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偽・信長公記――信長に転生してエクスカリバー抜いて天下布武る俺――  作者: 曖昧


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56話

「なあ奇妙丸、お前好きな娘とかいんの?」

「…………はぁ?」


 奇妙丸はその日、城にて父と政務を行っていた。

 まだまだ父親が健在で自身に家督が来ないことは承知の上。

 しかし、だからとて遊んでいるわけにもいかない。

 信長は別に自由にすれば良いと云っているがあまりにも大きな父の後を継ぐのだ。

 勝てないのだとしても、それでも十全に務められるようになりたいと考えている。

 それゆえ積極的に母や父の仕事を手伝っていて、今日も何時も通りのはずだったのだが……。


「いやだからさ、お前も良い歳じゃん? そろそろ女に興味出て来る頃じゃねえかって」


 順慶から届いた文に目を通しながらも信長はこの話題を止めるつもりはないらしい。

 奇妙丸はしらーっとした視線を向けているのだが柳に風。


「ちょくちょく城下にも出てんだろ? だったらおめえ……なあ? お、良いじゃんって思う女の一人二人三人四人十人ぐらいはいるべ」

「ちょっと城下に出て十人もの女に目をつけることがあってたまりますか」

「おいおいノリ悪いな。もうちょっとこう、盛り上がろうぜ男同士さぁ」

「何で実の父親と年頃の娘がするような話題で盛り上がらねばならぬのです」

「え? いや、俺はむかーし……親父殿とそう云う話結構してたぜ?」


 良い女抱いたよ! マジで!? などと女好き同士楽しい語らいをしていた。

 だもんで奇妙丸ともそんな話題で親子の仲を深めようかと思ったのだ。


「源三郎は真面目で、そう云うのは苦手そうだけど源二郎は結構ぐいぐい来るぜ。

ただまあ、アイツが話題に上げる女微妙に厄介そうなのが居てその辺は痛い目見て勉強しろって感じだな」

「源三郎が真面目と云うより父親にそんな話題を振られて困っているだけでしょう」


 真田兄弟は異母兄弟で立場が自分より下ではある。

 が、奇妙丸は変に威張り散らしてはいない。

 そりゃ正式な場でならば気にするよう注意するだろうがそれ以外ではタメ語でも気にしないほどだ。

 父を尊敬しているし、大好きだから兄弟仲だけは絶対拗らせないようにしているのだ。

 だから千代や他の弟とも仲が良い。

 実際、父親とはこんな話はしないけれど兄弟同士で振って来たのならば話に付き合うことも吝かではないと思っている。


「いやでもさ、ほら……お前もいずれは嫁取らにゃならんだろ?

父親としては自由恋愛させてやりてえけど公人としてはそうもいかねえ。けど、どうしてもってえなら応援するつもりでも居るぜ?」


 信長自身は親に遠慮して政略結婚を受け入れた。

 まあ、相手美人だし紆余曲折を経て鴛鴦夫婦になったので結果オーライ。

 とは云え息子にまでそれを強制させるつもりはない。

 理解して、その上で自由恋愛を貫くと云うのであれば覚悟のほどを見て許可するつもりだ。

 そこら辺のことも考えねばならぬので奇妙丸の恋愛観やら何やらを知っておきたかった。

 だからこんな話題を振ったのだ。


「ふむ……まあ、政略結婚について思うところはありませんよ」


 パっと今考えて思い浮かぶ候補の一つが島津の姫だ。

 以前、岐阜に滞在していた家久。

 彼が薩摩に帰った後、兄弟で話し合い織田を支持するとの意向が伝えられた。

 とは云え表立って出来るような状況ではなく、信長もそこは理解している。

 現状で織田の援軍も届かぬ遠い薩摩で織田支持を掲げたとしよう。


 そうすれば島津と敵対している勢力が毛利と結ぶかもしれない。

 立地的に織田よりも毛利が近いのでそれは困る。

 辺境の勢力はそうそう簡単に織田支持、反織田を掲げることが出来ないのだ。

 旗色を示して他所の介入を招きたくはないから。

 仮に島津が表立って織田支持を掲げれば毛利は喜び勇んで侵略し領土を増やそうとするだろう。

 何せ反信長の旗を掲げているのだから親織田を表明するだけでも敵対行為となるから名分も十分だ。


 信長もそう云う辺境勢力へは多少の配慮はしている。

 いずれは九州にも手を伸ばすつもりなので島津とは特に友好を結んでおきたい。

 家久から聞いた兄三人の人柄と能力、そして家久本人の人柄と能力。

 それらを鑑みても島津は懐に抱え込んでおきたい。

 義理堅いし、惚れさせてしまえば存分に力を奮ってくれるだろう。


 家久辺りはもう信長にぞっこんだし、弟が買っている信長を他の兄弟達も嫌ってはいない。

 現状で最も天下に近いし、京での大立ち回りは痛快で直に参加した家久の話を聞き兄弟達も大そう喜んだそうだ。

 それゆえ、ある程度九州への橋頭堡を確保出来たら政略結婚と云う手もありだろう。

 正室でなくとも信長の後継たる己が島津の女を娶ることを、奇妙丸自身が視野に入れている。


「でも、何かあるだろ? こう云う女が好みだとかってよー」


 そう云う女と出会うことがあるかもしれない。

 或いは政略結婚だとしても、だ。

 大概何処も子沢山ではある。だからその好みに合致するような子を選べるかもしれない。


「好み……好み、ですか」

「ああ。身近な人間でも良いからさ。マーリンっぽいのとか藤乃っぽいのとか帰蝶っぽいのとか竹千代っぽいのとか色々あるだろ?」


 見た目も中身もバラエティー豊かだ。

 マーリンは凄まじいエロボディの持ち主で基本大人だけど妙に卑屈で時々間が抜けている。

 藤乃は控えめボディで全体的にスレンダーだが明るくあざとく計算高い。

 帰蝶は二人の中間でモデル体型、クールだけれど惚れた男には可愛い面を見せてくれる。

 竹千代は藤乃と似てはいるが尻特化、妹子犬ツンデレ系で構って構ってオーラがグッド。

 身近な人間だと想像もし易いしどうかな? と考えたのだが……。


「特には」

「マジで? お前どんだけ贅沢よ」

「いえ、見ている分には良いのですが母上含めてどの方も正直手に余るかと」


 母親譲りの蛇の如く瞳孔が縦に裂けた瞳を細めてうんうんと頷く。

 正直、自分の器量では扱いきれない女達なのだ。

 信長が相手にしているファンタスティックガール達は――いや、ガールって歳でもないか。


「バッカ。良いじゃねえか、小さくまとまってるよりかはさぁ」

「まー……でも、そうですねえ……強いて云うなら――――父上、でしょうか?」


 瞬間、信長は跳ね上がって部屋の隅までカサカサと退避した。

 まさか息子がホ●だとは……半兵衛辺りが悪影響を与えたのかと戦慄しているがそれは違う。


「別に若道趣味ではありませんよ。ただ、単純に父上と母上を見ていて思ったのです」

「? と云うと?」

「私はどちらかと云えばなんて前置きをする必要もなく母上似でしょう?」


 信長の面影もあるが瞳など目立つところで帰蝶の面影が色濃く出ている。

 加えて母と同じく表情の差分が少ないのだ。

 クール系で売り方如何によっては中々に化けると云うのが信長のホスト的評価である。


「であれば、その母上と相性が良い父上のような性格の女人ならば私にとっても良いのかな……と思ったんですよ」


 父母の鴛鴦夫婦を見ていれば分かる。

 帰蝶にとって一番相性が良い人間が信長であることが。

 であればその帰蝶に似ている己もまた信長のような人間とならば相性が良いのでは?

 奇妙丸がそう考えるのは当然の帰結であった。


「まあ、勿論表層的な部分は少々どころか、かなり困りますがね。

父を女にした場合の表層……軽薄で男好きとかそう云うのは家中に禍を招きかねませんし」


 が、奇妙丸が話題に上げているのはそう云う表層的な部分ではない。


「聡明な頭脳と胆力を兼ね備え自分の芯を持ちながらも、だからとて頑なではなく他人を尊重出来る。

如何なる苦境に際しても折れず曲がらず、光明を見出そうとして前に歩き出せる。

見据える瞳は何時だって未来を、何時でも笑顔を絶やさぬ女人ならば――――ええ、素敵だと思います」

「……まあ、俺がそれに当て嵌まってるかどうかはともかくとして、だ」


 聞いていて思ったことがある。


「――――相手に求めるものがデカ過ぎね?」

「私自身も云っててそう思いましたが、別にその通りの人間を探せと云うわけではありませんし」


 あくまで好みを云えと云われたから云ったまでのこと。

 流石に今の特徴を総て兼ね備えたパーフェクトレディを見繕えなんて厚顔無恥が過ぎるだろう。


「ふぅん……まあでも、好みぐらいはあるようで安心したわ」


 などと云いつつ新たに届けられた文に目を通す信長。

 奇妙丸は何の気なしに文を開いた父が内容を見るや微かに顔色を変えたことに気付く。


「どうかされましたか? と云うか、誰からのものです? 密書のようですが……」

「――――上杉景勝」

「……は?」


 敵対している状態の上杉から文が届く。

 これはもう罠だとしか思えない、奇妙丸ならば内応する振りをして罠に嵌めるぐらいはするだろうと考えているが……。


「いやはや、何処にでも居るもんだな。苦労人って奴ぁよ」

「父上?」

「さて……どうかな。内容を読む限りでは信が置けそうだが、会ってみねえことにはなぁ……つか、微妙に気になることも書いてあるし」


 内容自体はまあ、奇妙丸の予想がずばりと当たっている。

 とは云え領地安堵とかそう云うことではない。

 上杉景勝はそれこそ、領土が総て無くなっても良いと思っているらしい。

 自分を信長の直臣にして、御家存続を赦してくれるのならばそれで良いと。


「こりゃ内応と云うより……援軍要請とか救助要請の類だろ」


 上杉家を存続させるために織田の庇護に入りたいと云う思いもあるのだろう。

 しかし、文面から察するにそれよりも何よりも上杉を危機に晒す一番の敵。

 その者――上杉謙信を独力で排除出来ないから力を貸して欲しいと云っているようにしか見えないのだ。


「一番近いかっちゃんに送らなかったのは露呈を恐れて……つまり、それだけ本気って取ることも出来るな」


 内応をしたいと云うのであれば、先ずは勝家に打診するだろう。

 そこから彼を通じて織田家のビッグボスたる信長へ。

 しかし、それは同時に上杉方に露呈する恐れもあると云うこと。

 越前にも越中にも越後から送り込んだ間者が居るからもしも捕まってしまえば……。

 それゆえ、美濃に。しかも最短距離ではなく迂回するように。


「うーむ……」


 などと唸っているが、別に景勝のことを疑っているわけではない。

 ぶっちゃけもう確信はしている。

 上杉景勝と云う人間の心は完全に謙信から離れていると。

 でなくばこのように現状の上杉に対しての危惧や謙信への不信感が具体的に記せるわけがない。


 景勝の目的は謙信の排除、しかしそれは単独では難しい。

 だからこそ織田に支援して戴きたい、その暁には越後でも何でも差し上げる。

 代わりに直臣としてでも良いから上杉の御家を存続させて欲しい。

 景勝は純粋に家のためを思って行動しているのだ。

 これ以上謙信のような輩に家を差配させていては破滅待ったなしだから。


「(近々越中に大規模侵攻するらしいし、その際に協力をしてくれるように……ってか)」


 頭の中でぼんやりと絵を描いていく信長、ひとり放置された奇妙丸は所在なさげに外を見ていたのだが……。


「うお!?」

「どうした奇妙丸? って……カトー二号か」


 室内にダイナミックエントリーして来たのはカトーの子供たるカトー二号だった。

 カトー自身未だ現役バリバリだが、身体は一つしかない。

 各方面軍司令官の緊急伝達用にはカトーの子供達を渡している。

 子供達も父に負けず劣らず出来る鷹だ。

 何処の誰が使っているのかが分かるよう識別用に各司令官の家紋やらが縫いこまれた襟巻きをしている。

 信長が直ぐに二号だと分かったのは襟巻きに鬼の刺繍が成されているからだ。

 織田家で鬼と云えば一人しか居ない、柴田勝家である。


「どれどれ……って、おいおいマジかよ」


 内容は上杉が総力を上げて侵攻して来たと云うもの。

 何時もの小競り合いではない、此処で雌雄を決する気だと云う空気を勝家は感じ取ったのだろう。

 そして、いざと云う時は援軍を頼むとも書いてあった。


「(……景勝が書状をしたためた時点ではもう直ぐだったらしいが)」


 それにしたって景勝本人は一月二月だと思っていたのだろう。

 信長だってそう考えていた。

 しかし、タイムラグがあるとしても一月も経っていない。

 いない中でいきなり総攻撃を仕掛けることになったと云うのは謙信の独断だろう。

 謙信が云うならと家臣と云う名の信徒達も従った。

 この辺りの歪さは景勝にとっては唾棄すべきもので、だからこそ信長に助けを求めたのだが……。


「うーむ……奇妙丸、上杉が総攻撃仕掛けて来たらしいわ」

「真ですか!? 武田征伐が終わって間もないと云うのに……いや、今だからこそ?」


 直ぐに兵をかき集めろと云われてもそれなりしか集まらない。

 他の場所なら他の方面軍とも合流するからそこまで気にはならないが相手は軍神だ。

 さてどうしたものかと思案する信長。

 竹千代に援軍を求める気はない、あっちも武田征伐で増えた領土のあれこれと北条へ睨みを利かせているので動かせないのだ。

 同じ理由でタッキーもアウト。

 光秀やら半兵衛、長秀らにも――動かすわけにはいかない。

 となると、


「(景勝を利用するのが一番なんだが、どうやって活かそうか? 連絡手段もまだ整えてねえのに……)」


 本来ならば総攻撃を仕掛けるまでの期間に連絡手段を確立するつもりだったのだ。

 もっと早くに書状くれよと云うのは後の祭りだしそこを責める気はない。


「あ、いや待てよ。確か真田に大量の鉄砲を送ってるし……いやだが、景勝が留守番になるかどうか……」


 うーんと唸りながらも、良い手は他に浮かばない。

 であればしゃーない、即断即決。

 時間的猶予が無いならば即動くのが次善だ。


「(あー……これまでで一番面倒臭そうな戦になりそうだ……)」


 その予感は的中することになる。

 戦国最後の大戦、関ヶ原。それとはまた違った意味で信長にとって謙信との戦は忘れられない闘争になるのだ。

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