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【三年ぶりの再会と、強引なクレープの味】

【三年ぶりの再会と、強引なクレープの味】


平日の午後。

甘い香りに包まれた『Mrs.Charlotte LA MAISON』の店内は、学校終わりの女子高生や空き時間の大学生たちで賑わっていた。


パステルカラーのテーブルに向かい合って座る二人の前には、華やかにトッピングされたクレープとドリンクが置かれている。

持子はベリークリームチーズのクレープを幸せそうに頬張りながら、目の前で窮屈そうにブレンドコーヒーのカップを握る大男――高倉竜に首を傾げた。


「ねえ、竜は今何しているの? アメリカから帰ってきたってことは……えっと、高校生だよね? 今年卒業でしょう? 進学? それとも就職?」


「……は?」


竜はコーヒーを飲み込もうとした喉を詰まらせかけ、目を丸くした。


(まずは……そこからなのか?)


竜の頭の中に無数の疑問符が浮かび上がる。

彼が最後に持子の姿(正確には影持子だが)を見たのは、地下のダンジョンで彼女が『魔王・董卓』の気配を纏っていた時だ。


竜は、持子が七星宝剣の呪縛で一時期記憶喪失になっていたことも、ヨーロッパでの過酷な試練を経て、自分自身の肉体の誇りと『魔王・董卓』としての過去の罪をすべて受け入れ、精神的に覚醒していることも知らない。


三年ぶりの再会で、裏社会の死闘を繰り広げてきたはずの彼女が、まるで普通の女子高生のように『進学や就職』の話を振ってくることに、竜は激しく混乱していた。


そんな竜の困惑をよそに、持子は目をキラキラと輝かせて前のめりになる。


「アメリカではどうだったの? ほら、雪の日に別れた時、『俺はこれから強くなる』とか言ってさ! 格闘ゲームのキャラみたいに『強い奴に会いに行く』みたいなこと言って旅立ったじゃない? で、どうだったの?」


無邪気な質問に、竜は一旦混乱を脇に置き、不器用な手つきで頭を掻いた。


「……ああ。アメリカでは、西海岸のサンフランシスコから東へ渡り歩きながら、ストリートファイトをしていた」


「勝った?」


竜は持子の真っ直ぐな瞳を見つめ返し、静かに、しかし絶対的な自信を持って答えた。


「全部勝った」


「うんうんっ!」


持子は誇らしげに腕を組み、深く頷いた。

幼馴染が異国の地で無敗を誇ったことが、まるで自分のことのように嬉しいのだ。


(まあ、人間相手にはな……)


竜は心の内でそう付け足した。

アメリカで彼が相手にしてきたのは、裏社会の猛者だけでなく、悪魔やエクリプスに関連する化け物の類も含まれている。

続けてその死闘を語ろうと口を開きかけたが――竜はハッと周囲の気配を察知して口をつぐんだ。


平日の昼下がりとはいえ、ここは人が多すぎる。

悪魔やエクリプスといった裏社会の機密を口にするわけにはいかない。


「……持子は、どうなんだ?」


竜は話題を変えるように、静かに問い返した。


「わたし? わたしはね、竜と別れてから、立花雪さんのスカウトでモデルデビューよ!」


持子はえっへんと胸を張った。


「でもねー、札幌から東京に出てきて活躍するのって、なかなか難しくてさ。一年たっても中堅どまりだったのよ。やっぱり甘い世界じゃないよね〜」


「……今は世界的なスーパーモデルだろ?」


竜が呆れたようにツッコミを入れる。

竜はエクリプスの情報網などを通じて、彼女が世界的に有名なスーパーモデルであることも知っていた。


「あ、そっか。竜も知っててくれてたんだね!」


持子が嬉しそうに笑った、その瞬間だった。


「……ねえ、今の声聞いた?」

「嘘、『モデルデビュー』って……やっぱり恋問持子だ!!」

「ヤバい、めっちゃ美人! 写真撮って!!」


二人の会話を盗み聞きしていた隣のテーブルの女の子たちが、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。

それを皮切りに、平日のカフェにいた客たちの視線が一斉に持子へと集中する。


パシャッ! パシャシャッ!


瞬く間に、数台のスマートフォンのカメラが持子に向けられ、シャッター音が店内に響き渡った。


(あっ……!)


持子の心臓が跳ねる。

しかし、ヨーロッパで覚醒した今の彼女は、自分の肉体を『表現のための武器』だと自覚しているプロのトップモデルだ。

人前で写真を撮られたり、注目を浴びたりすること自体は、もう気にも留めないし、当然のことだと思っている。


問題は、そこではない。


(写真撮られるのはいいけど……これ、SNSに上げられたら一発で『一人で出歩いてる』のがバレるじゃん!!)


持子の脳裏に、社長の立花雪と、絶対的護衛の義妹・風間楓の顔が浮かんだ。


二人とも普段は優しく、持子を心から愛してくれているが、護衛もつけずに勝手に外出して騒ぎを起こしたと知れれば、どんなお仕置き(説教)が待っているか分からない。

怒った時のあの二人は、悪魔よりも怖いのだ。


(逃げなきゃ! 怒られるっ!!)


持子は目にも留まらぬ速さで、自分の手元にあったクレープを大口で丸呑みし、ドリンクを一瞬で飲み干した。


「なっ……!?」


一瞬で食事を消滅させた持子に、竜が驚愕の声を上げる。


「竜、早く食べて!」


「無理言うな!」


クレープはバナナやクリームがたっぷり詰まっており、武神といえど一秒で飲み込めるシロモノではない。


「もーっ! 貸して!」


持子は竜の手からバナナクレープをひったくると、自分が「嫌い」だと言っていたはずのバナナごと、残りを二口で強引に胃袋に押し込んだ。


「んぐっ……ご、ごちそうさまでしたっ!」


(うん、バナナ以外に美味しいかも)


「お、おう……あまり食ってないが、ごちそうさまでした……」


呆気に取られながら、竜も反射的に頭を下げる。


「行くよ、竜!!」


持子は竜の大きな手を再びガシッと掴むと、熱狂し始めた女子たちの群れを「ごめんなさいね〜」と言いながら神速の『体捌き』ですり抜け、店外へと飛び出した。


「タクシー! 乗って!」


大通りで運良く空車のタクシーを捕まえた持子は、巨漢の竜を強引に後部座席へと押し込み、自らも転がり込むように乗り込んだ。


「運転手さん、出して! 早く!」


タクシーが急発進し、カフェに群がる人だかりが遠ざかっていく。

持子はふぅっと深くシートに沈み込むと、雪が用意してくれた隠れ家の住所を運転手に告げ、隣でまだ状況が飲み込めていない竜を見て、小さく息を吐くのだった。


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