第48話 『雪の中の妹──すれ違い、そして再会』
風が冷たい。
山を登るたびに、吐く息が白く染まっていく。
雪が、ちらちらと舞い始めていた。
目的地は、北浜町の山中に残る──廃神社跡地。
誰にも知られず、もう参拝者も来ない。
それでも「幸せを願った人々の想いだけ」は、まだそこに残っているようだった。
歩美、舞香、玲奈は山道で待機し、
俺──久慈川幸喜は、ひとりで神社へと向かっていた。
***
「……いた」
境内の端。崩れた石段の上。
雪に濡れながら、
膝を抱えて座り込む少女がいた。
久慈川幸香。
制服のまま。
コートも着ず、足も赤くなっていた。
なのに、顔だけは上げていた。
まるで、
この空に“答え”を探すみたいに。
俺は、ゆっくりと歩き寄る。
一歩、また一歩──
そして、足音に気づいたのか、彼女がこちらを向いた。
その瞬間──
「……っ、お兄ちゃん……来ないで……来ないでよ……っ!!」
幸香が、震える声で叫んだ。
「来たら……っ、あたし、本当に、壊れちゃうから……っ!」
「期待、しちゃうから……また、夢見ちゃうから……!」
***
俺は歩みを止めなかった。
踏みしめる雪が、しゃくりと音を立てる。
「……やっと見つけたんだ。
こんなところで、ひとりで凍えて。……馬鹿か、お前は」
「いい加減にしろよ。
“消える”なんて言葉、俺の前で、もう二度と口にすんなよ」
「でも……だって……っ、あたしは、“選ばれない”から……!」
幸香の目から、涙があふれる。
「妹だからって……ダメなんでしょ!? “好き”になっちゃいけないんでしょ……!?
だったら、いっそ全部消えて、いなくなったほうが……!」
「じゃないと、あたし、もう“妹”をやめられない……!」
***
俺は、彼女の前に立ち、
しゃがみ込んで、目線を合わせた。
「幸香」
「……俺は、もう“選ばなきゃ”なんて、思ってない」
「誰が“正妻”で、誰が“ヒロイン”か──そんなの、物語の都合だ。
でもな──お前だけは、消えちゃダメなんだよ」
「物語がどうあれ、ラブコメがどうあれ──
俺にとって、お前は……ちゃんと、大切な人なんだ」
「選ばなくていい。だけど、
お前だけは、絶対に消すな」
***
その瞬間──
「……っ、うわああああああああああん!!!!」
幸香が、しゃくり上げて泣き叫んだ。
震える手で顔を覆いながら、雪の中で、声を上げて泣いた。
「お兄ちゃん……っ、
お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃああああああああん!!!!」
その声は、空に響くようだった。
長く凍えていた想いが、ようやく溶け出すように。
俺は、そっと手を伸ばし──
泣きじゃくる妹を、ぎゅっと、胸に抱きしめた。
「……帰ろう。
馬鹿妹でも、好きな人にちゃんと会える場所へ」
***
その夜。
俺と幸香は、ふたりで鍋を囲んだ。
何も言わなくても、あたたかかった。
隣で笑う幸香がいるだけで、もう充分だった。
たとえ、答えが見つからなくても。
“好き”を伝えて、
“大切”を確認して、
“想い”を消さなかった。
それが、今日の唯一で最強の結末だった。




