さんのこと、やっぱりまだまだ気になってるんですよね? どうするおつもりで?」

「んー……まあ、それは後々説明するよ。つか、今ぐらいは仕事の話止めようぜ」


 何時の間にか信長の腕の中で眠ってしまった鶴松。

 可愛らしい寝顔を見ているだけでついつい頬が緩んでしまう。

 歳を取ったなーと感じはするものの、今まで通りの生活を改める気は微塵も無い。


「ですね。ってか、この子中々図太いですね。別に声を控えてるわけでもないのにグッスリですよ」


 鶴松を布団に寝かせ、二人揃って顔を覗き込む。

 殆ど泣かないと云うのは信長にとっても驚きだった。

 奇妙丸だって昔は物音一つでぎゃーぎゃー泣いていたものだから余計に。


「そりゃお前に似たんじゃね?」

「いえいえ、図太さ加減で云うなら信長様も大概ですって」


 と云うより小心な人間の方があんまり居ない。

 傑物と云うカテゴリーに入る人間は大概が太い肝を持っている。

 持っていなければ大成出来るわけがないのだ。


「俺のは……親父譲り?」


 と云うか前世の親譲り。

 しかも母親がアレなことを鑑みると恐らくは蒸発した駄目親父譲りと云うことになる。


「それを云うなら私だってお母さん譲りですよ」

「藤乃の母ちゃん……そういや、片手で数えられるくらいしか会ってないな」


 初対面は諸国漫遊から尾張に戻って来た時のこと。

 娘さん貰うんでって挨拶に行ったら酷く恐縮され記憶が蘇る。

 あれは信長の立場に恐縮していると云うより、フリーダムな娘で良いのか。

 いや、産廃処理をしてくれるならありがたいけど本当に良いの? って感じだった。

 二度目に会ったのは藤乃を城主にした時のことだ。


 今川仕置きが終わった辺りから藤乃は母や他の親類を自分の屋敷に住まわせようとしていた。

 その頃には家族を住まわせられる屋敷も下賜されていたから。

 が、藤乃の母、木下仲はそれを拒否。

 自分には畑を耕して細々とやっているのが一番で武士階級の良い暮らしは似合わないと。

 そうなると他の妹や弟、親類らも仲が心配だしと尾張中村に残ると云い出す。


 子供達にとっては父が死去してから女手一つで自分達を育ててくれた母。

 親類達にとっては困った時に惜しみなく力を貸してくれた親戚。

 大恩ある仲を差し置いて良い暮らしは出来ないし、仲一人を残すのも齢からして心配だ。

 だもんで藤乃も仕送り程度で留めていたのだが、知っての通り美濃攻略後にはそうもいかなくなる。

 人手が足りなくなったので小一郎をスカウト(強制)。


 だから仲も一緒に来いと云ったのだ、もう良い歳なんだしと。

 すると私はまだまだ若いから舐めんな! と拒否される。

 どころかお前最近しっかり御飯食べてるのか? などと逆に説教される始末。

 此処でも拒否られたが方面軍司令官となり、城持ちとなればそうもいかない。

 藤乃こと羽柴秀吉は最早揺ぎ無い重臣なのだ、家族が狙われる可能性も出て来る。

 その際、信長も中村まで同行して仲を説得して百姓引退を決意させたのだ。


「あー……まあ、お母さんは忙しない人ですからねえ。常に働いてないと気が済まないから」


 藤乃が安土で休むようになってから、娘の初めてのお産だからと仲も安土へ来ていた。

 仲は娘の世話のみならず屋敷の仕事なども積極的にやっていたので信長も訪ねて来てもあまり会うことは出来ず。

 会えたら会えたで体調の心配をされたり、未だに藤乃のことで感謝を云われたりする。

 母性の強い人で、あまり前世今世共に母の愛に恵まれなかっただけに信長ですら照れ臭くなってしまうほどだ。


「ちなみに今日は?」

「いやぁ、私のお産の時に張り切りすぎてしまいまして……ね?」


 藤乃が出産する際、仲が産婆を務めて無事鶴松を取り上げたのだが……。

 まあ、孫の出産と云うことで力が入り過ぎていたのだろう。


「腰をやっちゃいまして、私の屋敷で今療養中です」


 放置しておけば勝手に動きかねないので見張りつきである。


「マジかよ。俺にとっても姑さんだしな、今度見舞いにでも行くわ」

「ええ、そうしてやってください。お母さんもきっと喜びますから……ってか三人で一緒に行きましょうか」

「ああ、そうだな。ってか、お袋さんも俺の屋敷に滞在して良いんだがなぁ」


 藤乃だって産休に入ってからは信長の屋敷で滞在しているのだ。

 藤乃の屋敷も、そう遠く離れているわけではないが一々通うぐらいなら最初から一緒に居れば話も早い。


「お母さんは気にしぃですからねえ」


 そもそもからして、藤乃や小一郎らの父木下弥右衛門は織田家の足軽だったのだ。

 負傷し帰農したのだが下っ端の下っ端とは云え織田家に仕えていた。

 藤乃の父らしく中々に器用な人間で信秀――までは届かずとも政秀辺りの覚えは良かった。

 それゆえ帰農する際にそれなりの金子を渡されたりもしたし藤乃が仕官してからもそう。

 親としてはどうにも子供を過小評価してしまう。

 だからこそ此処まで藤乃を出世させてくれて、城まで与えてくれたと思っている信長には頭が上がらない。


 信長は別に贔屓とかじゃなく普通に優秀なんだよーと云っているがさて何処まで本気にしてくれているやら。

 若い頃の娘の乱行を知るだけにどうにもこうにも藤乃は馬鹿娘と云うイメージが拭えないのだ。

 まあ、藤乃はそれを嫌だとは思わずむしろ好んでいるようだが。

 兎に角、父子二代で織田に恩があるのでとても失礼なことは出来ないと仲は信長の屋敷に滞在することを辞退したのだ。


「ふぅん……ってちょっと待て。図太いってより謙虚じゃねえか」

「いやいや、図太いですよ。むかーし、落人が家に押し入って来た時も慌てず騒がず返り討ちにして身包み剥いで家計の足しにしてましたし」

「母ちゃんはつええなぁ……」

「ええ、私も母親になったんだしこれまで以上に強く在りたいものですね」

「おう、もっと強くて良い女になるだろうぜ」


 そしてもっともっと好きになる、それは予感でも何でもない――確信だ。


「なら、これからもたっぷり可愛がってくださいね♪」


 それを証明するように弾けるような笑顔を見せた藤乃はこれまでの何倍何十倍も魅力的だった。

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