第45話 『妹の逃走──消えた指輪と、最後の手紙』
──文化祭、最終日。
校舎の喧騒がゆっくりと終息へ向かう中、
俺はなぜか、“彼女”の姿がどこにもないことに気づいた。
「……あれ? 幸香……?」
いつもなら、イベント会場でも教室でも、
あるいは俺の影にすらくっついている“あいつ”が──
どこにもいない。
***
下駄箱にも、図書室にもいなかった。
屋上にも、展示棟にも、体育館の裏にもいなかった。
部室棟の隅、給湯室、備品庫の中まで探した。
だけど──いない。
俺の中で、明確に「おかしい」と感じたのは、
帰宅して、玄関を開けた瞬間だった。
──空気が、違う。
誰もいないはずなのに、
俺の心だけが騒いでいた。
居間を通り、台所を抜けて──
自室に戻ると、机の上に白い封筒が置かれていた。
隣には、小さなジュエリーボックス。
中身は──
あのとき、文化祭ステージで渡されかけた銀色の指輪だった。
***
封筒には、俺の名前。
震える手で開いた中には、ただ一枚の便箋。
幸香の、丁寧な文字で綴られていた。
お兄ちゃんへ
文化祭、いっぱい迷惑かけちゃったね。
怒ってるかな。……呆れてるかな。
あたしね、ずっと“妹”っていう特別な場所に甘えてた。
“家族だから”って、近くにいられることを、当たり前に思ってた。
でも、お兄ちゃんが“誰かを選ばなきゃ”って思い始めてから、
その場所が、だんだん、怖くなったの。
“妹だから”ってだけじゃ、きっともう選ばれないって。
でも、それでもね。
あたしの“好き”は止まらなかったんだ。
好きが、全部になっちゃって、ごめんね。
あたし、しばらく一人になります。
探さないで……って言いたいけど、
……きっと、探してくれるって思ってる。
それも、あたしの“わがまま”だよね。
じゃあね、お兄ちゃん。
幸香より。
***
目の前が滲んだ。
言葉が、喉に引っかかった。
そのとき──
部屋のドアがノックされた。
「幸喜っ!! 大変よ!!」
「幸香ちゃんがいないって、みんなが──!」
「情報班によると、駅の方角に向かった形跡あり! これは、逃走パターンかと!」
──歩美、舞香、玲奈が、血相を変えて部屋に飛び込んできた。
俺は無言で、指輪と手紙を差し出した。
それを見て、3人の顔色が一気に変わった。
「……消える、って……何それ、ふざけんなよ……!」
歩美が、声を震わせていた。
舞香は眉を寄せ、手紙をじっと見つめる。
玲奈は、そっと拳を握って呟く。
「この“好き”は、まだ終わってない。
なら、終わらせる前に──ちゃんと、見つけましょう」
***
こうして──
俺たちは動き出した。
妹・幸香を追うために。
あの、ひとりきりで“消えようとした少女”を──
彼女の気持ちに、答えるために。
「行こう。俺は、もう逃げない」
“選ぶ”ためじゃない。
“向き合う”ために。
俺は、幸香を──もう一度、見つけ出す。




