第56話 『幸喜、限界──女体と布団の狭間で』
──それは、発熱の朝だった。
「……あれ?」
目覚めた瞬間、まず感じたのは、異様な体の重さ。
体温がこもって、全身がふわふわしている。
喉がカラカラで、頭がぼんやりする。
「お兄……ちゃん……? 目……覚めた……?」
視界の端、冷却シートを持った妹・幸香の顔が映った。
「やっぱり……熱、ある……!」
次の瞬間──
「非常事態発生!“兄、倒れる”!看病体制を整えよぉぉぉおおお!!」
宿全体に響き渡る妹の絶叫が、
地獄の始まりだった。
***
【看病合戦、開幕】
最初に駆け込んできたのは、歩美。
「氷枕! 濡れタオル! スポーツドリンク!……あと冷えピタはどこ!?って幸香、そこ邪魔!!」
「妹の特権ゾーンです! 兄の額にタオル置くのは私の役目なんです!!」
「知らんがな!! 首筋のタオルは私の担当!!」
続いて、舞香が医療用トレーを持って登場。
「熱さまし座薬を用意しました。挿入は……誰が?」
「やめてください! この人たち未成年です!!」
さらに、玲奈が静かに登場。
「……先輩。汗、かいてますね。
……着替えさせますね。脱がします」
「お願いですから落ち着いて!?!?!?」
【ベッド周囲:戦場化】
布団の左に歩美、右に幸香、足元に舞香、頭上に玲奈。
まるで俺を取り囲む布陣が完成していた。
俺は横たわったまま、動けない。
というか、動いたら誰かの胸か太ももに触れる配置になってる。
(これは……看病じゃない。人間兵器の配置だ……)
「水……飲む?」
妹がストローを口に差し出す。
「口、開けて?」
(幼児か俺は!?)
歩美がひとつため息をついて、
「熱のときくらい、甘えていいのよ……バカ」
と、俺の手を握った。
その瞬間──
(あれ……?)
急に、脳裏をよぎった。
熱に浮かされていた深夜。
布団の中。
ほんの一瞬。
──ふわりと触れた、唇の感触。
(まさか、あれ……キス……だった……?)
熱でぼんやりした意識の中に残っていた記憶。
でも、誰かはわからない。
玲奈か?
歩美か?
妹なのか……まさか、舞香……?
俺は体を起こして、皆を見る。
「なあ、俺が寝てるとき──なにか、した?」
四人は同時に目を逸らした。
「……なにも」「知らない」「証拠は?」「いや……ただのおままごと♥」
「やったんかい!!!!!!」
***
その夜。
一人きりで布団に戻った俺は、天井を見上げていた。
(あのキスの正体……いつか暴かねばならない)
だが同時に、
このラブコメ合宿、まだまだ終わらないことも確信したのだった。




