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偽・信長公記――信長に転生してエクスカリバー抜いて天下布武る俺――  作者: 曖昧


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58話

「うぅうううううううらぁああああああああああああああああ!!!!」


 雄叫びを上げながら殆ど力任せに聖剣を振るい、謙信の太刀と打ち合う。

 その度に空気が弾け衝撃が伝播し、それこそ軽く地形すら変えてしまうほど。

 太刀が折れないのもおかしいが、この膂力も人外のそれだ。

 信長とて平常時でも十二分以上に運動神経は高いが、それでも人知を超えるほどではない。

 あくまで人の範囲、今現在のそれは聖剣によるブーストがあるからに他ならない。


「(コイツ、やっぱり……!)」


 そして聖剣のブーストにしても通常時ならば人外の領域にまでは届かない。

 あくまでエクスカリバーは相手に合わせて強化されるのだ。

 例えばそう、義元のように魔道の武器を扱う相手ならば相応に人間を一歩はみ出した程度の強化がかかる。

 が、謙信は違う。魔道の武器も何も使っていない。

 "神がかっている"と云う評価通りに、素でヤバイのだ。


 素で人知を超える身体能力を有しているのだから笑えない。

 とは云え常時このような状態ではないのだろう、火事場の馬鹿力の類型か。

 こうならねば殺せぬと云う相手、決して負けられない勝負でこうならねば勝てぬと云う状況。

 そんな複合的要素が絡んでのものかもしれない。

 と云うか絡んでいなければやってられない、でなくば個人の武勇で戦場が決してしまう。


 幾ら現代に比べて英雄が生まれ易い時代とは云え、個人で勝敗そのものを左右されてはたまったものではない。

 だから断言出来る、敗北こそないものの謙信はこれまで引き分けは多く経験している。

 もしも常時こんな力が発動出来るのならば勝利以外はあり得ない。

 とは云え、信長相手には発動しているのでこの場においては何の救いにもならないが。


「ぬぅん!!」


 もう何合打ち合ったのか。

 火花散らす剣戟、身体能力はほぼ互角。

 武器の質では聖剣が上ではあるものの、謙信の力に耐えられているので彼の持つ太刀もかなりヤバイ。

 勝敗を決する要素があるとすればテクニックか。

 その面では真面目に武芸を修めていない信長が不利。

 さりとて直感に優れているので、そう簡単に押し切られるようなことはない。


 二人の周囲では今も藤乃率いる羽柴軍と上杉騎馬隊による闘争が続いている。

 彼らは必死で戦いながらも、酔い痴れていた。

 我らが御大将を見ろ! あれこそ天下人! 黙れ天魔の走狗めが、これこそ義を掲げる軍神の姿だ! と。

 絶大なカリスマを誇る二人の一騎討ちは恐ろしさと同時に、魔性の魅力を放っていた。


「んげ!?」


 永遠に続くかと思われた剣戟、その均衡が初めて崩れる。

 常軌を逸した一騎討ちに足として使っている騎馬が耐えられなくなったのだ。

 信長の使っているそれは上杉騎馬隊のものとは云え、謙信の愛馬には及ばない。

 それゆえ限界を迎えるのが早かった。

 このままでは落馬する、そう判断した信長は叩き潰すように片手で馬を打ちその反動で飛び上がる。

 空中で姿勢を制御し、向かって来るであろう謙信の脳天にエクスカリバーを叩き付けてやると意気込むが……。


「笑止」


 謙信もまた、飛び上がっていた。

 崩れ落ちる寸前の騎馬ではなく、健在の騎馬を使っての跳躍。

 当然のことながら謙信の方が飛距離を稼げるわけで、信長は頭上を取られてしまう。

 謙信はそのまま身体を回転させて信長の脳天に蹴りを叩き付けた。

 蹴りの衝撃にプラスして地面に叩き付けられた衝撃。


「――――」


 苦悶の声を上げることもなく、一瞬マジで意識が飛ぶ信長。

 蹴りの反動で滞空時間が伸びた謙信だが、しかしその好機は見逃さない。


「逝けい!!」


 太刀を投擲、あわやこれで決着かと思われたが……。


「お、思い――――出した!!」


 予想以上に信長の復帰が早く、太刀を弾き飛ばしてしまう。

 窮地を脱しただけではなく、信長は勝機も携えて復帰したようだ。

 それはその瞳を見れば分かる。


「……まあ、何十年も前のことだ。忘れてても不思議じゃねえ。だが、何故気付かなかったかね」


 立ち上がり、己の無様を恥じるように顔を手で覆い天を仰ぐ。

 武器も無いままに降りて来る謙信に痛打を与えるチャンスなのだが、しかし信長は動かず。

 意識を取り戻したが未だ少しばかり視界が揺れているのだ。

 ゆえにそれを回復させるため――と云いたいが、どっこいそれだけではない。


「いや、桁が違うから分からなくても当然か」

「……何を云っている?」


 着地し、太刀を拾い上げた謙信が訝しげに問いを投げる。

 問われた信長はクツクツと懐かしむように、同時にこの上なく楽しいと云わんばかりに笑う。

 笑いながら、


「――――もう、お前は怖くない」


 種が割れてしまったマジックに白けてしまうそれと同じだ。

 理解してしまえば、上杉謙信何するものか。

 得体の知れなさと不快感はすっかり消え失せてしまった。

 どころか、何だ案外面白い奴じゃないかと好意さえ沸いて来るではないか。


「自分の女運を改めて実感したよ。やっぱ、女は人生を豊かにしてくれるねえ」


 それは高校二年になったばかりのこと。

 以前から気にはなっていたが、クラスが違っていたこともあり手を伸ばしていない女生徒が居た。

 基本信長は近場から制圧していくのだが……まあそれはどうでも良い。

 ともかく、気になっていた女生徒と同じクラスになったのだ。

 その女子は一言で云えば寡黙なヒーロー。


 あまり喋らないし、表情も乏しい。

 とは云え陰気だとかそう云う評価は皆無だった。

 それはひとえに、行動で示されている人柄ゆえ。彼女は何かと弱者の側に立って居た。

 イジメられっ子が居れば何も云わずにその子の味方をしてイジメの標的になりながらも戦った。

 戦って勝利し、イジメを無くした。


 イジメられっ子が笑うようになれば、彼女も微かに笑った。

 困っている人間が居れば手を差し伸べその力となった。

 気付けば困った時は彼女に、と云うような風潮が生まれるほどのヒーロー女子。

 とは云え何にでも力を貸していたわけではない。


 都合良く利用しようとする者にはキッパリノーを突きつけ、自分で何とか出来るような者にはそれを促す。

 自分ひとりでどうにか出来ない者にだけ、惜しみなく力を貸していた。

 厳しくて優しい本当のヒーロー気質で尚且つ見目麗しい。

 そうなれば当然のように一目置かれるて人気も出る、だからこそ信長も目をつけた。

 無論、生半な相手ではなかったが、だからこそ遣り甲斐があると奮闘し信長はついにその女生徒をオトす。


 ぶっちゃけてしまえば最初は自尊だった。

 今よりも未熟で、女性と云う存在に対して礼儀が薄かったと云っても過言ではない。

 それゆえ皆に好かれる女を落とす自分と云う自尊を満たすために口説いたのだ。

 が、誰も知らない本当の彼女を教えてもらい――好きになった。

 あの出会いも、今の今まで忘れていたけれど確かな血肉となって今の自分を形作るものの一つだ。

 でなくば今でも女を勲章扱いするド三流以下の存在だっただろう。


「おい謙信、覚えてるか? もう十年以上も前のことだけどよ。

俺と信玄、そしてアンタの三人で膝を突き合わせて語らったよな?

そん時も今と同じく殆ど喋らなかった。話していたのは俺と信玄のオッサンだけだ。

萎えるなって俺と信玄で茶化した時、何つったか覚えてるか?」


 しかし、謙信は答えない。

 無言のまま太刀を手に信長へと斬りかかって来る。

 信長は今度は打ち合うこともなく、回避に専念しつつ舌を回す。


「言葉を多く吐けば重みを失くす、飾り立てれば音に堕する……良い言葉じゃねえか」


 面白いギャグを聞いたかのように、所々で笑い声を漏らす信長はどう考えても嘲っているようにしか見えない。

 いやまあ実際その通りなのだが。

 好きになったからとて現状は敵で、滅ぼすことに変わりはないのだ。

 ゆえに嘲り、その本質を暴くことで上杉謙信の心を揺さぶり怒らせようとしている。


「じゃあ何かい? 言葉を飾り立てて多用する俺は信も重みも何も無い空気のような音を吐き続けてるって?

んなこたぁない。事実がそれを証明している。俺の言葉は兵を奮わせ、民に希望を与えている」


 結局のところ、行動さえ伴っていればそれで良いのだ。

 それが真理、信長自身が証明しているのだから否定することは出来まい。

 ならば何故、謙信は同じようにしないのか。


「フフフ……実に簡単な答えだ。お前には俺のように言葉を総て実行するだけの力がねえ。

俺が十吐いた言葉を十行動に移して結果を出しているとしよう。

お前の場合は俺と同じことをしようとしても十のうち、良くて五、六程度だろう。

だぁが……お前はそう見られるのが嫌だ、五、六程度の結果しか出せない男だと見られるのが嫌で嫌でしょうがねえ。

だから、どうやって学んだのか知らんが次善を選んだ。最善の次に、自尊を満たせる方法を」

「活ッッ!!!!!」


 謙信の大喝破が轟き、織田方の兵は思わず萎縮してしまう。

 それこそ藤乃ですら一瞬、硬直してしまうほどだ。

 しかし、それを間近で直接向けられた信長は軽く受け流している。

 種を暴いていなければ表面上は取り繕えるが内心で冷や汗を流していただろうが生憎と暴いてしまった。

 暴いてしまったから、重ねて云うが怖くはなくなった。


「多くを語らず、つまりは心を明かさず。強烈な自閉が生み出す結果は二つ。

一つは不気味だと避けられるようになるか、一つは神秘的だと崇められるようになるか。

ただ、後者の場合はある程度の能力と行動が伴ってこそだ。

それこそ、そうだなぁ……フフフ、十吐いた大言のうち五、六程度は実行出来るぐらいの能力がなきゃ駄目だなぁ」


 横薙ぎの一撃を潜り抜けて謙信の懐へ、吐息を感じるほどに近付く両者の顔。

 第六天の不敵な魔笑を浮かべる信長と少しばかり苛立ったような顔の謙信。

 格と云うものを定めるのであれば……さて、語るまでもないのでは?


「そして、滅多に吐かない言葉は綺麗なものでなければいけない。

義とか愛とかそう云うあれだよ。はじゃけんしょー、はじゃけんしょー、ぎ、ぎ、ぎぃ! ってな……ッハハハハハハ!!」


 言葉と云うものは、確かに謙信が語ったような負の側面もある。

 しかし、心と云うものは目には見えない。

 だからこそ言葉と行動で伝えねばならぬのだ。

 言葉を尽くす努力を欠いてしまえば、相手に自分を理解してもらうなど夢のまた夢。

 まあ、謙信にとっては好都合なのだが。


「あー……すまんすまん。話が全部終わってねえわな。

うんうん、そんでだ。その綺麗な見合うだけの行動を起こさねばならない。

だから得意分野、戦争と云う得意分野で綺麗な言葉を裏打ちする結果を出すわけだ」


 義のための戦とかそう云うあれだ。

 不義によって窮地に立たされた者を助けるとか、謙信はそう云うことを幾度もやって来た。


「で、どうなると思う? 生まれるんだよ――――神秘と荘厳を兼ね備えた軍神様がな」


 それはそれは強烈なカリスマだ。

 が、信長や信玄のような手合いには気持ちの悪いものに映るだけ。

 目が肥えていることもそうだが、本質的に信長も信玄も人好きだ。

 立場的に畜生染みた行動を取らざるを得ないが、人間と云うものを愛している。

 だからこそ相手を知ろうとするし、相手に伝えようとする。心を、想いを。

 人間とはかくあるべし、と云う彼らなりの自論は異なるが心を重視すると云う点は共通している。

 ゆえに肥えた目ですら見通せぬ度を超えた自閉を断行する謙信が気持ち悪くてしょうがなかった。

 かつて信長と付き合った少女も自閉気味ではあったが、しかし謙信ほどではなくそれゆえ気持ち悪さは感じず。


「で、だ。話は此処で終わらんぜ? ああ、俺はお前と違って御喋り好きだからな」


 ひらりひらりとマタドールのように謙信と云う猛牛をすかすすかす。

 時折聖剣を使ってジャグリングをしているのがまた何とも相手を舐め腐っていると云えよう。


「何でお前はこんな糞面倒な意味の分からない真似をしたかってことだ。

いやいや、御客さん方も薄々気付いちゃいるかな? だが、此処まで来たら最後まで俺にやらせてくれよ」


 実にシンプルな理由だ。


「良く見られたい、自尊心を満たしたい、云ってしまえばそれだけだ。

盲目の子羊に崇め奉られ絶対の忠誠を誓われて御山の大将気取りがしたい。結局はそこに集約してるわけだ」


 良く見られたいのならば、舞台も整えねばならない。

 どんな状況が最も己を輝かせられるのか。

 こんな演技をして、実際にその通りに今まで進んで来たこの男が知らないわけがない。


「己が眼前には強者を、己が背後には弱者を。

強い奴を敵にして喧嘩した方がカッコ良いし、それは逆説的に弱い奴を護っていることにもなる。

弱い奴を護っているのはカッコ良いだけでなく高潔だもんな。

他の連中が、俺への敵対事由として将軍への義理立てを掲げてる中、お前だけが違う。

これまで積み重ねたもの、虚飾の鎧がお前を護っている。

他の連中はまあ何と浅ましいと思われているが、お前だけは鎧に護られているから他者は額面通りだと思い込まされている」


 強者の中でしか、輝けぬことを謙信は知っているのだ。

 仮に織田方に着いたとしても彼は決して天高く輝く至高の星にはなれない。

 織田信長と云う絶対の綺羅星とそれに続く羽柴秀吉、徳川家康を初めとした眩い星が既に輝いているから。

 戦争にだけ特化している謙信では決して彼らには届かない。

 その光を十全に見せ付けられぬのだ、強者の側に居ては。

 だからこそ弱者の味方をしている。


 武田信玄、北条氏康、毛利元就、反信長サイドにも万能系の人間は居る。

 しかし、既に事実として謙信は彼らに並び称されているのだから最低でも同等。

 しかも、今信長が述べたように謙信だけは額面通りの事由であると民草には受け取られているのだ。

 浅ましいと云うマイナス補正がかかっている他の連中に比べて目立てることは語るに及ばず。


「まあ確かに異質ではあるよ。他の連中が御家のため、もっともっとと栄えさせようとしているのにお前だけは見栄のため。

家なんてどうでも良いから、あくまで自分に付随するオマケのようなものだから死後どうなろうと知ったことではない。

お前はただ、死するその時まで輝き続けたいだけ。そして、死後も歴史と云う夜空の上で輝いていたい。

ああ、そのためには上杉なんて家が滅びるのも良いことだな。

滅びの美学ってのもあるし、何より謙信が死んだから上杉は滅んだのだってことにもある」


 つまりは、自分の存在を見せ付けることが出来るのだ。


「けどな、結局のところお前も他の連中も……いいや、俺も含めたありとあらゆる人間は同じ穴の狢さ」


 だって、


「――――皆、それぞれの欲に従って生きているだけなのだから」


 しかし、だからこそこの第六天魔は愛してやろう。

 これでようやく我らは同じモノになれたのだ――信長はいっそ慈愛すら滲ませた笑みで謙信を寿いだ。

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