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第76話 『正座説教──“うちの息子で何してくれてんの?”』

──午後二時。久慈川家・和室。


 


「──全員、そこに並んで正座な」


 


バシッ!


 


座卓の上に叩きつけられた団扇うちわの音が響く。

その前に正座しているのは、歩美、舞香、玲奈、そして妹・幸香。


 


彼女たちを取り囲むように、

母・静江の「女の眼力がんりき」が雷のように降り注いでいた。


 


俺はというと──


 


廊下に立たされていた。


 


(な、なんで俺まで……!)


 


 


 ***


 


ことの発端は今朝、庭の物干し竿で起きた“パンツ天日干し事件”の延長だった。


 


母が発見→嘘の言い訳(介護パンツ)→バレる→説教案件へ直行。


 


そして現在、ヒロインたちによる“事情聴取”が始まろうとしていた。


 


 


 ***


 


「……で、うちの息子に何してくれてんの?」


 


静江の声は低く静か。

だが、全員の背筋を凍らせる威圧感に満ちていた。


 


歩美が手を挙げ、震えながら口を開く。


 


「……な、何も……してないです……ちょっと、こうきの布団に潜ったり、勝手に膝枕したり、パンツを干したりしただけで……」


 


「十分やらかしとるがな」


 


バシッ(団扇炸裂)


 


歩美「すみませんでしたああああああ!!」


 


 


続いて、舞香。


 


「私は貴族としての礼儀と誇りを持って、婚約候補者として接しているだけでして……っ」


 


「ほう。“貴族”ねぇ。つまり“本気”やってことやね?」


 


舞香「……はい。一夫一妻制とは、戦で勝ち抜くものですから!」


 


「戦場にパンツ持ち込むなぁああ!!」


 


バシッ!!


 


舞香「ぎゃあああ!!」


 


 


続いて、玲奈。


 


「わたしは……ただ見てるだけで……でも、ちょっとだけ……においを嗅いだり……触ったり……お風呂の……残り湯で……」


 


「お祓い呼ぶぞアンタ」


 


バシッ!!


 


玲奈「ありがたき……っ」


 


(こいつだけ悟り開いてる……!?)


 


 


 ***


 


そして最後に、妹・幸香。


 


静江は、娘にだけ少し穏やかな口調になった。


 


「アンタなあ……兄妹で、あんだけべったりして……どういうつもりよ?」


 


幸香は、にこっと笑って答えた。


 


「うん♥ 私はね、“お兄ちゃんの性欲を管理する係”だから!」


 


……。


 


……。


 


……沈黙。


 


歩美「……え?」

舞香「……せ、性欲を……?」

玲奈「……か、管理……?」


 


静江「……管理って、どういう意味で?」


 


「え? ちゃんと“発情日記”つけてて、兄が暴走しそうなときは“口封じ”するっていうか♥」


 


歩美「封じるなッ!!」

舞香「倫理の墓場ッ!!」

玲奈「……ある意味、プロの管理者……?」


 


母はしばらく絶句してから、ボソッと呟いた。


 


「……あの子、無敵すぎて怖いわ……」


 


俺(同意しかない……!)


 


 


 ***


 


【10分後】


 


母は全員を見渡し、言った。


 


「──じゃあ、ハッキリさせようか。“正妻”は誰?」


 


全員の顔が引きつった。


 


歩美「え、いきなり!?」

舞香「投票ですか!?」

玲奈「仏前でやりませんか?」

幸香「私は別枠で♥」


 


静江は無言で湯飲みを啜った。


 


「誰でもええ。けど、アンタら全員が“本気”なら、それぞれ“覚悟”決めとき」


 


そして、俺の方を見た。


 


「幸喜。お前は──自分が“どうしたいか”くらい、言葉にしなさい」


 


母親として、ではなく。

“ひとりの女”として、静江はそう言ってくれた。


 


俺は小さく頷くしかできなかった。


 


(……選ぶって、やっぱり怖い。でも……)


 


(逃げてばかりじゃ、誰も幸せにならない)


 


 


 ***


 


その夜。


 


縁側で、ヒロインたちはそれぞれひとことずつ、俺に言った。


 


歩美「……私は、正妻でもそうじゃなくても、こうきが笑ってくれたら、それでいいや」

舞香「わたくしは“奪い取る側”ですので♥」

玲奈「一番静かに、一番長く、一番深く……繋がっていたいんです」

幸香「私は“家族”から、“恋人”へ変わる計画、進行中だから♥」


 


俺は――また迷う。


けれど、この迷いも、ラブコメの一部だ。

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