第6話 『おっぱいのサイズで、世界が揺れる』
すべては、一本のツイートから始まった。
【久慈川幸喜@書籍化済】
「おっぱいチッパイ夢いっぱい(深夜テンション)」
#萌え #ヒロイン論 #寝落ち前の妄想
──たったこれだけ。
たったこれだけなのに──
翌朝、俺のTwitter通知欄は火の海と化していた。
「え? なんか炎上してる???」
まだパジャマ姿のまま、スマホ片手に目を擦る。
画面には、知らないユーザーからの引用RTがずらりと並ぶ。
「やっぱり貧乳は正義派か!分かってる!」
「え、いやいや、おっぱいは大きくてナンボでしょ」
「どっちでもいい!問題は“形”!!」
「ラノベ作家ってこういうツイートするの!? 夢あるな」
「おっぱい格差社会を肯定する発言に思えたので通報しました」
(通報は勘弁してくれ……!!)
それだけではなかった。
“あの人”からのリプライが、俺の世界を震わせた。
【IRM@イラスト担当】
『大きい方が至上の一品です(真顔)』
「えっっっっっ!?」
思わずスマホを落としかけた。
IRM先生──俺のラノベのイラストを担当している、あの超有名絵師から直リプ。
しかも主張がガチ。
(いやいやいやいや、先生!? この話題に乗ってくる!?)
実は、IRM先生とは未だに顔を合わせたことがない。
やりとりは基本メールと編集者経由。
だけど、俺の作風に惚れ込んでくれたらしく、戦国武将×美少女アレンジの天才だ。
そのIRM先生が、よりにもよって「おっぱい論争」に参加──!?
(ってか、絶対RTで広がってるじゃん……やば……)
そのとき、部屋のドアがバン!と開く。
「幸喜!! お前、何やらかしたの!? 朝から通知うるさすぎるんだけど!!」
怒鳴り込みに来たのは、もちろん──幼なじみの袋田歩美。
「いや、俺はただ……“おっぱいチッパイ夢いっぱい”って……」
「うるさいわ!!! 何それ!? 完全にアウトでしょ!!?!」
「っていうか何? 私のこと見てた!? ねぇ、昨日のタオル姿で“チッパイ”確信したの!? 言ってみなさい!!」
「待って待って落ち着いて!! 深夜テンション! あれは深夜テンションだから!!」
「深夜テンションでおっぱい語るなぁぁぁあああ!!!」
拳骨を食らう俺。
──その叫び声を聞いて、もうひとりがやってくる。
「おっぱい論争……兄妹としても、見過ごせないわね」
現れたのは、妹・幸香。
完全寝起き、髪ボサボサ、手にスマホ。
「……兄のおっぱいツイート、記録済み。即保存。スクショフォルダ『乳発言』に追加しておくね」
「そんなフォルダ作るな!!!」
「あと、歩美さんは自分で“チッパイ”って言ってるけど──本人の採寸、私は知ってる」
「は!? なんで!?」
「だってお風呂の時、記録用に毎月──」
「ストーップ!!!」
──地獄。
おっぱいひとつで地獄。
ていうか、俺の家、普通の高校生男子の空間じゃねぇ……。
***
場所は変わって、東京・市ヶ谷。
ライトノベル編集部──その片隅。
デスクの前で、**編集担当・渋谷利雅**が頭を抱えていた。
「はぁ……またこいつだよ……」
彼の目の前にあるのは、俺のツイートが引用された**“まとめサイトのスクリーンショット”**。
【人気ラノベ作家「おっぱいチッパイ夢いっぱい」と謎の発言 → フォロワー爆増中】
【イラスト担当も参戦!今、ラノベ業界に“乳の波紋”が広がる】
「いやいやいや……こんなことで名前広めてどうするのよ……!」
と、そこに社内チャットがピコーンと鳴る。
【上司より】
『久慈川先生の作品、今朝から電子書籍が妙に売れてるんだけど、何かした?』
「……おっぱいです」
そうは言えず、渋谷は“理由不明”とだけ返しておいた。
彼の中で確信だけが育つ。
「この作者、絶対童貞だろ……」
***
その夜、俺は久しぶりに小説を書こうと机に向かっていた。
原稿ファイルのタイトルは【青春ラブコメ2025春改訂案】。
画面には、1ページ目に一行。
ヒロインA「私のおっぱいは、夢でできてるの」
「……うん、これダメだわ」
頭を抱える。
現実の方が、ヒロインたちの“おっぱいパワー”強すぎるんだよ。
歩美は真面目に怒ってくるし、
幸香は記録魔でフェチすぎるし、
磐城は突然“布面積”の少ない薄い本持ってきそうだし、
舞香(未登場)は絶対そのへんの常識ぶっ壊してくる。
「もはや“おっぱいの呪い”かよ……」
けれど、ふと思う。
(……こういうことも含めて、“リアルな青春ラブコメ”なんじゃねぇの?)
Twitterでバズった“あの言葉”が、頭をよぎる。
──おっぱいチッパイ夢いっぱい。
馬鹿みたいだけど、ちょっとだけ、
青春の端っこを掴んだ気がした。




