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第84話 『“推しバレ”危機──俺が原作者だと知られてはいけない』

──夕刻、我が家。


居間の空気が、重い。


 


「……さてと、そろそろ“話してもらおうかしら”?」


 


ソファに並ぶヒロイン三人。

正面には正座している俺、久慈川幸喜。

その隣で、妹・幸香が「♥」のついた湯飲みをすすっている。


 


(これが……公開処刑……!!)


 


 


 ***


 


事の発端は、昼間の**“キス未遂”事件**だった。


るりあの告白、校舎裏での密着、そして――

歩美の目撃、SNSへの流出。


校内は完全にパニック状態だったが、

それより深刻だったのは、ヒロインたちの疑念だった。


 


──なぜ、姫崎るりあは、こうきにここまで懐いているのか?


──なぜ、初対面のはずの声優が、こうきの“創作の癖”を知っているのか?


 


舞香が、冷ややかに口を開いた。


 


「……あなた。どうして先日の“朗読ブース”で、原作第5話のヒロイン台詞を“完璧に”暗唱できたんですの?」


 


「……あれは……その……記憶力が、たまたま良くて……!」


 


「そして、その場で“姫崎るりあさんが書いた手書き台本の加筆分”にも、“一字一句”修正指示を出しましたわよね?」


 


「そ、それは……演出家目線っていうか、アニメ愛っていうか……!!」


 


歩美も口を挟んでくる。


 


「こうき、あんたさ。最近ノートの端っこに**“作劇メモ”**増えてない?」


 


「『ヒロインが視線を落とすタイミングを0.3秒早めると没入度向上』って何? 怖いんだけど?」


 


玲奈も静かに問いかける。


 


「……どうして、るりあさんは、“第7巻の未公開プロット”に涙してたの……?」


 


「えっ!? そ、それは編集さんの事前情報が……!」


 


玲奈の目が細くなった。


 


「第7巻はまだ“発売してません”……」


 


 


 ***


 


──もうダメだ。


汗が止まらない。


心臓はとっくに臨界突破している。


脳内では、原作タイトルが走馬灯のように流れていた。


 


『俺はプロラノベ作家なのだが青春ラブコメが書けない』

『けど現実が濃すぎて筆が止まる件』

『俺のヒロインが声優と化したら全員殺気立った』


 


妹が、お茶をすすりながら言った。


 


「お兄ちゃん♥ そろそろ“開示”してもいいんじゃない?」


 


「なっ……おまっ、まさか録音とかしてないよな!?」


 


「あるよ? 朝からずっと」

「あと、るりあちゃんが“収録じゃなくて告白でした”って言ってた部分もクリア音質で録ったよ♥」


 


(さすがに闇が深すぎるだろこの妹ぉぉぉ!!!)


 


 


 ***


 


ヒロインたちの目が、一斉に俺を射抜いた。


 


「こうき……“ほんとのこと”、話しなさい」


 


その言葉は、まるで最終話のセリフのようだった。


 


だけど。


 


俺はまだ、言えなかった。


 


(言ったら終わる──いや、“全部”変わってしまう気がする)


(今はまだ……バレちゃいけない)


 


だから、俺は言った。


 


「ちがうんだ。俺は……ただの、オタクだよ。

創作好きな、しがない一高校生だよ……!」


 


静まり返る空間。


 


──が、その静寂を破ったのは。


 


「ふふっ……そろそろ“本当の正体”、見せてあげようか?」


 


背後のドアが開き、立っていたのは──


 


姫崎るりあ、だった。


 


るりあ「……あなたたち、まだ気づいてなかったの?」


 


るりあ「久慈川幸喜くんこそ、私の“運命の原作者”なのよ♥」


 


 


 ***


 


教室に響く、女子たちの無言の爆発。


 


歩美・舞香・玲奈「……………………は?」


 


俺「ちがああああああああう!!」


 


幸香「ついに♥“地獄編”開幕だね♥」

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